- 真鍋 貴臣
- 香洋ファイナンシャル・プランニング事務所 代表者
- 香川県
- ファイナンシャルプランナー
対象:家計・ライフプラン
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGF1002C_Q3A410C1000000/
アベノミクスで円安が進みましたが、今のところ物価指数は上昇していません(というより、むしろ下落傾向が続いています)
参考:http://www.stat.go.jp/data/cpi/1.htm
特に、生鮮品や食品の分野においてその傾向は顕著で、金融緩和などの効果が現れるのはまだ少し先になりそうです。
物価が下落する原因は、一般的に需要と供給のバランスが悪い事にあるとされていましたが、今現在日本を悩ませている物価の下落は少し異なる理由、いわば「安いものに慣れてしまった消費者」と「シェアを取りたい大企業間のチキンレース」により作り出されていると感じます。
そういう意味で、これまで孤高を保ってきた吉野家が規制緩和を受けて「チキンレース」に参入してしまったのは残念でもあります。
このニュースは単に「牛丼の値下げ」というトピックに留まらず、日本経済にマイナスの影響を与える可能性があるのではないかと思います。
■逆を行く相対的所得仮説
経済には「相対的所得仮説」という消費に関する理論があります。
これは「消費者は過去に最高の所得を得ていたときの消費水準をそのまま維持する傾向があり所得が減少してもただちに消費を比例的には減らさない」という仮説です。
いわば、過去の経験が現在の消費に影響を与えるという考え方であり、表に出てくる現象こそ逆ですが、今の日本でも同様の現象が起きていると思います。
つまり「低い値段を経験してしまい、それが適正であると感じる」という状態に陥っているのです。
仮に給料が1.5倍になり、その時の牛丼の価格が1.5倍であった場合、その価格を今と比べてどう感じるでしょうか?
多分、多くの方が「牛丼が高くなったな」と感じるのではないでしょうか?
■「低い値段」を支える日本企業の体質
このような状況を支えるもう一つの要因として、日本企業独特の「クオリティへのこだわり」と「マーケットシェアを失う事への恐れ」があると感じます。
通常値段が落ちる場合、通常同じ品物に対しそれ以前と同等のクオリティを求める事はできません。
しかし、今現在280円で食べる事の出来る牛丼は、どれも値下げ前に対して一定の味を保っています。
これを「企業努力」という言葉だけで片付けるのは、あまりにも不憫でありますし、場合によっては不信感さえ抱いてしまいます。
(実際は、HACCP等の厳しい食品安全基準を充足した物が提供されているはずなので、一定の水準をクリアしたものが提供されていると思います)
企業をそうした「企業努力」に向かわせるのは、他ならぬ「マーケットシェア喪失」への恐れです。
企業が努力を積み重ね、生き残ろうとすればするほど、マーケットは「安売り」に向かってしまいます。
■「安売り合戦」が人々に与える影響
上で述べたように、人間の消費性向は、これまでの習慣や、それを織り込んだ時代の空気に依存します。
そういう意味で、企業が値下げ合戦に燃えれば燃えるほど、「まだまだデフレが続いている」と民衆は受け取るのです。
また、「安売り」で競争する以上、ボリュームに対する費用逓減効果を出せる「大企業」以外は生き残る事が難しいといえます。
となると、その業界は2~3社の大手企業が寡占的にマーケットを支配するという状況に陥り多様性が失われ、結果として業界自体を縮小に追い込んでゆきます。
過去、吉野家は「味のクオリティが保てない」という理由から、牛丼の販売を停止したり、オーストラリア産の牛肉を使わなかったり、「一本筋の通った」経営姿勢を貫いてきました。
個人的にはそういった部分を非常に評価していただけに、今回値下げ競争に加わってしまった事が残念です。
縮小してゆくマーケットにおいて、他社が真似できない「付加価値」を提供することこそが、長い目で見た場合の唯一の生き残り策だと思います。
牛丼のパイオニアたる吉野家には、その「コアコンピタンス」があると思うのですが。
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