事業承継と相続する自社株式の株価対策 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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事業承継と相続する自社株式の株価対策

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相続

第2 株式の評価方法の適用判定

 


第5 株価対策

1 株式評価引下げ策

 先に述べた自社株の評価方法である類似業種比準価額と純資産価額を引き下げる方法について説明します。

(1) 類似業種比準価額の引下げ

 類似業種比準方式は、1株あたりの配当、利益および純資産の各金額について上場の類似業種との対比により評価します。そこで、株式評価を引下げるためには、各要素を引下げることとなります。

① 配当の引下げ

 配当の引下げについては、そもそも配当をしないか、または、臨時配当によることが考えられます。臨時配当による場合、株価を計算する上での配当から除外することができます。

② 利益の引下げ

 損金を増やす方法が考えられます。まず、資金の支出を伴う方法として従業員への決算賞与の支給、役員退職金の支給、定期保険の加入等が挙げられます。これらに対して、資金の支出を伴わない方法として、不要な固定資産の処分、不良在庫の廃棄・処分、売掛金や受取手形等のうちの不良債権の放棄等があります。

③ 簿価純資産の引下げ

 損金計上される支出を増やすことによって会社の純資産を減らす方法があります。

(2) 純資産価額の引下げ

 純資産価額方式は、会社財産を、相続税評価額により評価し、評価した総資産の価額から負債や評価差額に対する法人税額等を差し引いた残りの金額を評価額とします。そこで、株式評価を引下げるには、損金計上される支出を増やすことにより会社の純資産を減らす等の方法が考えられます。

 以上のほか、類似業種比準方式の場合に、合併や会社分割を経て株価の低い業種に変更したり、債務超過会社と吸収合併して(会社法795条2項1号)、利益と損失を通算し株価を引き下げたりすることができます。

2 従業員持株会

(1)従業員持株会は、法的には組合であり従業員がその旨の組合の規約を作ることにより設立することができます(民法667条)。従業員持株会は次に述べる通り節税効果が期待できますが、実態のない従業員持株会である場合には、税務調査において否認される可能性があります。そこで、規約を作るだけでなく、実際に理事会および総会を開催し、議事録を作る等活動実体がある必要があります。

 また、規約において退職により自動的に従業員持株会を退会することや退会の場合には現金で買い戻すことを規定することによって、退職時に買い戻しを簡単にすることができます。従業員持株会でなく従業員個人が株式を取得する場合には、買戻条件が整わずなかなか株式を買い戻すことができないことがありますが、従業員持株会に株式を保有させたうえ、上記のような規定を規約に設けておくことによって、この弊害を解消することができます。

□規約サンプル

第○条 従業員が会社を退職した場合には、従業員持株会を退会し、当該持ち株を相当な価格で従業員持株会に譲渡する。

(2)事業承継との関係

 非公開会社の株式は、流動性に乏しく売却することができないのが通常です。そこで、従業員持株会を設立したうえ、オーナー社長が保有する株式を譲渡して持株数を減らすことにより、事業承継の際の税負担を軽減することができます。なぜ税負担が軽減されるかというと、従業員持株会は会社の支配に無関係な非同族関係者ですので、配当還元価額方式で低額に譲渡することができるからです。

 例えば、オーナー社長が1株100万円と評価される株式を1000株持っていたとします。この場合、相続財産は10億円(1000株×100万円)となります。これに対して、従業員持株会をつくり、オーナー社長が保有する株式のうちの25%である250株を従業員持株会に配当還元価額方式に従い1株10万円で譲渡したとします。この場合、相続財産は7億5000万+2500万円(250株譲渡分)の7億7500万円となり、大幅に軽減することができます。また、オーナー社長の譲渡所得については、株式の譲渡価額を発行金額とした場合には譲渡益がなく所得税も課税されません。

 譲渡する株式数については、経営者が会社の支配権を維持できる限度にすべきですが、そもそも譲渡する株式を種類株式の無議決権株式とすることにより、従前と同様に会社に対する支配権を維持することができます。

 なお、従業員持株会が取得した株式を譲渡できないように、定款に譲渡制限の定めをおいておくとよいでしょう。また、労使関係が良好でない会社では、従業員が集団で少数株主権を行使するおそれがあることに留意しなければなりません。

 従業員持株会に関連した裁判例では、取得価額による買戻しも旧商法204条1項(会社法127条)に違反しないとしたものがあります。従業員が自由な意思で制度趣旨を了解した上で株主になったのだから、無効とする必要はないというのがその理由です(最判平成7年4月25日裁判集民175号91頁)。

3 DES(デットエクイティスワップ)

 DESとは、Debt Equity Swapの略称で、債権者が会社に対する債権(会社側から 見た場合には債務)を株式に取り替えることをいい、財務改善の手法の一つです。オーナー経営者が会社に自己資金を貸し付けることがよくあります。こうした貸付金は会社の財務状態が健全でない場合になされるのが典型です。このような場合に、相続人が当該金銭債権を相続して会社に対して返還請求をしても、会社に返済の資力がなく回収は容易でありません。

 そこで、オーナー経営者の生前に、会社の債務を資本金に組み替えるDESをすることにより、オーナー経営者の相続財産は金銭債権から株式に転換することになります。金銭債権の相続税評価額は債権額であるのに対して、株式の評価は、その基因となった金銭債権の債権額よりも低く評価されますので、DESをすることによって相続財産の評価引き下げを図ることができます。

 DESの手続は、現金振替法と現物出資法に分類されます。

 まず、現金振替法では、債権者は、債務者の増資に応じ資金を払い込み、株式を引き受けます。債務者は、株式発行により払い込まれた資金を債務者の借入金の返済に充当します。これにより、あたかも、債務と株式が交換されたと同様の効果が得られることになります。次に、現物出資法では、債権者が、債権を金銭に代えて現物で出資し、その価値相当分の株式を引き受けます。この場合、検査役の調査等が必要になります。

 

 


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