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河野 英仁
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米国特許判例紹介: Web上における刊行物とは

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米国特許判例紹介: Web上における刊行物とは 

~米国特許法第102条の刊行物とWebとの関係~

河野特許事務所 2013年2月5日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

                            Voter Verified, Inc.,

                                         Plaintiff-Appellant,

                                v.

                      Premier Election Solutions, Inc., et al.,

                                        Defendants- Appellees.

 

1.概要

 新規性に関しては米国特許法第102条(b)に規定されている。

 

第102条 特許要件;新規性及び特許を受ける権利の喪失

次に該当する場合を除き,何人も特許を受ける権原を有する。

・・・

(b) その発明が,合衆国における特許出願日前1年より前に,合衆国若しくは外国において特許を受け若しくは刊行物に記載されたか,又は合衆国において公然実施され若しくは販売された場合

 

 インターネット上に掲載された文書も刊行物に該当し、新規性が否定される。

 

 本事件では、問題となる文書がWeb上に掲載されていたものの、当該文書に対しWeb上にて全く索引付けされていなかった。このようなWeb上の文書が米国特許法第102条(b)における刊行物に該当するのか否かが問題となった。地裁[1]及びCAFCは共に当該文書が公衆に対し利用可能な状態にあったことから、刊行物に該当すると判断した。

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 Voter Verifiedは再発行特許であるU.S. Reissue Patent RE40,449 (以下、449特許)を所有している。449特許は2000年12月7日の優先権を主張して出願が行われ、2008年8月5日に登録された。

 

 参考図1は449特許の代表図である。449特許は、選挙投票自動システム及び方法に関し、集計の際に、機械及び人的エラーを発見し、修正する自動認証手続を特徴としている。

 

 

 

 参考図1 449特許の代表図

 

 

(2)訴訟の経緯

 Premier Election Solutions(被告)も自動投票システムを提供していた。2009年11月、原告は449特許の侵害に当たるとして被告をフロリダ州連邦地裁に提訴した。被告は、449特許は、先行技術Benson記事により無効であると主張した。

 

 地裁は被告の主張を認め、特許はBenson記事により自明であり449特許は無効であるとの判決をなした。原告はこれをCAFCに不服として控訴した。

 

 

3.CAFCでの争点

争点: 索引付けされていないWeb上の文書が刊行物に該当するか否か

 原告は、Benson記事はWebサイトにアップロードされているものの、何ら索引付けされておらず、第三者は当該先行技術にアクセスすることができないことから、米国特許法第102条(b)に規定する先行技術に該当しないと主張した。

 

 過去の事件においても索引付けは、先行技術のアクセスビリティを決定するにあたり、重要な要素となっていた。過去の判例では図書館に収蔵された引用文献が問題となっていた。

 

 In re Hall事件[2]では、大学の図書館に収蔵されていた論文は、カタログにて索引付けされていたことから、公衆にとってアクセス可能な刊行物であると判断された。

 

 また、In re Bayer事件[3]では、収容されているが、大学図書館で棚にのせられておらず、またカタログにも載っていない論文は公衆にとって利用可能な刊行物ではないと判示された。

 

 このように索引付けとアクセスビリティとの間に密接な関係があるところ、索引付けされることなくWeb上にアップロードされた文書が、米国特許法第102条(b)にいう刊行物に該当するか否かが問題となった。

 

 

4.CAFCの判断

結論: 索引付けはアクセスビリティの必須要件ではなくBenson記事は刊行物に該当する。

 CAFCはWeb上にアップロードされたBenson記事は刊行物に該当すると判断した。

 

 CAFCは、索引付けは、書籍等の固定された伝統的なものであれば重要であるが、オンライン文献の公衆のアクセスビリティの評価に際してはさほど重要ではないと述べた。むしろ、文献が「相当な注意を払う興味ある者及び当業者が検索をすることができる範囲内で利用可能」であるか否かがポイントになると判示した。

 

 Benson記事に関する状況は以下のとおりである。

(1)Benson記事は、Tom Benson によって1986年3月4日Risks Digestに投稿された。その当時、Risks Digestは購読メーリングリストを通じてオンラインで配布されており、またSRIインターナショナルにより管理されるFTP(File Transfer Protocol)サイトを通じてダウンロード可能であった。

