自社株式を発行会社に譲渡する場合 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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自社株式を発行会社に譲渡する場合

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相続

第3章 株式を発行会社に譲渡する(自己株式)

第1 手続と財源規制

1 手続

 現経営者が保有する株式を発行会社に譲渡することにより確保した資金で、相続税の現金納付をすることができます。

 会社法が定める手続きとしては、あらかじめ、株主総会の特別決議によって、取得する株式の数等以下の事項に加えて、当該事項に関する取締役会決議事項(会社法158条1項)の通知を特定の株主に対してのみ行う旨を定めなければなりません(会社法156条1項、160条1項、309条2項2号)。

(ⅰ)取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類および種類ごとの数)

(ⅱ)株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除きます)の内容およびその総額

(ⅲ)株式を取得することができる期間

 また、上記の通知を受ける特定の株主以外の株主には売主追加請求権があります。すなわち、株式会社は、株主総会の2週間前までに、他の株主(種類株式発行会社にあっては、取得する株式の種類の種類株主)に対し、上記の特定の株主に自己をも加えたものを株主総会の議案とすることを請求することができます(会社法160条2項3項、会社法施行規則28条)。ちなみに、通知を受ける特定の株主は、この株主総会で議決権を行使することができません(会社法160条4項)。現経営者としては、その一存で保有株式を会社に売り渡すことができないことになります。

2 財源規制

 自己株式の取得により株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額は、取得の効力発生日における分配可能額を超えてはならないという財源規制があります(会社法461条1項)。分配可能額を超える帳簿価額の金銭等が社外に流出すれば、会社の財務基盤を脆弱にしてしまい会社債権者を保護できなくなるからです。

3 その他の留意点

 その他注意しなければならないのは、発行会社が取得した株式には議決権がないということです(会社法306条2項)。つまり、あまりに多くの株式を発行会社に譲渡してしまうと後継者が経営権を保持できなくなります。このことを前提として現経営者が発行会社に譲渡する株式の数を検討するとよいでしょう。

 また、株式会社は取得した自己株式を消却することができます。この場合には、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類および種類ごとの数)を定めなければなりません(会社法178条1項)。発行会社が取締役会設置会社の場合、この決定は、取締役会の決議によらなければなりません(会社法178条2項)。

第2 株式を発行会社に譲渡した場合の税務

1 みなし配当課税

 株式を発行会社に譲渡する場合、会社の株主に対する資本の払戻しとして把握され、会社から株主に支払われる売却代金のうち資本金等の額を超える部分の金額は、配当所得として総合課税の対象となります(法人税法24条1項5号、所得税法25条1項5号)。みなし配当課税により、発行会社には源泉徴収義務が課せられます。他方で、株式を売却した株主には、配当金に対して課税問題が生じます。

 すなわち、株式を売却した株主が個人の場合には、売却により発生した所得は、原則として、売却額と資本金等の額との差額がみなし配当とされ、売却株式の帳簿価額と発行法人の資本金等の額との差額に対して、20%の源泉徴収義務が課されます。みなし配当とされる部分については、前述の通り総合課税の対象となるため税率は、最高で50%にも上り税負担が重くなりがちです。

2 相続した株式の譲渡所得課税の特例

 相続した株式を相続開始後3年以内にその発行会社に譲渡した場合で、次の要件を充たすときは、「相続財産に係る非上場株式をその発行会社に譲渡した場合のみなし配当課税の特例」(租税特別措置法9の7)により、みなし配当課税ではなく、譲渡所得課税により、その税率は20%となります。この特例により、相続により承継した非上場株式の発行会社へ売却する場合の過重な税負担を軽減して、相続人の納税資金を確保できることが期待されます。

(ⅰ)相続または遺贈により取得した株式であること

(ⅱ)相続税が発生すること

(ⅲ)相続開始の日の翌日から相続税の申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡であること

(ⅳ)非上場会社の株式であること

(ⅴ)当該株式を発行した非上場会社への譲渡であること

(ⅵ)税務署に対して所定の届出書を提出すること

 以上の通り、当該特例の適用の有無によって、配当所得となるか譲渡所得となるか税務上の処理が異なることになります。この関係を図示すると以下のようになります。

 

 

3 相続財産を譲渡した場合の取得費加算の特例

 「取得費」とは、譲渡所得の金額の計算上出てくる概念で、資産の取得に要した金額ならびに設備費および改良費の金額の合計額のことをいいます(所得税法38条1項)。租税特別措置法には、相続税額を取得費に加算するという特例があります。すなわち、相続時に支払った相続税のうちの一部を譲渡所得の計算上、取得費に加算します(租税特別措置法39条)。譲渡所得の金額は、資産の譲渡による所得から所得の基因となつた資産の取得費やその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除して、その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除して計算しますので(所得税法33条3項)、加算された相続税の分だけ取得費が増えることなり、結果として譲渡益が減ることになります。

 

 この特例の適用を受けるためには次の要件を充足することが必要です(租税特別措置法39条1項2項)。

(ⅰ)相続または遺贈による非上場株式の取得をした個人で当該相続または遺贈につき相続税額がある者であること

(ⅱ)当該相続に係る申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に非上場株式を譲渡すること

(ⅲ)確定申告書に、当該特例の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、譲渡所得の金額の計算に関する明細書その他財務省令で定める書類の添附があること

 なお、財務省令で定める書類とは、相続の開始があつた日および当該相続に係る申告書を提出した日、当該資産の取得費に相当する金額に加算する金額の計算の明細並びに当該計算の基礎となつた相続税額および当該相続税額に係る課税価格の資産ごとの明細その他参考となるべき事項を記載した書類のことをいいます(租税特別措置法施行規則18条の18第3項)。

 

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