(続き)・・ところが今日、これら3大療法の前に大きな壁が立ちはだかっています。例えば抗がん剤は進行ガンにも使えると上述しましたが、逆に言うと3大療法の範囲内では、進行ガンに対しては抗がん剤くらいしか選択肢がないのです。すなわち検査の結果、進行ガンで他臓器に転移していると診断された場合、手術や放射線はもはや不可能で、抗がん剤を投与するしかない、などと宣告されます。抗がん剤に一縷の望みを託すのです。
その抗がん剤が効いてくれれば救いもあるのですが、なかなかそうはいきません。ガンの種類にもよりますが、抗がん剤が明らかに効果を示すのは、進行ガンのおよそ1~2割くらいに留まります。またある程度奏功した場合でも、やがて効果が薄れる「耐性」が生じ、再発に至ります。効果があるのは多くの場合、一時的なことなのです。さらに抗がん剤には吐き気や脱毛、白血球減少など深刻な「副作用」が少なくありません。
すなわちひどい副作用に悩まされた挙句、大した効果が得られないか、得られたとしても限定的もしくは一時的な効果に終わるケースが大半です。この傾向は放射線照射であっても同じです。治療の効果がない、もしくは効果があったものの再燃したような場合には別の治療法を試すことになりますが、多くの場合これも効果は限定的かつ一時的です。いよいよ治療手段がなくなると匙を投げられ、「ホスピス」行きを勧められます。
それでは「早期ガン」のうちに手術で除去してしまえば安心かというと、必ずしもそうとは言い切れません。外科医の済陽高穂氏の研究によれば、早期ガンで手術した約1400例のうち、5年後に存命だった人は52%だった、と報告されました。その死因の大半はガンの再発もしくは転移、あるいは別のガン発症でした。すなわち手術でガンを除去できたにも関わらず、5年後には半数近くがガンで亡くなったということです。
この結果をみると、早期ガンといえども手術でガンの病巣を除去するだけでは、決して安心できないことが分かります。済陽氏はこの結果を受けて、ガンの再発予防や進行阻止のためには、食生活などライフスタイルの抜本的な改善やストレスの解消、再発を防ぐような医療的ケアの重要性を説いています。ガンは眼に見える病巣を除去するだけでなく、ガン発症に至った「体質」そのものを克服する必要があるのです。
今や米国やドイツなど医療先進国に於いては、手術や抗がん剤など通常療法だけに頼った診療からは明らかに脱却しつつあります。手術は除去範囲を限定した「縮小手術」が主流となり、抗がん剤の使用もその適応を見定めて、かなり慎重なものとなっています。その代わりにガン治療の主流となってきた治療法が多数あり、通常療法との併用も含めて良好な成果を挙げつつある治療法がいくつかあります・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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