  なお、449特許の優先日は2000年12月7日であり、これよりも1年前の1999年12月7日(クリティカルデイト)以前に公開されたものが米国特許法第102条(b)にいう刊行物に該当する。

 

(2)1995年1月を始めとして、全てのRisks Digestにおいて発行されたコンテンツ(Benson記事を含む)は、ウェブサイト(http://catless.ncl.ac.uk/Risks)を通じてインターネット上で世界中にて利用可能となった。

 

(3)Risks Digestは、コンピュータ自動化のリスクに興味あるコミュニティに十分に知られている。これには、電子投票技術に関するものも含み、1999年前にRisks Digestは、電子投票に関する100以上の記事を含んでいた。

 

(4)1995年9月からRisks Digestウェブサイトは、投票、選挙等の検索用語に対応してBenson記事を検索できるサーチツールを含んでいた。

 

 CAFCは以上の事実に基づけば、Risks Digest ウェブサイトは、クリティカルデイト前に疑いようもなくインターネットユーザに公開されており、電子投票に興味ある当業者は、当該技術を議論する著名なフォーラムとして、Risks Digestに気付いていたであろうと述べた。

 

 そうすると、Risks Digestウェブサイトにアクセスすることにより、これに興味ある研究者は、当該ウェブサイト自身の検索機能を注意して使用することでBenson記事を見つけるはずである。

 

 以上のことからCAFCは、Benson記事は、クリティカルデイト前に公衆にとって利用可能であり、米国特許法第102条(b)における先行技術としての「刊行物」に該当すると結論づけた。

 

 

5.結論

 CAFCは、Benson記事が米国特許法第102条(b)にいう刊行物に該当し、自明であると判断した地裁の判断を維持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 図書館の文書と異なり、相当な注意を払う興味ある者及び当業者が検索をすることができる範囲内で利用可能であれば、米国特許法第102条(b)における刊行物に該当すると判示された。

 

 なお、2013年3月16日から施行される改正米国特許法においては、新規性に関する規定は、改正米国特許法第102条(a)に統合された。改正米国特許法第102条(a)(1)の規定は以下のとおり。

 

第102 条 特許要件;新規性

(a)新規性;先行技術-次の各項の一 に該当するときを除き,人は特許を受ける権利を有するものとする。

 (1)クレームされた発明が、有効出願日前に特許されるか、刊行物に記載されるか、または、公然使用、販売、その他公衆に対し利用可能となった場合

 

 本事件におけるBenson記事は仮に改正法が適用される状況にあったとしても、米国特許法第102条(a)にいう刊行物に該当するであろう。

 

 米国特許法第102条(a)(1)には、さらに新たな概念「その他公衆に利用可能となった場合Otherwise available prior art (to the public)」が規定されている。公表されたガイドライン案によれば、「包括的」な意味であり、クレーム発明が、十分に公衆に利用可能であれば、たとえ文書その他の開示が印刷された文書であろうがなかろうが、取引で販売されてあろうがなかろうが、米国特許法第102条(a)(1)の規定に基づく「その他利用可能」な先行技術に該当する。

 

 例えば、大学図書館における学生論文、科学会議におけるポスター表示または配布したその他の情報、公開特許公報における主題、電子的にインターネットに投稿された文書、米国統一商事法典に基づく販売を構成しない商取引等も「利用可能」と判断される[4]。

 

 従って、この点に関しては改正前後において取り扱いに相違はない。

 

判決 2012年11月5日

                                                                            以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/11-1553.pdf

 



[1] Voter Verified, Inc.v. Premier Election Solutions, Inc., No. 6:09-cv-1968 (M.D.Fla. Aug. 31, 2011)

[2] In re Hall, 781 F.2d 897 (Fed. Cir. 1986)

[3] In re Bayer, 568 F.2d 1357 (CCPA 1978)

[4] 詳細は拙著「新旧対照 改正米国特許法実務マニュアル」経済産業調査会を参照されたい。

 

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