- 井上 みやび子
- すぐ使える株式会社 代表取締役
- 東京都
- Webエンジニア
対象:ビジネススキル研修
今日は少し過去と未来の話をしたいと思います。
2005年10月1日付けの古いブログに、私はこんな事を書いている。
「一人で営業しています」、というと(...)やはり「起業されたんですか~」という見方をされることが多いです。自分としては「起業した」という感覚は余り無く、「自分のやりやすいように曲がっていったら、いつのまにか一人になっていた」というのが正直なところです。 |
私はこの当時も一人でコンピュータプログラムを書いては売って生活を立てていて、そして、今でも、一人でプログラムを書いては売って生活を立てている。形式的には登記をして株式会社になったが、内実は変わらない。
そして、この生きる方法には未だに名前が無い。
2005年当時でも、個人で専門業務を請け負う「インディペンデントコントラクター」という名前と業務形態はあった。そして、2013年の今、IT の分野では「クラウドソーシング」などのシステムを使って、個人のエンジニアが企業から開発を請け負う業務形態というのは随分増えてきたように思う。
ただ、私がやっている事業は請負ではない。もちろん、請負開発(特定の顧客からの依頼を受けて開発を行う事)をする事もある。しかし、メインは自分が開発したプログラムをインターネットで売っている。
これが複数の社員を抱えるような会社ならば普通の事なのだが、一人でやっているとなるとちょっと珍しい。珍しいのはもちろん、「中は少人数で回している」というのは安定性などに関してマイナス要因なのであまり積極的に公開しないため、仮にそうであっても外には分からないというせいもある。
事業体の安定性は保険やインフラなどの長期的なサービスや商品に関しては必要だが、商品サイクルの短い商材であれば、こういう形態も一つの生き方としてもっと認められるといいなと私は思っている。
もちろん、今でも「スタートアップ支援」などの小規模事業サポートはある。私自身、杉並区のインキュベーションオフィス(駆け出し企業に低価格で事務所を貸して、事業のアドバイスをしてくれる所)にお世話になった。ただ、現在のこの類の支援や企画、社会の認識は全て、「その企業がいずれ雇用を生む事」や「その企業が大きくなる事(大きくなって納税する事、経済効果を高める事)」を前提として期待している。
言い換えると、10人の自営業型社会人を作るよりは、一人の起業家と9人の社員を生み出す事を目的としている。理由は簡単。今までそうだったからという習慣と、審査の手間の実務だ。経済効果が同じなら、1人の起業家を審査して支援する方が楽だからだ。
そんなこんなで、人にどう見えようとも、私は自分の生き方には名前を付けられないでいる。世間的には「起業家」だったり「社長」だったりするのだが、全くしっくりこない。一番近いな、と思うのは、売れないアーティスト達だ。
若い頃はダンスや歌を習っていたので、海外からちょっと上手なアーティストを皆で日本に呼ぶ事もあった。そういったアーティストたちは、バックバックの中に自分で焼いた CD を持ってきて、それを練習場で売るのだ。1000円や1500円で。もちろんモグリ。まさに行商。そうやって、そこそこ好きな事をしながら食いつないでいく。
そんな生き方が、アーティストでなくてももっと普通になればいいなと思っている。
個人がサービスや物を売って生きて行くには、それを買ってくれる人が必要だ。毎回自分で価格交渉。毎回自分で品質定め。それは大変なのかもしれないが、多分もっと楽しい筈。そう思ってはくれませんか? (笑)
私も最初からこの考えに辿り着いた訳でもない。私は「起業」をしようとしているのだと何度も何度も考えて役所の支援の門も叩いたし、起業セミナーにも通った。
2008年に経済同友会の「起業塾」というセミナーに参加させていただいた後に提出した感想文がある。書いた時は、今から考えるとよく分かっていなかったような記憶があるのだが、今読むと、自分の考えがはっきりと現れていて面白い。引用します。
【質問】プログラムで得たもの 【私の回答】(...)しかしながら、自分の行っている事がいわゆる「事業」の姿をしていない事も分か りました。逆説的ですが、自分のプランがいわゆる「事業」ではないという認識を得たことにより、却って自分がなぜこのような小規模事業にしつこく取り組ん でいるのか考えるようになりました。結果それは「価値を作れる個人を作りたい」という希望のようです。 【質問】経済同友会の起業支援活動に対する期待や提言 【私の回答】(...)今後、若い世代が新たな価値創造を目指して起業すると考えると、何となく「価値」の考え方に閉塞感があるような気が致します。例えば、 私のビジネスプランはプランだけでは見込み無しで、書類審査すら通らなかったのではないかと思います。まがりなりにも販売実績がありましたので今回の機会に恵まれました。先に「いわゆる『事業』の姿をしていない」と書きましたが、だからと言ってその活動はやはり事業以外のものではないようにも思います。既存の枠組みの中では評価されにくい何かにエイヤと足を踏み出せるような、価値観の多様性を社会が持てるような後押しを期待します。 |
このコメントはおそらく大不興を買ったのだと思うのだが、だからといって自分の考えが変わる訳でもない。「信念」とまで言うと大仰だか、ここまで変わらないと「信念」と言ってもいいのかもしれない。
ただ、この生き方には未だに名前が無い。
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