相続の基礎知識1 - 親子・家族間トラブル - 専門家プロファイル

能瀬 敏文
能瀬敏文法律事務所 所長
大阪府
弁護士

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対象:民事家事・生活トラブル

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1 法定相続分、特別受益、寄与分、遺留分、具体的相続分の基礎知識

 「法定相続分」、「特別受益」、「寄与分」、「具体的相続分」等は、相続のことを考えるに際して理解しておいて頂きたい言葉です。相続分は、法定相続分を基本としつつも、特別受益、寄与分等により修正・計算したうえで、具体的相続分を出さなければなりません。そこで、これらの言葉の意味、具体的相続分の計算の仕方を簡単に説明してみたいと思います。

 

①相続とは?

 相続とは、

 a.ある人(被相続人といいます)が死亡した瞬間(!)に、

 b.民法に定められた一定の範囲の関係者(法定相続人といいます)に、

 c.被相続人の財産上の権利と義務(借金など)が、

 d.包括的に(選り好みの余地無く)、

 e.また、何らの手続も意思表示も必要とせず、

 引き継がれることを言います。

 

 よく、「お父さんが亡くなったが、家はお父さんの名義のままで、まだ相続していない」などと言う方がいますが、前記したとおり、法律上、お父さん(被相続人)が亡くなった瞬間に、好むと好まざるとにかかわらず、相続は開始しているのです。

 土地、建物、預金等のプラスの財産なら、しばらく放っておいても良い場合もあるでしょうが(但し、相続税がかかる場合は、申告期限がありますから放っておくわけにはいきませんが)、借金等マイナスの財産(マンションやゴルフ会員権等、プラスの財産価値もあるが、管理費や会員費を支払わなければならないという意味でマイナスの側面もある財産もありますので注意!)を知らない間に引継いでしまうこともあるので、やはり、相続財産(遺産)は、よくよく調べないといけません。

 マイナスの財産がプラスの財産より明らかに多い場合は、原則3ヵ月以内(家庭裁判所が延長を認めてくれれば、その延長期間内)に家庭裁判所に「相続放棄」の手続をとるべきでしょうし、プラスとマイナスのどちらが多いか分らない場合は、やはり、家庭裁判所に「限定承認」の手続をとるべきでしょう。

 

②法定相続人・法定相続分

 a 法定相続人

     結婚して配偶者がいる場合は、配偶者が常に法定相続人となります。

配偶者以外の法定相続人の順位は次のとおりであり、子がいない場合は直系尊属、子も直系尊属もいない場合は兄弟姉妹が配偶者と共に相続人となり、以上の誰もいない場合は、相続財産(但し、プラス分のみ)は手続を経て国のものとなります。

    まだ相続が開始していない間(存命中)は、「相続が開始したら法定相続人になるであろう人」を「推定相続人」といいます。

     第1順位 子(養子・胎児含む)

    第2順位 両親、祖父母等直系尊属(親等の近い者優先)

 第3順位 兄弟姉妹

 

 *代襲相続人

    子や兄弟姉妹が生きていれば相続人になったはずなのに、これらの推定相続人が被相続人より先に亡くなってしまった場合、推定相続人の子(被相続人からみると、推定相続人が子の場合は孫、推定相続人が兄弟姉妹の場合は甥や姪)が推定相続人の法定相続分の範囲で相続(代襲相続)する場合、孫や甥・姪を代襲相続人といいます。もし、孫も先に亡くなっている場合は、ひ孫が代襲相続人となりますが甥・姪は一代限りです。

   なお、日本では配偶者は代襲相続人となれません。

 

 **養子・胎児

    養子は実子と同じ権利を持った相続人となります。相続税の計算上の養子の人数制限は、民法上は無関係です。

    胎児の相続権は、実際に生まれてくることが条件となっており、死産の場合は相続人から除外されます。

 

b.法定相続分は、

   配偶者1/2、子1/2

   配偶者2/3、直系尊属1/3

   配偶者3/4、兄弟姉妹1/4

   です。

 

*民法の条文上は、非嫡出子は摘出子の1/2ですが、平成25年に最高裁の違憲判決が出たため、現時点では平成13年以降の相続については、相続分は平等ということになりました。

