阿部 龍治
アベ リュウジグループ
マッキーの『誰でもわかる不動産塾』 第2回
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*** どうなる!? オフィスマーケットの今後 その2 ***
前回「賃貸オフィスマーケットは好調といわれている」と書きました。果たして本当なのか考えてみましょう。
森ビルによれば、今後3年間に都内で供給予定の大規模オフィスビルのうち、約7割が都心3区(千代田、中央、港)で供給され、さらにそのうちの約7割相当が既存のオフィスビルの「建替え」によるものだといわれています。
つまり、今後供給が予定されている大規模ビルの多くは既存のオフィスビルの「建替え」に伴うものであることから、都内のオフィスビルの床面積が大幅に増加するわけではなく、これらの新規案件のすべてが立ち上がったとしてもオフィスビルマーケットの需給バランスが大きく崩れる可能性はほとんどないというものです。
一見するとこの説明は「なるほど」と思わせるものがありますが、データをじっくり眺めると、実は違った側面が見えてきます。
今後供給される大規模オフィス(330万㎡)の7割が都心3区(231万㎡)、さらにそのうちの7割が建替え(162万㎡)ということは、これまでマーケットに存在していた「取り壊された」オフィスビルはどの程度存在したのでしょうか。建替えによる新規計画は、容積率の割り増し等が行われることを勘案して300%の割り増しを受けていると仮定し、その分を割り戻すとその面積は124万㎡に相当します。つまり、現在はこの建替え計画に伴って「取り壊された」ビルが124万㎡、森ビルが定義する大規模オフィスビル124棟分がマーケットから消えていることになります。取り壊されたビルには当然多くのテナントが存在していたはずです。そのテナントはビルから追い出されて、既存ビルの空室部分に転居したと考えるのが自然でしょう。
実は都心5区の空室率が2年間で3%程度も改善したその値は、ほぼこの追い出されたテナントの面積と一致します。空室率の改善の主な原因は、取り壊されるビルから退避してきた「テナントの退避需要」によるものというのが、オフィスマーケット改善の実態なのです。したがって、建替えが終了する東京五輪前後となると、多くの案件が竣工を迎える。当然、一旦退去したテナントを呼び戻そうとする。容積率を割り増ししている床については新規のテナントを引き入れようとする。壮絶なテナントの「奪い合い」が発生するだろうことは容易に想像がつきます。現に水面下で大手デベロッパーによる新規供給予定ビルへのテナント誘致合戦が過熱しています。たとえば、三井不動産が運営する六本木の東京ミッドタウンの主要テナントであるヤフーは、今年5月、赤坂見附に誕生する東京ガーデンテラスへ移転します。(つづく)
牧野 知弘(まきの ともひろ オラガ総研株式会社 代表取締役)
東京大学経済学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストンコンサルティンググループを経て1989年三井不動産入社。「日本橋コレド」「虎の門琴平タワー」など数多くの開発を手がけた後、三井不動産ホテルマネジメントに出向しリノベーション、経営企画、コスト削減、新規開発業務に従事。2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任し東京証券取引所REIT市場に上場。2009年オフィス・牧野およびオラガHSC設立。2015年オラガ総研設立。テレビ、ラジオでの穏やかな語り口に定評がある。