対象:会社設立
回答:2件
使用人兼務取締役
業務委託先の個人事業主を、その事業の継続を認めながら、会社の取締役として迎えたいとのことですが、それ自体は、可能です。但し、留意するべき点があります。
まず、会社及びその方の双方が気を付けておくべき点としては、取締役は会社に対して善管注意義務をおっており、その方が個人事業を継続することによって、会社に対する忠実義務に反しないか、競業避止義務に触れないかの検討が必要です。競業取引となれば、取締役会の事前の承認が必要です。
また、その方の報酬について、従業員(使用人)としての分と取締役としての分とを分けておく必要があるでしょう。それぞれの報酬の決め方や、法規制が異なるからです。
相手の方におかれて注意し、検討するべきこともあります(例えば取締役の各種の責任、収入の申告など)。
会社の業務を、その方に発注してやってもらうことについては、取締役・会社間取引となりますので、原則として、取締役会の事前の承認を得る必要があります。
回答専門家
- 大塚 嘉一
- (弁護士)
- 菊地総合法律事務所 代表弁護士
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取締役としての義務に留意して進めましょう
chiiko_sanさん、こんにちは。業務委託をしている個人事業主を非常勤取締役に迎え、引き続き業務委託をすることが可能かというご質問ですね。
非常勤取締役に業務委託をすることは可能ですが、いくつか注意点があります。まず、取締役が法令上負っている義務につきご説明します。
(1)善管注意義務
取締役は会社から委任されて取締役を引き受けています。受任者である取締役は民法644条に従い、善管注意義務を負っています。これは取締役として通常期待される義務を負って取締役の職務を行う必要があるということです。例えば、法令違反をしないこと、会社に法令違反行為をさせないこと、経営判断の失敗があった場合に取締役がその判断過程において十分な注意をもって携わっていること等があります。
民法:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=129AC0000000089
(2)忠実義務
取締役は株式会社のために忠実にその職務を行わなければならないことが、会社法355条に定められています。忠実な職務遂行には自己や第三者の利益を優先し会社の利益を犠牲にしてはならないことを含みます。
会社法:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=417AC0000000086
(3)競業及び利益相反取引の制限
取締役は会社が行っている事業と同様の取引(競業取引)を行う場合、当該取引につき重要な事実を開示し、株主総会の承認を得る必要があることが、会社法356条で定められています。但し取締役会設置会社では株主総会ではなく取締役会の承認で代替できます(会社法365条)。
取締役は会社の内部情報やノウハウ、顧客情報を知ることができる立場にいます。取締役が会社が行う事業と同様の取引を行う場合、会社の情報を利用する可能性がある為、株主総会(もしくは取締役会)の承認を得る必要があります。
また、取締役が自己または第三者の為に株式会社と取引を行う場合、当該取引につき重要な事実を開示し、株主総会(もしくは取締役会)の承認を得る必要があることが、会社法356条で定められています。取締役と株式会社が取引を行う場合、取締役が自己の利益を優先することで会社に損害を与える可能性があるためです。例えば個人事業主の方に支払う業務委託料が高ければ個人事業主である非常勤取締役に利益がありますが、会社にとっては損失となります。このように取締役と会社の取引は互いの利益が相反するので、利益相反取引となります。
(4)取締役の会社に対する損害賠償責任
取締役は(1)に記載した善管注意義務、(2)に記載した忠実義務を負っています。これらの義務を怠り会社に損害を与えた場合、損害賠償責任を負うことが会社法423条1項に定められています。
株主総会(もしくは取締役会)の承認を得ずに取締役が(3)に記載の競業取引を行った場合、当該取引により得た利益を会社に対する損害として、損害賠償する責任を負うことが会社法423条2項に定められています。
また、取締役が(3)に記載の利益相反取引を行い株式会社に損害が生じた場合、取締役が損害賠償を行わなければならない点、会社法423条3項に定められています。
上記をまとめますと、chiiko_sanさんが株式会社を設立し個人事業主の方を非常勤取締役として迎え、引き続き業務委託する場合、以下を株主総会(もしくは取締役会)で承認する必要があります。
1.非常勤取締役となる個人事業主の方が会社と同様の取引を行っている場合は、非常勤取締役が競業取引を行うことの承認。
2.非常勤取締役と利益相反取引(業務委託)を行うことの承認。
chiiko_sanさんがこれから会社設立手続きを行うにあたり取締役会を設置するかどうかも含め検討頂くのがよろしいかと思います。取締役会を設置する場合、代表取締役が3か月に一回以上自己の職務の執行の状況を取締役会に報告する必要がありますので(会社法363条2項)、ご留意下さい。
非常勤取締役に限った話ではありませんが、取締役に支払う報酬(役員報酬)についても留意点をご説明致します。
従業員に支払う給与や業務委託費用と異なり、取締役に支払う報酬、賞与は以下3つのカテゴリー以外は税務上の損金と認められない、つまり税務上の費用と認められず課税されることになります。
<役員報酬が税務上の損金と認められるケース>
(1)定期同額給与
事業年度期間中、毎月同額給与を支払う場合。但しやむを得ない理由がある場合は一定の要件に従い給与額の改定可能です。
(2)事前確定届出給与
事前確定届出給与に関する届出を納税地の所轄税務署へ提出した場合。役員に賞与を支払う場合、事前確定届出給与として支払うことで損金算入することができます。
届出書は次の1.又は2.のうちいずれか早い日(新設法人の場合は、設立の日以後2か月を経過する日)までに提出する必要があります。
1.株主総会等の決議によりその定めをした場合、決議をした日から1か月を経過する日。
2.会計期間開始の日から4か月を経過する日。
(3)業績連動給与
売上高や利益の状況を示す指標、上場会社の場合は株価に応じて給与を算定する場合。主に大企業向けのケースですので、ここでは詳細を割愛します。
出典/国税庁タックスアンサー:https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
非常勤取締役の報酬、賞与について税務上の損金として扱われない場合、負担する税金が増えてしまいますので上記に留意して頂ければと思います。
chiiko_sanさんの会社設立、事業運営がご成功されることを心より祈念しております。
回答専門家
- 小松 和弘
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ホットネット株式会社 代表取締役
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