 

**法定相続分は、権利主張のMAXを規定するものです(マイナス財産は別)。従って、各相続人の意向により、プラス財産の取得分を縮小するのは自由です。

 

③特別受益

 

共同相続人の中に生計の資本等として生前贈与・遺贈等を受けた者がいるときは、これを相続の前渡し分とみて具体的相続分の計算に加えます。これを特別受益といいます。

 

*不動産やオーナー会社の自社株等事業用資産は、原則的に「生計の資本」に該当します。

 

**特別受益の計算上の生前贈与等の時期は無限定です。

  遺留分の計算に関しては1年以内ですが。

 

***生命保険金、死亡退職金は相続財産ではないが、特別受益に含まれるか?

   受取人を「法定相続人」とせず、推定相続人の中の特定の人を受取人とする生命保険金は、原則は、含まれません。しかし、「含まれる」とする裁判例があります(遺産に比べて生命保険金の割合が大きい場合など)。

   死亡退職金は、多数説は「相続財産である」としますが、裁判例は分れています。

 

****特別受益者は持戻し計算(特別受益を相続開始時の相続財産の評価額に加える計算)を要しますが、もらい過ぎの分を吐き出す必要はありません(具体的相続分がゼロになるだけ。後述します)。

 

*****被相続人が「持戻し免除の意思表示」をすると、特別受益分を相続財産の評価額に加えなくて良い(相続財産の先渡しと見ない)ことになります

この意思表示は、生前でも遺言でも可能です。但し、遺留分は侵害できません。

 

④寄与分

 

共同相続人のなかに相続財産の維持又は増加に特別の寄与をした者があるときは、相続財産から寄与した部分を控除し、残りを相続財産とみなして具体的相続分を計算します(寄与者は、具体的相続分+寄与分を取得)

 

 *配偶者は法定相続分において相応の寄与は考慮されているものと考えられるので、寄与分の主張は一般的に認められにくいのが実務の扱いです。

 

 **遺言で相続分等が決められていた場合は、寄与分は考慮されません。

 

 寄与分の主張は、経営者や農家の方、また最近は介護・看取りをした方がされることが多いのですが、「寄与」を「○○万円」という金額で表さなければならないため、その立証は難しく、家庭裁判所で認められることは稀です。但し、介護の場合は、介護保険上の対価を参考として計算できることがあるかもしれません。

 

⑤遺留分

 

兄弟姉妹以外の法定相続人に対する最低保障分であり、遺言や前記の払戻し免除の意思表示によっても奪うことはできません。

その割合は、直系尊属のみが相続人の場合:遺産の1/3

それ以外:遺産の1/2

 となっています。端的に言うと、配偶者や子が相続人の場合、遺留分は法定相続分の1/2となります。

 

*前記のとおり、兄弟姉妹には遺留分はありません。

 

**遺留分の計算上、相続財産に加えられる財産は、遺贈、死因贈与のほか、次の贈与等(不相当な対価を以てする有償行為も含まれる)も含まれます。

・相続開始前1年以内のもの 

・被相続人と贈与等をしてもらった相続人の双方がその贈与等によって他の相続人の遺留分を侵害することを加えることを知ってしたもの(時期は無制限です)。 

・共同相続人に対する特別受益(最高裁判例。公平を図るため。)

 

***遺留分減殺請求をすると、対象遺産が当然に共有状態になります。

  イメージが分りにくかったと思いますので、次には、これらを使って、具体的な計算例を示してみたいと思います。

2 法定相続分、特別受益、遺留分、具体的相続分の具体的計算

 

前記の説明をベースに、具体的相続分等の計算例を示します。

 

i)法定相続人 子4人(全員嫡出子)

 

 被相続人 父  (配偶者は被相続人より先に死亡)

 相続人 子1、子2、子3、子4

 

 ii)経過 

 

子1は被相続人オーナー経営会社の後継者

    

S55 子1入社

 

S58 子1専務取締役。被相続人から自社株贈与(特別受益:当時の価額1000万円)

 

 同年、被相続人から子2に自宅購入資金2000万円贈与

 

