事業承継と信託の税金 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
弁護士

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:事業再生と承継・M&A

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

事業承継と信託の税金

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. 事業再生と承継・M&A
  3. 事業再生と承継・M&A全般
相続

第5章 信託の税金

第1 平成19年度税制改正

1 概要

 制定以来約80年ぶりの信託法の改正をうけて、平成19年度税制改正において信託の税務について重要な変更がありました。信託に対する課税の対応の必要性、課税の公平・中立を確保しつつ多様な信託の類型への課税上の対応を図り、さらには、法人税や相続税等の租税回避を防止する観点から各種の規定が整備されました。

まず、信託については、受益者等課税信託、集団投資信託および退職年金等信託、法人課税信託という3つの概念に分けられることになりました。これらの概念ごとに、どのタイミングで誰にどのような課税がなされるのか等の税法上の取扱いが異なることになります。税法上の取扱いを図示すると、以下の通りです。次項より、各概念の説明と税法上の主な取扱いについて説明します。

 

2 受益者等課税信託

(1)概要

 信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限ります)は当該信託の信託財産に属する資産および負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益および費用は当該受益者の収益および費用とみなして、この所得税法の規定を適用します(所得税法13条1項本文)。

 また、信託の変更をする権限(軽微な変更をする権限として政令で定めるものを除きます)を現に有し、かつ、当該信託の信託財産の給付を受けることとされている者(受益者を除きます)は受益者とみなして(以下、みなし受益者といいます)(所得税法13条2項)、前記の受益者と同様の処理をします。ここで信託の変更をする権限と軽微な変更をする権限という二つの概念が出てきました。前者は、みなし受益者に該当するための権限であり、後者はみなし受益者から除外される場合の権限です。これらの内容は、所得税法施行令において次のように定められています。

信託の変更をする権限

他の者との合意により信託の変更をすることができる権限を含みます(所得税法施行令52条2項)

軽微な変更をする権限

信託の目的に反しないことが明らかである場合に限り信託の変更をすることができる権限(所得税法施行令52条1項)

 

(2)各論

①受益者やみなし受益者が複数の場合

 受益者やみなし受益者が複数の場合には、信託の信託財産に属する資産および負債の全部をそれぞれの受益者がその有する権利の内容に応じて有するものとし、当該信託財産に帰せられる収益および費用の全部がそれぞれの受益者にその有する権利の内容に応じて帰せられるものとします(所得税法施行令52条4項)。

②自己信託の場合

 先述した自己信託、すなわち、委託者が自己の有する資産を信託財産として、自ら受託者となり、信託を設定する場合には、当該資産の移転はなかったものとして取り扱うことになります。

③受益者が法人の場合

 受益者等課税信託の委託者がその有する資産を信託した場合において、受益者となるべき法人が受益者やみなし受益者になるために対価を負担したかどうかによって、その課税関係が異なります(所得税法67条の3第3項)。

対価を負担しない場合

贈与により、資産の移転が行われたものとして取り扱う

対価を負担する場合

その対価の額による譲渡により、資産の移転が行われたものとして取り扱う

 

 この場合、法人に対して、贈与または著しく低い価額の対価として政令で定める額により、信託に関わる資産が移転された場合には、その委託者に対する課税は、贈与または譲渡の時における価額に相当する金額により、譲渡が行われたものとみなされます(所得税法59条1項)。

④ 信託に新たな受益者等が存するに至った場合

 信託に新たに受益者等が存するに至った場合において、次の2つの要件のいずれも充たすときは、当該新たに受益者等が存するに至った時において、当該信託の受益者等であった者から当該新たな受益者等となる者に対して贈与(当該受益者等となる者が対価を負担している場合には、当該対価の額による譲渡)により当該信託に関する権利に係る資産の移転が行われたものとして、当該信託の受益者等であった者の各年分の各種所得の金額を計算します(所得税法67条の3第4項)。

(ⅰ)当該信託の新たな受益者等となる者(法人に限ります)が適正な対価を負担せずに受益者等となる者であること

(ⅱ)当該信託の受益者等であった者が居住者であること

⑤信託の一部の受益者等が存しなくなった場合

 信託の一部の受益者等が存しなくなった場合において、次の要件を充たす場合には、当該信託の一部の受益者等が存しなくなった時において、当該信託の一部の受益者等であった者から当該利益を受ける者となる者に対して贈与(当該利益を受ける者となる者が対価を負担している場合には、当該対価の額による譲渡)により当該信託に関する権利に係る資産の移転が行われたものとして、当該信託の一部の受益者等であった者の各年分の各種所得の金額を計算するものとします(所得税法67条の3第5項)。

