- 茅野 分
- 銀座泰明クリニック 院長
- 東京都
- 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医)
-
03-5537-3496
対象:心の病気・カウンセリング
- 斉藤ヒカル
- (潜在意識セラピスト)
- 快眠コーディネイター 力田 正明
- (快眠コーディネイター)
より幸福になるには、自分のためにお金を使うよりも他者のためにお金を使う方が良いことが、研究で明らかになった
Miranda Hitti
WebMD Medical News (3月20日)
もっと幸せだと感じたい?それなら自分のために散財するよりも他者または慈善のためにお金を使うとより良い気持ちになれる可能性がある。このニュースは『Science』3月21日号で報告された。
研究者らは最初に632名の米国人に、自分が全般的にどのくらい幸福かを評価し、収入と支出(請求書、他者への贈り物、自分自身への贈り物、および慈善のための寄付を含む)を報告するよう要請した。
最も幸福であった人々は最も多くを与えた人であり、収入の額には関係なかったと、研究を行ったブリティッシュコロンビア大学(カナダ)心理学部門のElizabeth Dunn PhDらは述べている。
「各人がどれだけ多くの収入を得たかには関係なく、他者のためにお金を使った人々はより大きな幸福を報告したのに対して、自分自身のためにより多くのお金を使った人々はそうではなかった」と、Dunn博士はニュースリリースで述べている。
次に、Dunn博士のグループは、ボストンにある会社の16名の従業員に対して、会社から賞与を受け取る1カ月前に自分がどのくらい幸福かを評価するよう依頼し、賞与を受け取った6-8カ月後にもう一度同じことを依頼した。
従業員らは賞与の使い道についても報告した。賞与を受け取った後により幸福であったのは、賞与の中からより多くのお金を他者または慈善のために使った人々であった。賞与の額が多いか少ないかは重要ではなかった。小切手の額は問題ではなく、その使い道が問題であった。
調査はあくまで1つの調査である。しかし人々が現金を手にし、それを日没までに使うよう命じられた時、どんなことが起きるのだろうか。
Dunn博士らは、ブリティッシュコロンビア大学バンクーバー校の46名の人々に5ドルまたは20ドルを渡した。現金と共に、それを午後5時までに使うようにとの指示を与えた。一部の参加者には家賃・請求書または自分自身への贈り物のためにお金を使うよう指示した。他の参加者には誰か他の人への贈り物を買うか、または慈善団体に寄付するように指示した。
現金を受け取る前とそれを使った後に行った調査によると、今回も、その日の終わりに最も幸福であったのは、他者に与えた人々であった。
そして会社からの賞与の場合と同じく金額は問題ではなかった。人々はより良い気分になるために20ドルを人にあげる必要はなかった。5ドルでも効果があった。
「我々の知見は、支出の割り当ての5ドル程度のごくわずかな変化でも、ある一日をかなり幸福なものにするのに十分である可能性があることを示唆する」とDunn博士らのグループは報告している。
Dunn E. Science March 21 2008; vol 319: pp 1687-1688.
News release University of British Columbia.
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この知見は改めて「幸福とは何か」を考えさせられるものです。金銭の多寡ではなく、他者への奉仕・慈善を行うことが多くの人にとって幸福だと感じられたことを実証的に示しました。しかもこの研究がアメリカのような資本主義の徹底した社会において行われたことにも意義があるでしょう。人種・移民・格差と様々な葛藤を孕むアメリカにおいても「他人への思いやり」といった道徳的な感情が価値あるものとして人々の心に宿っていたわけです。
このような話を聞いて思い出されるのが「マズローの欲求段階説」です。すなわち、人の欲求は段階的に向上・成長するという理論です。
1.生理的欲求:生きる上での衣食住など根源的な欲求
2.安全の欲求:危険や脅威から保護されたいという欲求
3.親和の欲求:他人と関り同じようにしたいなどの集団帰属の欲求
4.承認の欲求:自分が価値ある存在と認められることを求める欲求
5.自己実現の欲求:能力を発揮し、創造的活動や自己成長を図る欲求
自己実現した人は「人生を楽しみ、堪能することを知っている。苦痛や悩みにめげず、辛い体験から多くのものを悟ることができる」と説明されます。このような人は「感情的になることが少なく、より客観的で、期待・不安・自我防衛などにより、自分の観察をゆがめることが少ない。また創造性や自発性に富み、自ら選択した課題に取り組む姿勢を持っている。開かれた心を持ち、とらわれの少ない積極的な存在」とも説明されます。
更に、自己実現を遂げた人は「至高体験(peak experience)」をしているといいます。これは「意識が高揚し、行為に完全に没頭している状態。自意識に全く邪魔されず、自分が完璧だと感じる瞬間、最高に幸福な感情に満たされた境地・体験」のことです。至高体験を経ると「憐れみ・慈愛・親切さ・悲しみの情緒が顕著である。利己的な考えを超え、人への愛や思いやりに満ちた行動を行い、それを喜びと感じるようになる。物事を楽しむ能力をもち、現実に対する鋭敏な知覚力を備える。芸術や科学において、あるいはもっと現実的な生活のなかで、優れた創造性を発揮する」そうです。
そして、自己実現を超える最高位の欲求として「自己超越の欲求」があります。これは「自己を超える欲求である。自己実現を追及するだけでなく、更に自然と自分自身を超えたものを求める。他の多くの人々のために尽くしたり、より大きなものと一体になりたいと願う。それは悟り、宇宙との一体感、宇宙的な真理や永遠なるもの。社会の進化や人類の幸福などの、より高い目標」とされています。この概念を学問的に発展したのが「トランスパーソナル心理学」です。
今回の研究報告には「マズローの欲求段階説」ほどの理論は示されていませんが、それを示唆するような実際のデータをアメリカ社会で得られたことに意義があると思います。翻りまして、日本においても昨今、資本主義、市場原理、格差社会が問題視されています。ともすると弱肉強食となりがちな社会構造でありますが、改めてこのような調査結果を参考に、本当の豊かさや幸せを実感できる社会へ寄与していきたいものです。
それには、経済社会の活性化のために市場原理や競争原理を用いながらも、利益を上げた集団・個人は公共性や倫理性のもとに、富や豊かさを社会に還元していく仕組みを作ることが必要でしょう。既に上場企業をはじめ企業の社会的責任 CSR: Corporate Social Responsibility が重要視されており、これを果たすためには利害関係者(ステークホルダー)に対して説明責任(アカウンタビリティー)を果たしていくことが必須とされています。これは医療機関においても同様で、銀座泰明クリニックにおきましても患者様や市民の方々への説明はもちろんのこと、厚生労働省・東京都・中央区など公共機関とも協働して、国民・都民・区民の方々の精神保健活動に従事していくことが必要と考えております。つきましては、皆様、今後ともご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。
銀座泰明クリニック
このコラムの執筆専門家
- 茅野 分
- (東京都 / 精神科医(精神保健指定医、精神科専門医))
- 銀座泰明クリニック 院長
東京・銀座の心療内科・精神科、夜間・土曜も診療しております。
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