間山 進也(弁理士)- コラム「「産業上利用できる発明」についての新たな判決」 - 専門家プロファイル

間山 進也
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マヤマ シンヤ
( 弁理士 )
特許業務法人エム・アイ・ピー 代表弁理士
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「産業上利用できる発明」についての新たな判決

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知的財産権についてのトピックス2008 2008-09-09 15:47
平成20年(行ケ)第10001号審決取消請求事件
情報処理分野で「産業上利用できる発明」について新たな判決がありました。

本事件は、発明の名称を「音素索引他要素行列構造の英語の他言語の対訳辞書」に対してなされた拒絶査定に対して、特許庁に対して審判請求が行われ、当該審決に対して審判請求人が審決の取消しを求めて知財高裁に提訴したものです。

発明の内容などについてはコメントする立場にはありませんので、以下、裁判例の要旨について説明させていただきます。

◎審決では、当該出願について以下の判断がなされています。

『対訳辞書を引く方法をコンピュータのハードウェア資源を用いて行っている旨の記載もなく、コンピュータのハードウェア資源についても何ら記載がないから,対訳辞書を引く方法を実現するための機能要素がソフトウェアとハードウェア資源とが協働した具体的手段として特定されているとはいえない。』(以上、『』内は、同事件判決文から引用)

◎審決の上記の認定に対し、

判決文では、以下の通りの判示がなされています。(以下『』内は、同事件判決文から引用)

『課題解決を目的とした技術的思想の創作の全体の構成中に,自然法則の利用が主要な手段として示されているか否かによって,特許法2条1項所定の「発明」に当たるかを判断すべきであって,課題解決を目的とした技術的思想の創作からなる全体の構成中に,人の精神活動,意思決定又は行動態様からなる構成が含まれていたり,人の精神活動等と密接な関連性を有する構成が含まれていたからといって,そのことのみを理由として,同項所定の「発明」であることを否定すべきではない。』

◎上記判決文では、続いて以下の通りの判示がなされています。

☆『出願に係る特許請求の範囲に記載された技術的思想の創作が自然法則を利用した発明であるといえるか否かを判断するに当たっては,出願に係る発明の構成ごとに個々別々に判断すべきではなく,特許請求の範囲の記載全体を考察すべきである(明細書及び図面が参酌される場合のあることはいうまでもない。)。そして,この場合,課題解決を目的とした技術的思想の創作の全体の構成中に,自然法則の利用が主要な手段として示されているか否かによって,特許法2条1項所定の「発明」に当たるかを判断すべき』(以上、『』内は、同事件判決文から引用)

◎以上の裁判例から、以下のことが言えそうです。

(1)上記判旨につき、上記裁判例が、特許請求の範囲に記述された情報処理方法の機能要素を、ハードウェア資源と協働した具体的手段として特定しなくとも良いことを支持したもの、と解釈することは妥当ではありません。


(2)上記引用部分☆によれば、特許請求の範囲に記載された発明が「特許を受けることができる発明」であるか否かについても、特許請求の範囲の記載の他、明細書・図面の記載を参照する場合もあるとされています。

(3)一方で、特定の情報処理方法について、特定の機能手段がソフトウェア資源と、ハードウェア資源との協働により実現されていることについて明確に記述しなければならないことについては従来の通り代わりません。

(4)サポート要件などの観点から、出願書類全体から具体的手段がハードウェア資源とソフトウェアとの協働によりコンピュータ上に実現されていることが認識されなければならないからです。

(5)今回の判決を受けて、今後、情報処理技術分野での発明について、特許請求の範囲に記載された情報処理方法の発明が、「産業上利用できる発明」か否かについてまで、明細書・図面の記載が参照されることになりそうです。

(6)これに対応して、出願人および弁理士側にて、特許請求の範囲の記述の他、発明をサポートする情報処理技術につき、今後さらなる解析および理解が必要とされて行くものと思います。
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