H11 配偶者死亡

    

H15 被相続人死亡

 

    相続開始時の遺産は、時価1億円。(自社株評価額4000万円。その他の事業用資産の評価額4000万円、その他資産2000万円)、債務はゼロ。

 

H20 遺産分割

 

iii)具体的相続分の算定=遺産、特別受益の相続開始時点における評価額を出します。

但し、特別受益の持戻免除の意思表示はないものとします。

 

ア)遺産      1億円

 

イ)S58の子1に対する贈与(株)1000万→6000万(企業価値向上)

 

ウ)S58の子2に対する贈与(資金)2000万→2500万(消費者物価指数換算)

上記イ)ウ)の生前贈与を持ち戻すと、具体的相続分計算のための相続財産は、

 

1億円+6000万円+2500万円=1億8500万円

 

となります。

 

   エ)各人の具体的な相続分の計算

 

子1 1億8500万×1/4-6000万円=△1375万(=もらいすぎ。

 但し、遺留分を侵害していなけ

れば、もらいすぎ分を、返さな

くてよいので、具体的相続分は0円。)

                   

子2 1億8500万×1/4-2500万円=2125万

                   (特別受益)

子3 1億8500万×1/4=4625万円

子4 1億8500万×1/4=4625万円               

    

               1億1375万円

 

∴各人の1億円の遺産に対する具体的相続分は、

 

子1 0/11375=0%

子2 2125/11375=18.8%

子3 4625/11375=40.6%

子4 4625/11375=40.6%

       合計     100%

 

次に、遺産分割時(平成20年)に、遺産の評価額(時価)が1億2000万円となっていたとすると、法定相続分に従った各人の取得財産は、

子1 1億2000万×0%=0円

子2 1億2000万×18.8%=2256万円

子3 1億2000万×40.6%=4872万円

子4 1億2000万×40.6%=4872万円

 

              合計     1億2000万円

 

*子1は贈与時点において子2の1/2の価額の贈与しか受けておらず、しかも、その後、会社の企業価値向上に貢献したのに、具体的相続分は0円。これに対し、より多くの生前贈与を受けたはずの、子2は、遺産を相続取得できる!

また、不動産を贈与した場合とその購入資金を贈与された場合とでは具体的相続分の計算が異なってきます。

 

オ)寄与分が認められた場合の具体的相続分の計算例(以下、説は分かれます)

 

子1に寄与分(主として、遺産中の自社株の価値増加に貢献)が認められ、0、2とされた場合は(但し、特別受益の額からして寄与分が認められることは難しいですが)、

 

1億円×(1-0.2)+6000万円+2500万円=1億6500万円

 

がベースとなり、各人の具体的相続分及び子1の寄与分は、

 

子1 1億6500万円×1/4-6000万円+2000万円=125万円=1.25%

子2 1億6500万円×1/4-2500万円=1625万円=16.25%

子3 1億6500万円×1/4       =4125万円=41.25%

子4 1億6500万円×1/4       =4125万円=41.25

 

             合計          1億円 =100%

となります。

 

カ)子1の寄与分が認められず、遺言がある場合の遺留分の計算例

 

また、子1の寄与分が認められず、遺言があり、全遺産を子1に取得させるという子1に最も有利な内容であったとすると、遺留分侵害の有無、金額は、

 

子2 1億8500万円×1/2×1/4―2500万円=△187.5万円⇒遺留分侵害されていない

子3 1億8500万円×1/2×1/4=2312.5万円

子4 1億8500万円×1/2×1/4=2312.5万円

 

となり、子3と子4が子1、子2に対し、遺留分減殺請求をなしうることになります。

 

次に、子3、子4の、子1、子2の取得財産に対する各具体的遺留分は、次の計算によります(最判H10.2.26による)。

 

イ 子1の取得財産 1億円+6000万円=1億6000万円

→子1の遺留分超過額は1億6000万円-2312.5万円=1億3687.5万円

                    (遺留分) 

ロ 子2の遺留分超過額は上記のとおり187.5万円

 

ハ 子1、子2は、上記の遺留分超過額の割合に応じて、子3、子4の遺留分を負担することになります。

 

