- 笹木 正明
- キャリアカウンセラー
対象:キャリアプラン
- 宇江野 加子
- (キャリアカウンセラー)
- 冨永 のむ子
- (パーソナルコーチ)
就職活動をする際どの業種・業界を選ぶかは重要項目の一つである。関心のある業種・業界を取り巻く環境・競争状況、歴史と将来の発展の可能性を調べた上、幾つかの企業を選び出し検討する。企業の業容についての詳細は、ホームページ、有価証券報告書等を調べる事とするが、まずは2013年1集会社・就職四季報を紐解いて会社選びを始める。チェックポイントとしては、まず社歴と特色で業容、業界での地位、資本系列、沿革などの特徴を読みとり、次に事業展開と本文の前半、後半文から今後の可能性を推定する。業績は過去5年間の実績と2期先までの予測している。会社四季報に加えて私の活用している給与÷年令比率を示した。就職活動は短期で利益を狙う株式投資とは異なり、より長期的な見地が必要。今回のコラムが、会社四季報を活用して就職先を探し出すことの手助けになることを願っている。
1.新卒雇用力
採用内定者数に関しては、最近の内定者数がリーマンショック時より50名以上増加している注目企業名は、ノジマ270名、楽天169名、三菱電機167名、リクシルG100名、日立造船74名等がある。新卒の社員が戦力として会社に貢献するには各種研修、OJTを受けて4~5年かかる、言い換えれば先行投資負担に耐えられるだけの体力を持ち、更に4~5年後に収益を待たらす人材を保しているかが判断できる。
2.設立、社歴
単純に社歴の長さだけで伝統ある企業ともてはやすわけにはならない。1926年設立の信越化学工業は化学肥料発祥だが業態変換。財閥系総合化学会社に比べて規模や取扱製品種類でも大きく劣っていたが塩ビ部門で1960年にポルトガルに初進出、1973年最大市場であるアメリカにシンテックを設立し生産拠点を築き、強い競争力を獲得し前記化学会社に負けない高収益会社になった。海外売上高比率は65%で化学会社では断トツ。当社は長い社歴の中で時間と環境の変化に応じて事業内容を変え、コア製品である塩ビ・半導体シリコンで世界トップクラスを保持。 事業部制を採用し利益管理の徹底をはかる。
3.本社所在地
登記上の所在地。化学会社のトクヤマは山口県周南市が本社、東京に本部を置いている。伊藤忠商事は大阪本社、東京本社の2本社制をとるが登記上は大阪が本社。化学会社の宇部興産は、登記上は宇部が本社所在地で、ビジネス ユニット、スタッフ部門等の経営陣直轄の本社機能は東京に集中している。
4.上場スピード
1949年4月証券取引所再開設立、5月から営業開始。戦前から活動している大手企業が上場をはたした。自動車業界では日産、ホンダ、三菱、富士重以外は当初から上場した。4社の設立から上場までの期間は日産設立1933年上場1951年で17年、ホンダ設立1948年上場1957年で9年、三菱設立1970年上場1988年で18年、富士重設立1953年上場1960年で7年。富士重は中島飛行機が前身であり事業の基礎があったので早期上場を可能にした。戦後派のホンダは9年で上場を果たすことが出来た。1972年米国排ガス規制(マスキー法)をクリアーしたCVCCエンジンを他社に先駆けて開発し北米市場で成功した。日本では上場まで9年は短いケースでホンダの企業行動の特徴を示すものである。2012年12月20日東京2部に上場した金型用部品の製造・販売のパンチ工業は設立1975年なので37年を要した。同業のミスミグループは1963年設立1994年上場なので31年となる。
5.特色(高シェアー商品の有無)
世界のトップシェアーの例:椿本チェーンは産業用スチールチェーン、自動車エンジン用チェーンで世界首位。設立は戦前の1941年上場1949年。海外39%、ROE7.6%、ROA3.6%。業種別時価総額順位産業機械136社中16位。円高を背景に昨年8月米国搬送コンベヤー社買収。日本の自動車メーカーが好調なので業績は順調に推移、但し中国向けは失速。
