日本人の平均寿命は男性が79歳、女性が86歳と世界最長クラスであり、日本人は世界で最も長生きしている国民の一つです。2013年1月現在の世界最長寿者が115歳の日本人男性であることは、その一つの例に過ぎません。ただその世界一の長寿社会という地位も、最近では少し怪しくなっています。2012年の統計で、男性はスイスや香港などに抜かれて世界5位、女性も1位ながら若干短くなっています。
また寿命の順位だけでなく、寿命の「質」もたいへん重要です。いくら寿命が長くとも、不健康な状態で長生きしても意味はありません。現実に日本人の多くは、亡くなる前の数年間は寝たきり又はそれに近い形の闘病生活を余儀なくされています。脳卒中などの病気で長期の入院生活を続けるか、もしくは自宅や老健施設などで手厚い介護を受けながら何とか生き延びているのが現状です。
平均的なイメージでいくと、女性の場合79歳くらいから闘病生活や寝たきり生活に入り、86歳にお亡くなりになる、というライフサイクルです。つまり平均して7年間は寝たきり生活を送る計算となります。このような現実を目の当たりにすると、世界一の長寿などと自慢していられる状況ではないことが感じ取れます。すなわち長寿にも見かけ上の長寿と、健康を維持しながら長生きできる「健康長寿」とがあるのです。
もし日本人が見かけ上の寿命だけ長くて健康寿命が短いのだとすると、それは本当の長寿ではない、日本人は平均寿命の数字ほど健康ではない、ということになります。実際に日本人の多くは、自分たちがそれほど健康ではないということを実感しています。それは一つには、ガンや糖尿病などの生活習慣病、うつ病などの精神疾患、アトピーなどのアレルギー疾患などが軒並み増加していることからも明らかです。
病人が多くて寿命が長いということは、それは多くの人が病気を抱えながら長生きしている、ということの裏返しです。これは医療が発達して病気のコントロールが可能となったことの皮肉な結果といえます。荒っぽい言い方をすると、病気になっても簡単には死ななくなった、ということなのです。これは日本の医療が薬物中心の西洋医学を主流とし、予防にはあまりウェートを置かないという現実と無関係ではありません。
また病気をしていない、一見して健康とみられている人であっても、本当に健康を実感している人は、案外と少ないのではないでしょうか。実際に健康診断などで「異常なし」と判定された人であっても、慢性の疲労感や頭痛、不眠症、アレルギー症状、うつ状態、風邪をよくひく、イライラする、便秘や下痢を繰り返す、などといった不定愁訴に悩まされています。まさに日本人は「1億総半病人」状態とさえ言えるのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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