フランチャイズ契約を締結したが実際の「売上げ」が「売上予測」と全然違う! - 事業計画 - 専門家プロファイル

鈴木 祥平
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東京都
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フランチャイズ契約を締結したが実際の「売上げ」が「売上予測」と全然違う!

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フランチャイズ契約においては、様々なトラブルが報告されていますが、一番多いトラブルは、加盟店本部が契約締結前に説明していた「売り上げ予測」と実際に営業を始めた後の「現実の売上金額」にかなりの相違がある場合です。この場合、フランチャイジーとしては、加盟店本部に対していかなる対応をすることができるのでしょうか。

【事例 】飲食店のフランチャイズ契約に加盟するに際し、加盟店本部より、「この立地条件なら、駅前ですし、競合する飲食店もそれほど多くないので、毎月の1000万円以上の売上金額を上げることは確実でしょう。」との説明を受け、それを裏付ける売り上げ予測の資料もらいました。その説明を信じて、その加盟店本部とフランチャイズ契約を締結し、フランチャイズ・チェーンに加盟しました。 しかしながら、実際に営業を始めてみると、月の売上金額は当初説明を受けた1000万円の半分の500万円程度であり、事前の説明や資料とは異なるものだった。 この場合に、フランチャイジーは、加盟店本部に対して損害賠償請求をすることはできるのでしょうか

  上記の質問に対しては、フランチャイジーは、加盟店本部(フランチャイザー)に対して損害賠償請求をすることができますと回答したいところですが、「できる場合がある」というのが正確な回答であると思います。

フランチャイジーが加盟店本部(フランチャイザー)に損害賠償請求をするためには、考えるべきポイントがいくつかありますので、以下において説明をします。

1.フランチャイズ契約を締結するにおいて「重要な事項」か否か

 フランチャイズ・チェーンに加入(=フランチャイズ契約を締結する)しようと考えているものにとって、最大の関心事は、「フランチャイズチェーンに加盟してどれだけの売上げを出すことができるか」という点にあることは、一般常識として争いがないことだと思います。

 ですから、フランチャイズの加盟店本部としては、フランチャイズ契約の締結に際して、シュミレーションによって明らかになった「売り上げ予測」に関する説明や資料と営業を始めてからの「実際の売上金額」が異なった(予測よりも悪かった)場合、フランチャイジーとしては加盟店本部がウソをついたと考えて、「加盟店本部がウソをついたから利益が生じなかった」と憤る気持ちは、理解することができます。

 ところが、フランチャイズ契約は、独立した事業者同士の契約(B to Bの契約)です。フランチャイズ契約を締結して、事業(ビジネス)を始めるに際しては、フランチャイザー(加盟店本部)側もフランチャイジー側もそれぞれが事業リスク(=上手く行くか行かないかというリスク)をそれぞれが負担をしているはずです。

フランチャイジー側も「自己責任の原則」から一定の事業リスクを負担しなければならないのは、独立した事業者としては当然のことです。ですから、「すべて加盟店本部(フランチャイザー)の責任だ」ということはいうことができません。

「契約自由の原則」・「自己責任の原則」の下では、「契約締結の判断に必要な情報や専門的知識は、各自が自分の費用と責任とで取得するべき」であり、「一方がそれを怠って自己に不利益な契約を締結してしまったとしても、救済はされない」ということになるのが原則です。

2.加盟店本部(フランチャイザー)に責任追及はできないのか

 それでは、「自己責任の原則」、すなわち、「フランチャイジーは、独立した事業者として、自ら事業リスクを負って事業を始めたのだから、売り上げが悪かったとしてもそれは自らが負担した事業リスクが顕在化したものであるから全て負担をするべきだ」ということになるのでしょうか。

 いくらフランチャイズ契約が独立した事業者と事業者との契約であるといっても、すべて「自己責任の原則」(そんな契約を締結したお前が悪い!)で片付けてしまうのは、フランチャイジー側に極めて酷であると思われます。フランチャイズのプロである加盟店本部が出した「売上予測」を信頼してフランチャイズに加盟したのに、「そんな契約をしたお前が悪い」といわれてしまっては、あまりにもかわいそうだと言えるでしょう。

 フランチャイジーがフランチャイズに加盟するに当たって最大の関心は、フランチャイズ・チェーンに加盟すれば、「どれだけ利益を上げることができるのか」という点です。

加盟店本部としても、フランチャイジー側が加盟店本部のノウハウを駆使して「どれだけ利益を上げることができるのか」という点に関心があることを重々承知しているはずです。