名古屋に本社を置く日本碍子はガイシ世界一。また世界で唯一の大規模電力貯蔵システムNAS電池を量産。1919年設立1949年上場。海外53%。自己資本比率49.4%。収益柱の自動車セラミックスは堅調。だが電力関連で大型案件が翌期に再送り、NAS電池赤字が残る。エレキは市況低迷が長引き一転営業減益。14年3月期はNAS電池赤字消え、営業益反発。新技術としては青色に続き緑色でLEDは発光効率倍増の窒化ガリウムウエハ開発、HV用インバーター等パワーデバイス用途も狙う。
6.前号比営業利益の増減傾向(矢印表示)
会社四季報では ⇒ ⇑ ⇑⇑ ⇓等が表示されている。増減傾向は簡明で分かりやすい。伸びる傾向にある⇑⇑表示の会社については特に注目。株式投資家として短期間で利益を上げることを目標にしている人は参考になる指標である。就職して長く勤務する学生は長期的な視野で検討する必要があり、当該企業における営業増加の変化率30%の背景を調べて受験するか否かを決める事が望ましい。 会社四季報2012年4集秋号と比べて予想営業利益を増額した会社について、増額率の大きい順、減額率の大きな順でランクしている。①変化率30%以上増額は⇑⇑で40社、②30%>変化率≧5%⇑、③変化率<5% ⇒、④減額率▼30%>変化率≧▼5%⇓、⑤減額率▼30%は⇓⇓で107社。増額変化率30%の①について2社の例を示す。
A.⇑⇑タツタ電線: 総合電線メーカーの中堅。JXホールディングが大株主で32%保有。自己資本比率75.9%。ROE6.9%,ROA5.5%。業種別時価総額順位、設備機器・部品15/121社。売上構成は電線66%、電子材料33%。電子材料では電磁波遮蔽フィルムが利益柱、世界のシェアー8割を占める。秋口のスマホ、タブレット向け新製品が想定超で量産効果。電線は選別受注で赤字半減。2013年3月は営業増益幅拡大。環境分析事業も展開。電子材料は2013年5月竣工の木津川新拠点に研究開発研究開発、新事業育成急ぐ。 B.⇑⇑東ソー:総合化学の一角。塩ビ・ウレタン原料の一貫生産、電子材料など機能部材に特徴。業種別時価額順位、化学28/164社、海外36%、外人株主22%。 塩ビは前期事故の影響徐々に薄まる。が、石化は工場定期修理重い。有機化成品の軟調も響く。償却費減でも13年3月期も連続減益。14年3月期は事故影響が一段減。償却費も落ち営業益大きく反発。南陽工場の火災全損プラントの復旧は保留し隣接設備を一部増強で対応。13年春に増産する自動車排ガス触媒向けゼオライトは引き合い強い。早くも次の増産を検討。
7.株主構成
株主欄には上位10位までの大株主が記載されている。株主の構成を見ると、オーナー会社、独立会社、大手の系列会社等がある。大株主と特定株や浮動株の割合を勘案して当該企業の安定度がわかる。長期的な視点に立った経営を行うには株主構成が安定していることが望ましい。ユニ・チャームは、創業者の高原慶一郎が会長を務めるオーナー会社である。同社の場合、創業者関連の株式は37.9%であり、特定株の割合でみると54.7%になっている。株主構成の安定は極めて高い。この会社が長期的視点の経営がどれだけ実現されているか、特色の記述や事業構成の情報、短期・長期の計画を調べた(海外47%)。判明したことは、当社は主力商品の生理用品や紙おむつをペット市場に拡充するとともに、米国・アジア中東市場を中心に海外市場の開発に注力していることがわかる。独立型のいすゞ自動車は取引先の大手商社を始め特定株が43.7%、厳しい審査をする外国株主24.6%であり浮動株は10.7%で少ない。現状の経営は順調に推移しているが、長期的視点の経営がどれだけ実現されているかを見た。12年11月タイでピックアップ新工場稼働。14年3月期は東南アジア軸に商用車、ピックアップが続伸。14年前半稼働目標で慶鈴汽車集団と大型商用車の生産・開発の合弁会社を設立。GMとのピックアップ開発で再度提携の動きがある
