池見 浩(消費生活アドバイザー)- コラム「メニュー誤表示事件で企業と消費者が考えるべきこと」 - 専門家プロファイル

池見 浩
消費生活の専門家が消費者教育・啓発や消費者志向経営をサポート

池見 浩

イケミ ヒロシ
( 東京都 / 消費生活アドバイザー )
消費者考動研究所 代表
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メニュー誤表示事件で企業と消費者が考えるべきこと

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消費者に「投票される」企業を目指すには 2013-11-05 23:47

こんにちは。消費者考動研究所代表 消費者教育コンサルタント/消費生活アドバイザーの池見です。


阪神阪急ホテルズを発端としたホテル・高級料亭等のメニュー誤表示問題が、その後も次々と発覚しています。皆さんはどのようにお感じになっていらっしゃるでしょうか

記者会見で「偽装と言われても仕方がない」となんとも歯切れの悪い発言が飛び出すなど、潔さに欠けた対応が多いように私は思います。
事実、「誤表示であった」と表明したホテル各社のうち、そのホームページの告知タイトルで「誤表示」と「返金」両方の文言を入れてその対応を明示した企業はまだありません。

本件は、「料理」というホテルとしてはとくに重要な「商品」に「欠陥」があり、消費者から必要以上に高額な対価を得ているために返金対応を行うべき「リコール」問題と言えます。したがって、当該企業が消費者の信頼回復の第一歩を踏み出すためには、最初に消費者に対して返金・代替案等を明確に分かりやすく提示すべきです。

消費者にとっては、このトラブルについて、その商品を購入した自分はどうすれば良いかを示す情報が一番知りたいことです。お詫びの言葉や社内処分をどうするか・調査の進捗報告や善後策はその次で良いのです。


業界内の常識は消費者にとっての非常識か?

阪神阪急ホテルズの中華料理部門の料理長が、中華料理の世界では芝エビは小エビの総称だと説明して話題になりました。おそらくご本人としては、長年の業界としてのご経験を基に不自然さを全く感じないまま、記者会見に臨んだのではないかと推測いたします。

しかし、一般常識からすれば、芝エビは高級食材の芝エビ固有の名称であり、たとえ業界内では総称であっても、あの場で業界内の常識を納得してほしいと説明するのは、やはり消費者目線に欠けていたと言わざるを得ないのではないでしょうか。
また現実問題として、芝エビだからこその高い価格設定で販売されており、価格=品質に対する対価であることからすれば、安いバイナイエビも「芝エビ」とは言えないはずですね。価格設定している時点で、高級食材の芝エビとしてのプレミアを付けていますので。


ヤマト運輸のクール宅急便 不適切管理問題や、カネボウのリコール遅れ問題でもみられた共通の問題点は、「このくらいは大丈夫だろう」「私たちの基準・常識では問題無い範囲」とどこかで判断してしまったことです。そのきっかけは、社内の一個人の判断だったかもしれません。しかし、それが組織内に拡散しチェックがされない時点で、組織全体の意思に変化します。

企業内でのチェック機能が働かない根源的な原因は、社員一人一人の「クリティカル・シンキング=批判的思考」の不足、自己批判と問題改善がしにくい社風等が考えられます。
善後策として、トップダウンでのコンプライアンスの強化やチェックする部署の新設を掲げる企業を時々見受けることがあります。確かにその対策も必要ではあります。しかし最も優先すべきは、クリティカル・シンキングの習慣化と、そこで出てきた指摘・改善を十二分に生かす受け皿作りの実践です。これは再発防止にもつながりますし、今回のようなコンプライアンスに関わるような問題の予防策として、日常から体制を整えておくことも有効です。


正当な苦情・権利の行使は、企業や社会を良い方向に導きます

本文冒頭でもお話しましたが、今回の誤表示問題で各企業の返金等に関する消費者への告知・対応はまちまちです。
返金や代替商品券の提供などについて、その詳細を自社ホームページ等できちんと説明しているホテルがある一方、この対応については消費者からホテルに個別にお問い合わせくださいとのみ示している企業もあります。


少し脱線しますが、広告やメニューなど消費者が商品を選ぶ上で重要な要素となる価格や素材などの情報は、その後に契約する場面がある場合、契約のための条件提示と同じ意味があります。

今回の例では、「高級食材と言われている芝エビなのでこの価格」と店側が提示した(メニュー表示した)条件について、消費者が「芝エビならOK」と合意してオーダーし、店側が受諾した時点で「芝エビを使用した料理を提供する」契約が成立しています。従って、契約通り実行していない店側は「債務不履行」となり、契約通りに実行するか、またはそれが出来ない場合は店側が賠償責任を負います。つまり、本来ならば、誤った表示で契約して提供した消費者全員に対し、店側が自ら調査して債務を実行する義務があり、消費者にはその不履行部分について正しく実行してもらう権利があります。

ただ、現実問題として記録が無いなど後追いが困難な場合もありますので、やむを得ない対処方法としては、少しでも広くわかりやすい告知を行って申し出てもらうことになります。

このように、「契約」の視点で考えれば、消費者がその契約の範囲で苦情を申し出るのは正当の権利です。決してクレーマーではありません。苦情を伝えることは、消費者がその企業に対してどう感じているか、何をして欲しいのかといった情報を提供することです。


トラブルにあわれた消費者の中には、「そうは言っても、苦情を言って変な風に思われたくないし、自分の勉強代と思ってあきらめる」と話す方が時々いらっしゃいます。しかし、苦情を知ることで、企業は次への改善が出来ます。正しい権利と義務に基づいた契約取引に是正することで、一方が不当に利益を得てもう一方が損をする流れを修正できます。
たとえそれがあなた一人だけであっても、その一つの苦情分の改善がされれば、一つ分だけ暮らしやすい世の中になります。


消費者には、「選択する権利」があります。また、極論のように思われるかもしれませんが、消費者が選ばない企業は存続できません。もし、苦情を申し出ても改善されない企業があったとしたら、二度とその企業を選ばないでしょう。

一方企業側としても、消費者から選ばれるためには、社員一人一人が「自分が消費者だったらどう思うか」のような視点を常に持ち続けるべきです。そして、今回の誤表示問題やリコールなどが自社で発生した場合には、特に社内の論理より「自分としての消費者感覚」を前面に据えて対応を考えることが大切です。

一人一人の力は微力でも、消費者それぞれが自分にとって・社会にとって一緒に存続してほしい企業を選択することで、それが社会を良い方向に導くことが出来るのです。そう考えると、私たち消費者は、問題が起きたことより、その企業がどう消費者に向きあって変革してゆくのかを見つめ続けることが、社会を築いてゆく消費者市民として考えるべきことではないでしょうか。


今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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