- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
「労働者」性の論点
労働契約(労働基準法9条、労働契約法2条1項)は、民法621条の「雇用」とほぼ同義であり、以下の特徴がある。
① 使用者の指揮監督下において
② 労務を提供して(労務の提供自体が債務の内容(手段債務)であり、仕事の完成(請負)や事務処理そのもの(準委任)とは異なる。)
③ 賃金(対価)を得る
このように、使用者に対する従属性という特性がある。
労務の提供を伴う民法の典型契約である請負(民法632条)、委任・準委任(民法643条、648条、656条)と区別して、自主性、独立性、裁量性がない。
個人事業者類型
・嘱託( 最判昭和37・5・18、肯定)
・傭車運転手( 最判平成8・11・28、否定)
・一人親方の大工( 最判平成19・6・28、否定)
・保険会社の外務員( 最判昭和36・5・25、否定)
・山林作業員の長( 最判平成1・10・17、否定)
・管弦楽団の楽団員(ヴァイオリニスト)(所得税法に関する事案であるが、給与所得ではなく、事業所得(個人事業主)と判断した 最判昭和53・8・29がある。)
・映画製作スタッフ
・証券会社の外務員
「使用者の指揮監督下における労務提供」
・仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
諾否の自由がある場合には、労働者性を否定する方向へ働く。もっとも、包括的な仕事の一部、継続的取引や専属下請けのように、事業主であっても、諾否の自由がなかったり、従属性がある場合がある。
請負のように注文主が行う程度の指示にとどまる場合には、労働者性を否定する方向へ働く。
・使用者の仕事以外の仕事に従事することの有無
使用者の仕事以外に従事できることは、労働者性を否定する方向へ働く。
・労務の性質(専門性、裁量性)
研修教育目的・専門性がある研修医について、労働者として認めた 最判平成17・6・3。
また、労務の内容が裁量性が労働者性を否定する方向へ一応働くとしても、労働基準法で裁量労働制度を認めていることから明らかなように、一概には言えない。
・時間的、場所的拘束の有無
時間的・場所的に拘束されている場合には、労働者性を肯定する方向へ働く。ただし、労務の性質上、例えば、建設、演奏のように、拘束された場所と時間で労務を提供しなければならない場合もある。
また、労務を提供する時間が管理されている場合には、労働者性を肯定する方向へ働くが、労働基準法で事業場外のみなし労働時間制などの例外もあり、一概には言えない。
・労務提供の代替性の有無(交代、補助者使用の可否など)
自らの判断や計算で補助者を使用することができる場合には、労働者性を否定する方向へ働く。
「報酬の労務対価性」
・額、計算方法、支払方法
労働時間に応じた対価が支払われ、残業代・割増賃金のように労働基準法にそった計算方法が採用されている場合には、労働者性を肯定する方向へ働くが、割増賃金の例外として管理監督者などもある。あるいは、近時の残業代未払い紛争のように、割増賃金を支払わないからといって、労働者性を否定する方向へ働くとは限らない。
・経済的従属性の有無
・報酬に生活保障的性格(固定給)があるか
・給与所得としての源泉徴収の有無
・社会保険(雇用保険、厚生年金保険、健康保険)の保険料の徴収の有無
アルバイトのように、未加入だからといって、労働者性を否定する方向へ働くとは限らない。
近時は、社会保険について、一人親方や平取締役(代表取締役除く)の任意加入制度が設けられたので、加入していても、一概に労働者性を肯定する方向へ働くとは限らない。
・事業者として、自らの名前、計算、危険で事業を行っているか
・機械、器具の所有負担
高額な什器・機械などを、自らの計算で所有している場合には、労働者性を否定する方向へ働く。例えば、自動車を持ち込み運転手として働いている場合には、労働者性を否定する方向へ働く。しかし、自動車を使用者が所有している場合には、労働者性を肯定する方向へ働く。
・業務遂行上の計算や危険負担の有無
売上・利益、経費・損失について、使用者に帰属する場合には、労働者性を肯定する方向へ働く。
例えば、売掛金の回収についての危険を使用者が負担している場合には、労働者性を肯定する方向へ働く。あるいは、製造物責任保険、各種の職業の賠償責任保険について、加入の有無や加入名義、保険料の負担者が使用者である場合には、労働者性を肯定する方向へ働く。
・商号使用の有無
使用者とは別個の独自の商号を用いている場合には、労働者性を否定する方向へ働く。
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