早わかり中国特許:第15回 中国特許出願前の注意事項 (1) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第15回 中国特許出願前の注意事項 (1)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第15回 中国特許出願前の注意事項 (第1回)

河野特許事務所 2012年9月13日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2012年7月号掲載)

 

1.概要

 日本企業の中国進出に伴い、中国本土において発明が生まれるケースが増加している。中国で発明を完成させた場合、秘密保持審査を受ける必要がある。また、中国現地法人と従業者との間で職務発明に関する契約を締結しておく必要もある。

 第15回は秘密保持審査及び職務発明に関する規定を中心に説明する。併せて、出願から登録までの手続について概説する。

 

2.秘密保持審査

(1)概要

 秘密保持審査とは中国で完成した発明または実用新型を外国出願する際に、国務院特許行政部門(特許庁)が国防上の観点から事前に審査を行うことをいう。

 

 国防上の理由により中国では出願内容について秘密保持の必要性があるか否かを審査しており、外国出願に際しても同様に国務院特許行政部門による秘密保持審査を受けなければならないこととしたものである。なお、第3次法改正前は中国で完成した発明については、中国への第一国出願義務が科せられていたが第3次法改正により廃止された。

 

(2)適用対象

 いかなる機関、組織または個人も、中国で完成した発明または実用新型を外国に特許出願する場合、事前に国務院特許行政部門による秘密保持審査を受けなければならない(専利法第20条)。

 ここで、中国で完成した発明または実用新型とは、発明創造の実質的な部分が中国国内で完成した発明または実用新型をいう(細則第8条)。従って日本で発明の実質的部分が完成した場合は、中国で秘密保持審査を受ける必要がない。

 なお、外観設計特許はそもそも秘密保持審査の対象とはならない

 

(3)秘密保持審査の請求手続

 中国で発明または実用新型を完成させた場合、以下の方法により秘密保持審査の請求を行う(細則第8条)。

(i)中国国内に特許出願を行いその後外国出願する場合

 この場合、国内特許出願と同時、または、国内特許出願後外国出願前に秘密保持審査の請求を国務院特許行政部門に行わなければならない。

(ii)中国にPCT出願を行う場合

 中国国務院特許行政部門を受理官庁としてPCT出願した場合、秘密保持審査の請求は不要である。PCT出願の場合、外国へ出願することが前提となっているため、秘密保持審査の請求手続を省略することとしたものである。

(iii)中国へ国内出願せず直接外国へ出願する場合

 中国国務院特許行政部門を経ずに、直接他国の特許庁、または他国特許庁を受理官庁とするPCT出願を行う場合、事前に国務院特許行政部門に秘密保持審査を請求し、かつその発明を詳しく説明しなければならない。

 具体的には、秘密保持審査請求書の提出と共に、技術方案説明書を提出しなければならない(審査指南第5部分第5章6.1.1)。技術方案説明書は、中国語で作成しなければならない。また請求人は、同時に対応する外国語の文書を提出し審査官の参考に供することができる。技術方案説明書は外国へ出願する内容と一致しなければならず、特許出願時に科される要件(細則第17条)に従い記載する必要がある。

 このように、中国に出願せずに外国のみへ出願する場合でも、中国特許出願明細書と同様の書類提出が必要となるため、あえて(iii)によるルートを選択するメリットは少ない。

 

(4)秘密保持審査

(i)予備秘密保持審査

 審査官は秘密保持請求書が提出された場合、予備秘密保持審査を行う。請求書等の形式が規定に合致しない場合、審査官は当該請求書が提出されていないと見なす通知を行う。この場合、請求人は改めて規定に合致する秘密保持審査請求書を提出しなければならない。

(ii)実体秘密保持審査

 出願の技術方案に関し、明らかに秘密保持の必要がない場合、審査官は当該技術方案について外国への特許出願を許可する旨の通知を適時に行う。

 一方、技術方案について秘密保持を必要とする可能性がある場合、審査官は更なる秘密保持審査が必要となることから、外国特許出願一時保留通知書を請求人に送付する。その後、審査官は秘密保持審査意見通知書を発行し、審査の結論を請求人に通知する。

 請求人は請求日から4ヵ月以内に秘密保持審査意見通知書を受け取っていない場合、当該技術方案について外国へ特許出願することができる

 審査官は秘密保持審査の結論に基づいて、秘密保持審査決定を出し、当該技術方案の外国特許出願を承認するか否かの審査結果を請求人に通知する。請求人は、請求日から6ヵ月以内に秘密保持審査決定を受け取っていない場合、当該技術方案について外国へ特許出願することができる。

 

(5)秘密保持審査の効果

 秘密保持審査の結果、秘密保持の必要性がない場合、外国へ特許出願することができる。

 一方秘密保持の必要性があるとの決定がなされた場合、外国への特許出願は認められない。当該特許出願のファイルには秘密保持マークが付され、秘密解除決定がなされるまで秘密保持管理が行われる。特別な審査官による審査が行われ出願内容は公開されず、また特許成立時も出願番号、出願日及び公告日しか公表されない。

 なお、中国で完成した発明を、秘密保持審査を受けることなく外国へ出願することは可能である。しかしながらその制裁として中国では特許権が付与されなくなる(細則第20条第4項[1])。

 



[1]細則第20条第4項

本条第1項の規定に違反して外国に特許出願した発明又は実用新型の中国における特許出願に対しては、特許権を付与しない。

(第2回へ続く)

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