(ⅰ)既に当該信託の受益者等である者(法人に限ります)が適正な対価を負担せずに当該信託に関する権利について新たに利益を受ける者となる者であること

(ⅱ)当該信託の一部の受益者等であった者が居住者であること

⑥信託が終了した場合

信託が終了した場合において、次の要件を充たす場合には、当該給付を受けるべき、または帰属すべき者となった時において、当該受益者等であった者から当該給付を受けるべき、または帰属すべき者となる者に対して贈与(当該給付を受けるべき、または帰属すべき者となる者が対価を負担している場合には、当該対価の額による譲渡)により当該信託の残余財産の移転が行われたものとして、当該受益者等であった者の各年分の各種所得の金額を計算するものとします(所得税法67条の3第6項)。

なお、残余財産については、当該信託の終了の直前においてその者が当該信託の受益者等であった場合には、当該受益者等として有していた当該信託に関する権利に相当するものを除きます。

(ⅰ)当該信託の残余財産の給付を受けるべき、または帰属すべき者となる者(法人に限ります)が適正な対価を負担しないこと

(ⅱ)当該給付を受けるべき、または帰属すべき者となる者であり、かつ、当該信託の終了の直前において受益者等であった者が居住者であること

⑦受益者等課税信託が法人課税信託に該当することとなった場合

 受益者等課税信託が法人課税信託に該当することとなった場合については、次の区分に応じて、出資または贈与による資産の移転があったものとみなされます。

受益者等課税信託が受益者やみなし受益者の存しない信託以外の法人課税信託に該当することとなった場合

法人課税信託に係る受託法人に対する出資(所得税法6条の3第6項)

受益者等課税信託が受益者やみなし受益者の存しない信託の法人課税信託に該当することとなった場合

法人課税信託に係る受託法人に対する贈与による当該資産の移転(所得税法6条の3第4項)

 

(3)信託の計算書の提出義務

 受益者等課税信託の受託者は、その信託の計算書を、税務署長に提出しなければなりません(所得税法227条)。その際、受益者が信託会社かそれ以外によって、以下の通り提出期限が異なります。

信託会社(信託業務を営むに規定する金融機関を含みます)

毎事業年度終了後1月以内

 

信託会社以外

毎年1月31日まで

 

 信託の計算書については国税庁のホームページに書類の様式があります。

http://www.nta.go.jp/tetsuzuki/shinsei/annai/hotei/annai/23100054.htm

 

3 集団投資信託および退職年金等信託

(1) 集団投資信託

① 集団投資信託とは

 集団投資信託とは、合同運用信託、投資信託(法人税法2条29号ロに掲げる信託に限ります)および特定受益証券発行信託をいいます。

② 分配時課税の原則

 集団投資信託の信託財産に属する資産および負債並びに当該信託財産に帰せられる収益および費用については、先述した受益者等課税信託に関する取扱いは適用されず、受益者の収益および費用とはみなされません(所得税法13条1項但書)。その結果、集団投資信託から信託の受益者に対する収益の分配が行われる段階で、所得税が課せられることとなります。

③ 収益分配への課税

集団投資信託の収益の分配に対する課税関係は、信託の種類に応じて次のように異なります(所得税法23条、24条)。

合同運用信託、公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託の収益の分配

利子所得

投資信託(公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託を除きます)および特定受益証券発行信託の収益の分配

配当所得

 

④ 受益権譲渡への課税

 集団投資信託に該当する投資信託(公社債投資信託および公募公債等運用投資信託を除きます)および特定受益証券発行信託の受益権を譲渡した場合の所得は、株式等の譲渡所得として所得税が課されます(租税特別措置法37条の10)。ただし、貸付信託、公社債投資信託および公募公社債等運用投資信託に関する受益権の譲渡における所得は非課税となっています(租税特別措置法37条の15)。

(2) 退職年金等信託

① 退職年金等信託とは、

退職年金等信託とは、厚生年金基金契約、確定給付年金資産管理運用契約、確定給付年金基金資産運用契約、確定拠出年金資産管理契約、勤労者財産形成給付契約もしくは勤労者財産形成基金給付契約、国民年金基金もしくは国民年金基金連合会の締結した国民年金法に規定する契約またはこれらに類する退職年金に関する契約で政令で定めるものに係る信託のことをいいます。

② 分配時課税の原則

 退職年金等信託も集団投資信託と同様に先述した受益者等課税信託に関する取扱いは適用されず、受益者の収益および費用とはみなされません(所得税法13条1項但書)。退職年金等信託から、当該信託契約に基づいて支払われる一時金、年金等については、退職所得および雑所得として課税されます(所得税法31条、35条)。

