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中国優先審査制度導入について
~発明特許出願優先審査管理弁法の施行~
河野特許事務所 2012年8月10日 執筆者:弁理士 河野 英仁
1.概要
中国専利法第35条第2項は「国務院特許行政部門は、必要と認めるときは、職権で発明特許出願について実体審査を行うことができる。」と規定している。即ち知識産権局が国家利益または社会利益に関する発明であると判断した場合、当該発明に対しては優先審査が行われる[1]。
しかしながら、実務上は専利法第35条に基づく優先審査は行われず、原則として出願公開された順に審査が行われていた。そのため早期に審査を受けるためには、専利法第34条に基づく早期公開を請求し、審査待ちの順位を繰り上げるしかなかった。
重要な発明についての早期保護を図るべく、中国知識産権局は2011年12月16日「特許出願優先審査管理規則」意見募集稿を公表した。数ヶ月の意見募集期間を経て知識産権局は2012年6月19日発明特許出願優先審査管理弁法(以下、管理弁法という)を公布した。
本管理弁法によれば2012年8月1日以降、一定の技術分野について優先審査の請求を行うことができ、迅速に審査結果を受けることができる。ただし、管理弁法を詳細に分析すれば、中国に拠点がない日本企業は優先審査を受けることができないことが理解できる。日本企業にとっては当面、中国現地子会社から国家知識産権局に出願した案件についてだけ優先審査の適用を受けることができる。
2.適用対象出願
本管理弁法は発明特許出願に適用される(管理弁法第2条)。実用新型特許及び外観設計特許は無審査で登録されるため(専利法第40条)、適用されない。なお、特許審査ハイウェイ(以下、PPHという)を利用している場合は、本優先審査を受けることができない。PPHルートでの審査を優先して行うためである。
3.適用範囲
以下の出願に対し、優先審査が実施される(管理弁法第4条)。
(1) 省エネルギー環境保護、次世代情報技術、バイオテクノロジー、ハイエンド装置の製造、新エネルギー、新素材、新エネルギー自動車等の技術領域における重要特許出願
(2) 低炭素技術、省エネルギー等、環境発展に寄与する重要特許出願
(3) 同一主題について初めて中国に提出した特許出願であり、かつ、その他の国家または地域に申請を提出した中国での最初の出願
(4)その他の国家利益または公共利益に対し、重大な意義を有し、優先審査を必要とする特許出願。
なお、(3)は外国出願を条件に優先審査を認める趣旨であるが、第1国に中国出願していることが必要とされる。
4.優先審査の数量制限
優先審査は、各技術分野における審査能力、前年度の特許登録件数及び本年度の審査待ち出願件数等に基づき、1年間当たりの優先審査数が制限される(管理弁法第5条)。
5.適用条件
(1)電子出願
優先審査を請求するためには特許出願は、電子出願で行っていなければならない(管理弁法第6条)。
(2)実質審査請求
実質審査請求が行われていなければならない(管理弁法第6条)。
(3)優先審査請求書
省、自治区、直轄市の知識産権局が審査し、かつ意見を書き込んで署名し、公章を捺印した「発明特許出願優先審査請求書」を提出しなければならない(管理弁法第7条(一))。
(4)検索報告(サーチポート)
特許検索条件を具備する単位が発行した規定書式に適合する検索報告を提出する。または、その他の国家または地域の特許審査機構が発行した検索報告及び審査結果を提出することができる。ただし、後者の場合中国語翻訳文を提出しなければならない(管理弁法第7条(二))。
(3)の「発明特許出願優先審査請求書」の発行のためには、出願人所在地の省、自治区、直轄市の知識産権局に請求を行う必要がある。中国に固有の所在地がない日本企業の場合、本請求書の発行を請求することができないと解される。
6.優先審査の効果
優先審査を請求した場合、国家知識産権局により、優先審査を行うべきか否かの判断が行われる(管理弁法第9条)。
ここで、優先審査を行うべき旨の判断がなされた場合、出願人に通知がなされる。その後、知識産権局は速やかに審査を行い30営業日以内に、第1回目の審査意見通知書を出願人に通知する(管理弁法第10条)。
7.出願人側中間処理時の注意点
出願人側も迅速に対応する必要があり、2ヵ月以内に応答しなければならない(管理弁法第11条)。第1回目の審査意見通知書に対する応答期間は通常4ヵ月であるがこれよりも短く、延長も認められない点に注意すべきである。出願人の応答が2ヵ月よりも遅くなった場合、ペナルティとして優先審査が中止され、通常の出願として処理される。この点は、米国の優先審査と同様の取り扱いである。
8.施行時期
2012年8月1日以降に施行される(管理弁法第13条)。
9.コメント
管理弁法では外国企業が優先審査を受けることができるか否か明確化されていないが、管理弁法第7条(一)に規定する請求書を取得できないことから、現段階では外国企業は優先審査の適用を受けることができないと解される。今後の知識産権局の運用の変更に期待するところである。日本企業は日中間のPPHを活用するか、或いは、早期公開を請求することにより審査の迅速化を図るほか無い。
以上
[1] 審査指南第2部分第8章3.4.2
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