8.外国人持株比率
外国人投資家の企業評価は厳しく、持ち株比率の高い会社は就職検討の価値あり。20%以上超えれば持ち株比率が高いほうである。HOYAは光学レンズ、眼鏡、半導体用マスク基盤等で強みのある企業で外国人持ち株比率は53.4%。良採算の眼鏡レンズがタイ洪水影響から脱し、洪水保険金160億円が上乗せ。2013年2月セイコーエプソンのレンズ開発製造事業を譲受、2014年3月末までにセーコーHDから販社株式を50%取得連結子会社化。関連事業の拡充を狙う。海外62%。HOYAは東洋経済社の業種区分では電子デバイス製造装置、時価総額順位は64社の中で1位。財務面はROE11.2%、ROA7.5%、同業種6位のウシオ電機はROE5.5%ROA3.9%。ちなみにウシオの海外74%、外国人持株比率36.4%。独立系自動車部品メーカーNOKの外国人持株比率は37.9%。日系顧客中心の自動車用やフレキシブル基盤(FPC)で世界首位。スマホ需要好調でFPC急拡大、が自動車用シールは日系の中国減産が下期響く。営業益横ばい。今後は国内からアジアへ大型オイルシールの生産移管。客先需要増に対応、災害時の代替生産も見据える。熊本、静岡地区に点在する生産拠点を集約化し効率化。業種別時価総額は、自動車部品131社中5位。
9.3年内離職率業界別ランキング
ベスト5:1位電力0.08%、2位ガス1.37%、3位総合商社1.52%、4位金融サービス3%、5位パッケージソフト3.20%。
ワースト5:1位家電・コンピューター小売り33.25%、2位不動産(住宅)25.17%、3位衣料小売り25.2%、4位外食・娯楽サービス24.7%、5位総合スーパー14%。
10.平均年令・年間給与と平均年間給与÷平均年令比率について
東洋経済新報社から2006年10月7日に上場会社の生涯給料1000社ランキングが発表されている。上位100社をみるとお馴染みの会社が多く、就職希望先の人気ランクのようにも見える。この中で各社の平均年令と年間給与額が記載されている。私はこの情報と最新の会社四季報を突き合わせてみた。第1位はキーエンスで平均年間給与額1344万円、平均年令31.8才だったが、会社四季報では平均年間給与1314万円、平均年令は33.5才、年間給与÷年令比率は39.2万円。100位のNTTデータは平均年間給与778万円、平均年令36.1才だが会社四季報では平均年間給与788万円、平均年令36.2才、年間給与÷平均年令比率は21.8万円。ランク300位の京王電鉄の平均年間給与773万円、平均年令40.7才だが、会社四季報では平均年間給与743万円、平均年令40才で年間給与÷年令比率は18.6万円。ランク500位の東洋埠頭の平均年間給与725万円、平均年令41.8才だが会社四季報では平均年間給与693万円、平均年令43.9才、年間給与÷年令比率は15.8万円。ランク999位さが美の年収582万円、平均年令39.5才、会社四季報では平均年収477万円、平均年令44.4才、年間給与÷年令比率は10.7万円。
参考:年間給与対年齢比と生活の安定度について。長く活用している、簡便法がございますので参考に願います。25才から55才位の人が対象です。
年間給与÷年齢比率を算出します。14万円以下は生計の維持は苦しい、15万円から20万円は普通、21万円以上は比較的楽だと思われる。
*今回のコラム作成に際して放送大学「ケースで学ぶ現代経営学」小倉行雄著を参考にしました。
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