ニ 子3、子4の各遺留分減殺額の割付 

 

 子1に対して 2312.5万円×1億3687.5万円/1億3687.5万円+187.5万円

        =2281.3万円

 

  子2に対して 31.2万円

 

ホ よって、子3、子4の子1、子2の取得財産に対する各具体的遺留分(共有持ち分)は、次のとおりとなります。

 

 子1に対して 各々、

遺留分減殺請求の順序は、遺贈→贈与(順に遡る)ですから、子3、子4は、子1が遺言により取得した1億円の遺産に対して22813000/100000000の共有持分を取得することになり、

 

子2に対して、各々

312000/100000000の共有持分(現金贈与なので現金)を取得することになります。

 

 

*なお、遺言ではなく、全財産が子1に生前贈与された場合でも、遺留分を侵害するような寄与分の算定は妥当でないとされているので(最高裁事務総局。但し、争いあり)、子1の寄与分によって、子3、子4の遺留分を縮小することは認められない可能性が高いです。

 

**子3、子4は、子1の遺留分侵害に応じて、遺留分減殺請求をなし得ます。遺留分減殺請求をすると、遺産の共有状態が生じます。

 

***減殺請求の順序は、遺贈→贈与(民1035)。順に遡ります。

 

⑥上記のように、中小企業のオーナー経営者の場合、その財産(遺産)を評価額ベースで考えると、その大半は自社株等、後継者が経営権を承継するために必要不可欠なものが占めるという実態があり、一方、経営承継には自社株等事業用資産の後継者への集中を要します。

そうすると、たとえ遺言や生前贈与等の対策をとったとしても、他の共同相続人が遺留分を主張すると、経営の承継に困難を来すこととなります。

また、特に、生前贈与を受けた株式等の評価額が、具体的相続分の計算に当り、相続開始時点の時価に引き直されると、企業価値ないし株式時価の増大に貢献した後継者の経営努力が却ってアダになるという不合理が発生し、企業の発展・成長を図ろうとする逆インセンティブが働くおそれもあり、また、株式名義の分散等経営の承継に望ましくない事態も招来し易いです。

遺留分は、遺言(遺贈、相続分、分割方法の指定等)、寄与分、特別受益の持戻し免除の意思表示に勝る強力な権利です。遺留分放棄の制度もありますが、家庭裁判所の許可制であり、相応の対価の先渡しや遺留分放棄者以外の相続人が相応の負担を引受ける、あるいは放棄者の生活レベルが高い等合理的理由を要します(20%くらいが却下)。また、事情変更による許可後の職権取消があり得ます。

また、遺留分減殺請求によって自社株(遺産株)が共有となると、共有者間の協議により権利行使者を定める必要があり(最判H9.1.28によれば、持分多数決。但し、会社法106条但し書参照)、議決権行使に支障が生じることも考えられます。

 

*寄与分による解決は?

 上記のとおり、遺留分を侵害する寄与分の定めは認められないほか、一般に、後継者が、企業の発展に貢献したとしても、それは会社の役員・社員として当然のことであり、具体的相続分の修正要素にはならないことが多いです(報酬・給与によって報われています)。

 給与等が著しく低い場合は寄与分とみる余地もありますが、「適正」の推定が働き、働きに比べて著しく低いことや、適正額との差額立証は不可能か著しく困難です(寄与を貨幣的価値に換算するのが通常は困難)。

 逆に言えば、報酬(ストックオプション含む)が高額でも、原則として特別受益にならないと考えられるのだから、報酬を高額に、また、承継者に別会社を作らせて利益を流す等の対策も考えられます。

 しかし、そもそも、企業の成長・発展が、後継者の努力によるものかが不明です(外部要因や社員の頑張り等もあります)。

 

**なお、遺産の漏れがない遺言があれば、寄与分は考慮される余地がありません。従って、寄与分の問題は遺言によって解決されます。

 

(2)そこで経営承継円滑化法は、自社株等事業用資産の後継者への集中を可能とするべく、遺留分に関し、民法の特例を認めることとしました。

 これについては、また別途説明します。

 

 

「相続」に関するまとめ

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