そうであれば、加盟店本部(フランチャイザー)の杜撰な「売上予測」をしている場合、例えば

(1).売上予測を行うに際して、適切な調査方法を取っていない場合

(2).調査結果の分析に客観性合理性が認められなかった場合

には、本部への責任追及が可能な場合があります。

3.「予言」と「予測」は違う

ただ、現実問題として加盟店本部も神様ではないのですから、「売上予測」は、「将来の事業活動の成果を事前に予想する」という「予測」(=不確実なもの)に止まり、「将来の売り上げ金額」の「予言」(=「確実にあたる」)ではないわけです。

「予測」があたらなかったからといって、すべて加盟店本部(フランチャイザー)側の責任とするわけにはいかないはずです。

加盟店本部(フランチャイザー)としても「絶対的な売上予測」(「予言」)を行うことは不可能である以上、単に事前の「売上予測」(「予測」)と「現実の売上金額」(「現実」)との乖離が大きいという事情があるだけで、加盟店本部(フランチャイザー)に対して法的に責任追及できるというのはおかしいことだと言えるでしょう。

 しかしながら、加盟店本部(フランチャイザー)は、フランチャイズのプロであるはずです。フランチャイジー(加盟店)の「事業リスク」を極力軽減するために、出来る限りのことをしなければならないはずです。フランチャイズに加盟をしようと検討している者に対して提示する事前の「売上予測」をするに場合にも最善の注意を払うべきでしょう。

ですから、「売上予測」のプロセスに問題がある場合、

(1)   「売上予測」の手法自体が明白に相当性を欠いた不合理なものである場合、

(2)   「売上予測」に用いられた基礎数値が客観的根拠を欠いている場合

などで、加盟を希望している者に対して、「フランチャイズ契約に関する判断を誤らせた」と評価される場合には、加盟店本部(フランチャイザー)に対する責任追及ができるとするべきでしょう。

ただ、「売上予測のプロセスに問題がある」と指摘するのは、「加盟店本部(フランチャイザー)」と「加盟店」(フランチャイジーと)の専門的知識や情報力の格差もあるため、なかなか容易な作業ではないことが実情です。

4.法的にどのように理論構成をするのか

 フランチャイジーが加盟店本部(フランチャイザー)に責任追及をするにしても、どのように理論に基づいて責任追及をすることができるのでしょうか。この点については、義務違反の理論構成については、「契約締結上の過失の理論」が多くの裁判例で用いられています。

 大阪地裁平成14年3月28日裁判例でも「フランチャイザーの市場調査の内容が客観性、正確性を欠いていたり、十分な資料に基づくものではなかったりして、フランチャイザーが提供した情報が、フランチャイズへの加盟を検討している者に、同契約締結に関する判断を誤らせるおそれがある場合には、フランチャイザーは、上記信義則上の義務違反により、フランチャイジーが被った損害を賠償する責任を負うと解するべきである」と述べています。

5.「過失相殺の法理」の適用による損害賠償金額の減額

 フランチャイジーから加盟店本部(フランチャイザー)に対する責任追及が認められるとしても、フランチャイズ紛争に関する裁判例を見てみると、必ずしもフランチャイジーが被った損害の全額について、損害賠償責任を認めているわけではありません。

これは、フランチャイザーも「独立した事業者」である以上、「事業リスク」(売り上げが上がったり下がったりするというリスク)を負担すべきという先ほど述べた「自己責任の原則」が働き、損害の公平な負担を図る「過失相殺」という制度で減額されてしまうことが多いからです。

「過失相殺」というのは、語弊をおそれずに言えば「損害全体について当事者のどちらがどれだけのリスクを負担するかというリスク分配の法理」(事業リスクの分配の法理)であると言えるでしょう。

どういう場合にどれだけフランチャイジーに対して「過失相殺」が適用されるかはケースバイケースとなってしまいます。

例えば、フランチャイジーが自分で出店する店舗の立地調査・市場調査を全く行おうともせず、安易に加盟店本部(フランチャイザー)の担当者のセールストーク(おいしい話)を鵜呑みにしてしまったような場合は、フランチャイジーは「事業リスク」を回避するために十分な注意を払ったといえず、「過失相殺の法理」により大幅な減額がなされる事もあり得ます。

6.まとめ

 以上の通り、「事前の売上予測と現実の売上額との乖離の問題」について、フランチャイジーが加盟店本部(フランチャイザー)に対して損害賠償請求を行う場合、

 (1)どのような場合に義務違反があると認められるのか、すなわち、どのような場合にフランチャイザーの提供した情報が客観的かつ適正である又はそうではないといえるのかという問題

 (2)義務違反があるとした場合に「損害賠償の範囲」をどのように考えたらよいのか   という問題

という2つ問題をきちんと検討しなければなりません。

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