日常の外来診療では、下痢や便秘、腹痛、食欲不振などの胃腸症状を訴えて来院される方が季節を問わず後を絶ちません。これは男女や年齢を問いませんが、最近の傾向として若い世代を中心に下痢や便秘を繰り返し、日常生活や仕事に支障を来たす方が目立っています。胃腸の検査をしても明らかな異常はなく、担当医から「特に問題ありません。ストレスが原因でしょう」などと曖昧な判断が下されるケースが少なくないのです。
そのような場合には「過敏性腸症候群」という病名をつけられることが多いのですが、これはストレスや様々な有害な刺激が腸に働き、それへの反応として便秘や下痢、腹痛などの症状が引き起こされる病態です。顕著な例では、通勤の電車の中でも頻繁に下痢をもよおし、途中の駅のトイレに駆け込まざるを得ません。そのために急行など停車間隔の長い電車に乗ることができず、「各駅停車症候群」などと表現されています。
この過敏性腸症候群に職場や家庭、私生活などのストレスが関係するのは確実で、そのようなストレスが去ると嘘のように症状が消え、元気な日常を取り戻すことも少なくありません。脳と腸とは自律神経を介してつながっており、脳に加わった精神的ストレスが腸に深刻な影響を与え、便秘や下痢、腹痛などの症状を引き起こすことは容易に想像できます。まさしく体と心とは一体で、「病は気から」と言えるのです。
ただ同じようにストレスを受けながら、ある人は胃腸の障害を起こして日常生活に支障を来たし、別の人は何事もなく元気に過ごす、などという個人差もしばしばみられます。例えば同じ職場で上司に叱られながら連日残業をこなす2人の若手社員がいる場合、一方は頻繁に体調を崩して早退や休業を繰り返し、もう一方は何食わぬ顔で元気に出社し、残業にも弱音を吐かずに取り組む、といった差が生じ得るのです。
このようなストレスに対する反応の個人差は、一つにはストレスをどう受け止めるか、どう受け流すかというストレス耐性の程度に左右されますが、一方では肉体側の条件、つまり腸の中の環境の良し悪しやそれに関わる自律神経の状態などの影響も強く受けるのです。もし腸内環境が優れ、自律神経がうまく機能していれば、多少のストレスが加わったとしても、少なくとも胃腸の深刻な障害には見舞われないはずです。
実際に過敏性腸症候群に悩まされる人の腸内は、腸の内視鏡などの検査でこそ大きな異常はないものの、腸内細菌の分布や便の性状などには不健康な要素がしばしば見つかるものです。また食生活を仔細に聞き取ると、胃腸の症状とは無縁な人と比べ、日頃の食事でよく食べる食材や食事の時間、間食、嗜好品などの食パターンに何らかの問題が見つかるケースが大半です・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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