交通事故と損益相殺(労災、年金、保険) - 交通事故 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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交通事故と損益相殺(労災、年金、保険)

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交通事故

交通事故と損益相殺(労災、年金、保険)

交通事故によって加害者が被害者に支払うべき損害賠償額を算定するにあたって、同じ損害項目(例えば、治療費、休業補償、逸失利益など)が労災、年金、他の保険から支払われる場合に、それを控除すべきかが問題となる。

・損害賠償額から控除すべきではないもの
・最高裁平成7年1月30日・判例時報1524号48頁
搭乗者傷害保険金
・最高裁昭和39年9月25日・民集18巻7号1528頁
生命保険金
・生活保護法による扶助費
最高裁昭和46年6月29日・判例時報636号28頁

 

・使用者が支払うべき労災補償との関係
最高裁昭和41年12月1日・民集 第20巻10号2017頁
 加害者である第三者が被災労働者に支払った慰藉料は、使用者が労働基準法に基づいて被災労働者に支払うべき災害補償の額に影響を及ぼさない。(注、行政上の労災補償には、そもそも慰謝料を支払う規定がないから。ただし、労災民事訴訟の場合には使用者に対して慰謝料も請求できる。)

・労災保険金の損益相殺
最高裁昭和52年12月22日 ・裁判集民事 第122号559頁
 労働者災害補償保険法に基づき政府が将来にわたり継続して保険金を給付することが確定していても、いまだ現実の給付がない以上、受給権者が使用者に対し自動車損害賠償保障法3条に基づいて請求しうる損害賠償の額から将来の給付額を控除すべきではない。

・労災保険金は過失相殺後の損害賠償額から控除すべき
最高裁平成元年4月11日・判例時報1312号97頁

・遺族厚生年金
 ①受給権が確定していない将来の年金は逸失利益に該当しない
最高裁平成12年11月14日・民集 第54巻9号2683頁
不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろう遺族厚生年金は、不法行為による損害としての逸失利益に当たらない。

 ②受給権が確定した年金は逸失利益に該当する
最高裁平成16年12月20日・裁判集民事 第215号987頁
不法行為により死亡した被害者の相続人がその死亡を原因として遺族厚生年金の受給権を取得したときは,当該相続人がする損害賠償請求において,支給を受けることが確定した遺族厚生年金を給与収入等を含めた逸失利益全般から控除すべきである。


・後遺症と労災保険金、年金の損益相殺 
① 最高裁平成22年9月13日・民集 第64巻6号1626頁
 1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付を受けたときは,これらの各社会保険給付については,これらによるてん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。
2 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,不法行為の時から相当な時間が経過した後に現実化する損害をてん補するために労働者災害補償保険法に基づく保険給付や公的年金制度に基づく年金給付の支給がされ,又は支給されることが確定したときには,それぞれの制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,てん補の対象となる損害は,不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきである。

最高裁平成22年10月15日 ・裁判集民事 第235号65頁
 1 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付を受けたときは,この社会保険給付については,これによるてん補の対象となる特定の損害と同性質であり,かつ,相互補完性を有する損害の元本との間で,損益相殺的な調整を行うべきである。
2 被害者が,不法行為によって傷害を受け,その後に後遺障害が残った場合において,労働者災害補償保険法に基づく保険給付の支給がされ,又は支給されることが確定したときには,制度の予定するところと異なってその支給が著しく遅滞するなどの特段の事情のない限り,てん補の対象となる損害は,不法行為の時にてん補されたものと法的に評価して損益相殺的な調整を行うべきである。


・任意保険の無保険車傷害条項の保険金
 最高裁平成24年4月27日・裁判集民事 第240号223頁
1 損害の元本に対する遅延損害金を支払う旨の定めがない自動車保険契約の無保険車傷害条項に基づき支払われるべき保険金の額は,損害の元本の額から,自動車損害賠償責任保険等からの支払額の全額を差し引くことにより算定すべきであり,上記支払額のうち損害の元本に対する遅延損害金に充当された額を控除した残額を差し引くことにより算定すべきではない。
2 自動車保険契約の無保険車傷害条項に基づく保険金の支払債務に係る遅延損害金の利率は,商事法定利率である年6分と解すべきである。


・無保険車等補償事業の場合
 最高裁平成21年12月17日 ・民集 第63巻10号2566頁
 被害者が自賠法73条1項所定の他法令給付(同項に掲げる法令に基づく同法72条1項による損害のてん補に相当する給付)に当たる年金の受給権を有する場合において,政府が同法72条1項によりてん補すべき損害額は,支給を受けることが確定した年金の額を控除するのではなく,当該受給権に基づき被害者が支給を受けることになる将来の給付分も含めた年金の額を控除して,これを算定すべきである。


・軍人恩給
 最高裁平成12年11月14日 ・裁判集民事 第200号155頁
不法行為により死亡した者が生存していたならば将来受給し得たであろういわゆる軍人恩給としての扶助料は、不法行為による損害としての逸失利益に当たらない。

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