また、信託財産に関する利子等は一定の場合に非課税とされています(所得税法176条2項、180条の2第2項)。

 

4 法人課税信託

① 法人課税信託とは、法人税法2条29号の2に規定する法人課税信託をいいます(所得税法2条1項8号の3)。これをうけて法人税法では、受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託、受益者等の存しない信託、法人(公共法人および公益法人を除きます)が委託者となる信託等を定めています。

② 分配時課税の原則

 法人課税信託については、集団投資信託および退職年金等信託と同様に分配時課税の原則が適用されます(所得税法13条1項但書)。

③ 受託者の課税関係

法人課税信託の受託者は、各法人課税信託の信託資産等(信託財産に属する資産および負債並びに当該信託財産に帰せられる収益および費用をいいます)および固有資産等(法人課税信託の信託資産等以外の資産および負債並びに収益および費用をいいます)ごとに、それぞれ別の者とみなして、所得税法の規定を適用します(所得税法6条の2第1項)。そして、各法人課税信託の信託資産等および固有資産等は、そのみなされた各別の者にそれぞれ帰属するものとします(所得税法6条の2第2項)

④ 受益者の課税関係

 法人課税信託の収益の分配は、配当所得として所得税が課税されます(所得税法24条)。なぜなら、所得税法上、法人課税信託の収益の分配は資本剰余金の減少に伴わない剰余金の配当とみなされるとされているからです(所得税法6条の3第8項)。

 また、受益権の譲渡による所得は、譲渡所得として所得税が課税されます(租税特別措置法37条の10)。なぜなら、所得税法上、受益権は株式または出資とみなされるとされているからです(所得税法6条の3第4項)。

⑤ 委託者の課税関係

 受益者等の存しない信託以外の法人課税信託の委託者がその有する資産の信託をした場合には、これらの法人課税信託に係る受託法人に対する出資があったものとみなす(所得税法6条の3第6項)。

受益者等の存しない信託の委託者がその有する資産の信託をした場合には、これらの法人課税信託に係る受託法人に対する贈与により当該資産の移転があったものとみなされます(所得税法6条の3第7項)。

 

第2 法人税法

 平成19年度改正において受益証券発行信託、目的信託等に関する新たな規定も整備されました。

また、租税回避のおそれのあるケースとして法人が委託者となる以下の3つの類型の信託を規定し、これらについては法人課税信託に属するものとしました(法人税法2条29号の2ハ(1)ないし(3))。それゆえ、これらの類型の信託は、受託者を納税義務者として、当該固有財産に帰せられる所得とは区分し、法人税を課税することとなります。

(ⅰ)事業の重要部分の信託で委託者の株主等を受益者とするもの

(ⅱ)自己信託等で存続期間が20年を超えるもの

(ⅲ)自己信託等で損益分配割合が変更可能であるもの

 もっとも、以上と異なり、委託者が公共法人や公益法人等であるもの、信託財産に属する資産のみを信託するものについては、租税回避のおそれがないため、法人課税信託の範囲から除外されています。

 

第3 相続税、贈与税等に係る措置

1 原則

 信託の効力が発生した場合に、適正な価格を負担することなく信託の受益者等となる者がある場合には、その受益者等は、信託の効力が生じたときに、信託に関する権利を、委託者から贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されます。これに対して、委託者の死亡に基因して、信託の効力が生じた場合には、遺贈により取得したものとみなされ相続税が課税されます(相続税法9条の2第1項)。

2 特例

 受益者連続型信託等、すなわち、信託行為に、一定場合に受益権が順次移転する定めのある信託については、各受益者等は前の受益者等から受益権を遺贈等により取得したとみなして相続税等が課税されます(相続税法9条の2第1項ないし第3項、9条の3)。

 また、受益者等が存在しない信託については、一定の場合には受託者に相続税等が課税されます(法人税等は控除)(相続税法9条の4第1項)。これは、受託者の法人税率と相続税率の差を利用した租税回避を防止するためです。受益者等が特定されたとき、一定の場合には受益者等に贈与税が課税されます(相続税法9条の5)。

 

このコラムに類似したコラム

事業承継と株式に関する税金 村田 英幸 - 弁護士(2012/10/11 13:30)

事業承継と株式に関する税金 村田 英幸 - 弁護士(2012/02/01 17:03)

事業承継と相続税の物納 村田 英幸 - 弁護士(2012/02/01 16:45)

事業承継における退職金等の活用 村田 英幸 - 弁護士(2012/02/01 16:32)

事業承継における生命保険の利用 村田 英幸 - 弁護士(2012/02/01 16:26)