小笠原 隆夫
オガサワラ タカオ「褒めて育てる」の弊害という話
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「褒めて育てるのが一番」という考え方が広まってから、もうずいぶん年月が経つと思います。
ここ最近では「褒めて育てるなんて甘い」と否定的な捉え方をする人は、さすがにほとんどいなくなりましたが、そもそも日本人は感情表現が控えめの傾向にあるせいか、今でも「何をどう褒めればよいのかわからない」と、部下や他人を褒めること自体が苦手という人がいます。
しかし、このところ多くの書籍や解説記事で、「褒めて育てることの弊害」という話を見かけるようになりました。
10年ほど前までは、アメリカでも「褒めて伸ばす方が自信もつくので一番よい」とされ、日本でも同じことが言われていましたが、最新の研究では、そのやり方では良くないことが分かってきて、方針は修正されつつあるそうです。
ある記事によると、ただやみくもに褒められて育った人は、「自信のようなもの」は身につけますが、それはプライドだけを高めた尊大な自信で、何かことが起こるとパニックに陥ってしまうそうです。
また、アドラー心理学の視点から書かれた記事によれば、「褒めることは相手の自律心を阻害し、褒められることに依存する人間を作り出してしまうことになる」と捉えているそうで、「褒められたい」と思うことは依存で自律性を欠いた状態であり、人を褒めるということは、その人の自律性を奪うことになるそうです。
人が自信を持って行動するのは「上から評価して褒められたとき」ではなく、「横から勇気づけられたとき」であり、こうした感情を何度も受け取ることによってのみ、人間は自律的に成長していくことができるとのことです。
最新の研究では、自信は本人による「行動と失敗」によって作られることが分かっていて、行動しながら小さな失敗を繰り返すことで失敗への免疫がつき、のちに大きなリスクを前にしたときでも冷静に対処できる「本当の自信」が身に付くといいます。よって育成する側は、単に相手を褒めるだけでなく、本人が自ら行動するように仕向けることが大事になります。
ただ褒めるのはもう古く、本人が行動し、失敗も経験できるように仕向けることが、本当の自信を身につけさせる正しい方法だということです。
この話は、実は褒めて育てるということが広まり始めたころ、多くの会社の経営者やマネージャー達が言っていたことと、実はあまり変わりがありません。
当時出てきた話は、「そんなに褒めてもつけあがるだけ」「褒めるばかりの甘やかしでは成長しない」といったことでしたが、今となっては同じようなことが理論として言われ始めています。
当時の現場で指導的立場にいた人たちが、肌感覚で感じていたことは実は正しかったということになるのでしょう。
私も、人材育成に関する研修や指導をする際、褒めることの大事さは語りつつも、褒めるときはできるだけ具体的に褒め、叱ることも遠慮せずに具体的に叱るということを強調しています。それが実際の現場感覚には合っているからです。
こんな理論の変遷を聞いていると、現場の肌感覚というのも、あながち間違っていないようです。
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