別居2年余で有責配偶者の離婚請求を認容できないとされた事例 - 離婚問題全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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別居2年余で有責配偶者の離婚請求を認容できないとされた事例

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最高裁判決平成16年11月18日、家庭裁判月報57巻5号40頁、最高裁判所裁判集民事215号657頁、判例タイムズ1169号165頁

 

 【判示事項】

 

有責配偶者からの離婚請求を認容することができる場合に当たらないとされた事例

 

【判決要旨】

 

有責配偶者である夫からの離婚請求において,夫婦の別居期間が,事実審の口頭弁論終結時に至るまで約2年4か月であり,双方の年齢や約6年7か月という同居期間との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと,夫婦間に7歳の未成熟の子が存在すること,妻が,子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であり,離婚により精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが想定されることなど判示の事情の下では,上記離婚請求は,信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず,これを認容することができない。

 

 

  (7)被上告人は,上記公務員宿舎が古くて狭く,汚い状況にあることについて上告人が不満を述べたことから,上司に相談したところ,上司から,平成12年秋に完成予定の新築の宿舎があり,被上告人が入居できる見込みがあることを告げられた。そこで,被上告人は,上告人に対し,上記宿舎が完成するまで実家に帰ることを勧め,これに応じて,上告人と長男は,実家で暮らすようになった。

  (8)上記宿舎が完成したことから,被上告人は,同年9月,上告人及び長男と共に,上記宿舎に入居し,家族3人の生活を再開したが,同年10月初めころ,被上告人は,突然,上告人に対し,「好きな人がいる,その人が大事だ」,「2馬力で楽しい人生が送れる」,「女の人を待たせている」などと言って,離婚を申し入れた。その際,被上告人は,上告人からその女性との関係を問いただされ,その女性と「ホテルにもよく行く」などと性関係を持っていることを認める趣旨の発言をした。

  被上告人は,遅くとも同年7月ころから,Aと性関係にあったものと推認される。

  (9)被上告人は,上告人に対し,同年10月か11月に九州でAと会う約束をしていることを明らかにしたので,上告人は,双方の両親に事情を話して相談した。その結果,家族会議を開くこととなり,同年11月4日,被上告人の実家で,上告人,被上告人夫婦及び双方の両親が一堂に会して被上告人の女性問題について話合いをした。その際,被上告人の母親が,被上告人に対し,Aとの結婚は許さないと断言したことから,被上告人は,上記の九州への旅行を断念した。

  その後,平成13年3月及び同年4月に,上告人,被上告人夫婦間の離婚問題について双方の両親を交えた話合いが行われたが,合意には至らなかった。

  (10)被上告人が離婚話を持ち出して以降,夫婦間にはほとんど会話がなくなり,上告人は被上告人に対し極めて冷淡になった。上告人は,被上告人がトイレを使用したり,蛇口をひねって手を洗ったりするとすぐにトイレや蛇口の掃除をしたり,被上告人が夜遅く帰宅すると,起床して被上告人が歩いたり触れたりした箇所を掃除したりするようになった。

  (11)被上告人は,同年6月,上記宿舎を出て,f市内のアパートで一人暮らしをするようになり,それ以降,長男と会うこともないまま,別居生活を続けている。

  被上告人は,別居後,上告人に対し,毎月,給与(手取り額約30万円)の中から生活費として8万円を送金し,かつ,上告人が居住する上記宿舎の家賃や光熱費等を負担している。

  上告人は,被上告人と一緒に暮らしたいとは思っていないが,子宮内膜症にり患しており,就職して収入を得ることが困難であり,将来に経済的な不安があることや子供のためにも,離婚はしたくないと考えている。

 2 本件は,被上告人が,上告人に対し,両者の間の婚姻関係は既に破たんしており,民法770条1項5号所定の事由があると主張して,離婚を求めるとともに,長男の親権者を被上告人と定めることを求める事案である。

  3 原審は,前記の事実関係の下において,次のとおり判断し,被上告人の離婚請求を認容し,長男の親権者を上告人と定めた。

  (1)上告人は,離婚を拒絶しているが,それは,法律的な婚姻関係の継続により経済的な安定を維持できるからであって,被上告人に対する情愛によるものではなく,被上告人と同居して生活する意思はないこと,被上告人が上告人及び長男と別居してから約2年4か月が経過しており,その間,被上告人は長男とさえ会っておらず,家族としての交流がないこと等を併せ考慮すると,上告人と被上告人とが,将来,婚姻関係を修復し,正常な夫婦として共同生活を営むことはできないものと解され,その婚姻関係は既に破たんしており,民法770条1項5号所定の事由があるというべきである。

  (2)被上告人は,遅くとも平成12年7月ころから,Aと性関係にあったものと推認されるのであり,これが婚姻関係破たんの原因となったことは明らかであるから,被上告人は,上記破たんにつき主たる責任があるというべきである。

  (3)しかしながら,上告人は,かなり極端な清潔好きの傾向があり,これを被上告人に強要するなどした上告人の前記の生活態度には問題があったといわざるを得ず,上告人にも婚姻関係破たんについて一端の責任がある。これに加えて,上告人と被上告人とは互いに夫婦としての情愛を全く喪失しており,既に別居生活を始めてから約2年4か月が経過していること,その間,上告人,被上告人夫婦間には家族としての交流もなく,将来,正常な夫婦として生活できる見込みもないこと,上告人の両親は健在であり,経済的にも比較的余裕があること等の点を考慮すると,被上告人が不貞に及んだことや上告人が子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であることを考慮しても,被上告人の離婚請求を信義誠実の原則に反するものとして排斥するのは相当ではないというべきである。

  4 しかしながら,原審の上記(3)の判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。

 本件をみるに,①上告人と被上告人との婚姻については民法770条1項5号所定の事由があり,被上告人は有責配偶者であること,②上告人と被上告人との別居期間は,原審の口頭弁論終結時(平成15年10月1日)に至るまで約2年4か月であり,双方の年齢や同居期間(約6年7か月)との対比において相当の長期間に及んでいるとはいえないこと,③上告人と被上告人との間には,その監護,教育及び福祉の面での配慮を要する7歳(原審の口頭弁論終結時)の長男(未成熟の子)が存在すること,④上告人は,子宮内膜症にり患しているため就職して収入を得ることが困難であり,離婚により精神的・経済的に苛酷な状況に置かれることが想定されること等が明らかである。

  以上の諸点を総合的に考慮すると,被上告人の本件離婚請求は,信義誠実の原則に反するものといわざるを得ず,これを棄却すべきものである。

 

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