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対象:特許・商標・著作権
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米国特許法改正規則ガイド
第4回
河野特許事務所 2012年8月8日 執筆者:弁理士 河野 英仁
1.概要
米国特許商標庁(以下、USPTO)は2012年5月30日、既に施行済みのマイクロ団体(Micro Entity)に関する改正規則案を公表した。
マイクロ団体は、2011年9月16日の米国改正法[1]に伴い導入された概念であり、既に存在している小規模団体(Small Entity)よりもさらに小さな企業を保護するためのものである。マイクロ団体として出願した場合、庁手数料が75%減額される。
現在USPTOはパブリックコメントを募集しており、2012年7月30日の締め切り日を経て最終的に本規則の内容が確定する。以下詳細を説明する。
2.主体的要件
以下の4条件を満たすことが必要とされる(123条(a))。
(1)規則1.27で定める小規模団体[2]の要件を具備すること。
(2)出願人が過去の4を超える出願において発明者として記載されていないこと。ただし、他国への出願、米国特許法第111条(b)に基づく仮出願、またはPCT国際出願であって第41条(a)に基づく国内基本手数料(米国への国内移行費用41条(F))が支払われていないもの、は除かれる。
また、出願人は、以前の雇用先からなされる出願のすべての所有権を譲渡したか、または契約もしくは法律により譲渡する義務がある場合、以前の出願には当該出願人の名前が記載されないものとされる(規則1.29(b))。すなわち、以前の雇用先でなした特許出願を既に譲渡している場合、出願数「4」にカウントされないことになる。
(3)適用料金が支払われる年の前年の総所得額(1986年の内国税収入法典(Internal Revenue Code)第61条(a)の規定による)が、国勢調査局の報告による最新の平均家計所得(median household income)の3倍を超えていないこと、かつ、
(4)出願人が、関与する出願の実施権または他の所有権を、適用料金が支払われている年の前年の総所得額が国勢調査局の報告による最新の平均家計所得の3倍を超える団体に、譲渡もしくは許諾していないこと、または契約もしくは法律により譲渡もしくは許諾する義務がないこと。
3.マイクロ団体適用の範囲
マイクロ団体としての適用を受けるためにはマイクロ団体地位資格証明書を提出する。当該マイクロ団体地位資格証明書は一出願または特許において一度だけ提出が必要であり、マイクロ団体の地位が一度確立すれば、規則1.29(i)に従いその地位を喪失するまで効力を維持する(規則1.29(g))。
ただし、マイクロ団体としての地位は、関連出願、継続出願及び再発行出願の各々において確立しなければならない。継続、分割または一部継続出願(規則1.53(d)の継続手続出願を含む)として規則1.53(出願番号,出願日及び出願の完成)に基づき出願を再提出するか、または、再発行出願を提出する際には、当該継続出願及び再発行出願に対し、マイクロ団体の地位を示す新たな証明書が要求される(規則1.29(e))
4.マイクロ団体適用の効果
出願、調査、審査、発行、審判請求、及び、特許出願・特許維持に関する費用について75%減額される(AIAセクション9(b))。
なお、一般に、本セクションの要求に従い作成されたマイクロ団体地位資格証明書に対してUSPTOが疑問を呈することはない(規則1.29(h))。ただし、不正に、かつ、欺く意図をもって、マイクロ団体としての地位を確立またはマイクロ団体として料金を支払った場合、USPTOに対する詐欺行為又は詐欺未遂行為と見なされる(規則1.29(i))。
5.施行時期
サイン日である2011年9月16日より即日施行された(AIAセクション9(i)(1))。
6.改正規則
改正規則 |
規則1.29 マイクロ団体の地位 (a)本パラグラフに基づき、マイクロ団体の地位を確立するために、出願人は以下を証明しなければならない。: (1)出願人が、規則1.27に定義する小規模団体としての資格を有すること。; (2) 出願人が過去の4を超える出願において発明者として記載されていないこと、ただし、他国への出願、米国特許法第111条(b)に基づく仮出願、または第351条(a)に規定される協定に基づく国際出願であって第41条(a)に基づく国内基本手数料が支払われていないもの、を除く。; (3) 適用料金が支払われる年の前年の総所得額(1986年の内国税収入法典(Internal Revenue Code)第61条(a)の規定による)が、国勢調査局の報告による最新の平均家計所得(median household income)の3倍を超えていないこと、かつ; (4) 出願人が、関与する出願の実施権または他の所有権を、適用料金が支払われている年の前年の総所得額(1986年の内国税収入法典第61条(a)の規定による)が国勢調査局の報告による最新の平均家計所得(median household income)の3倍を超える団体に、譲渡もしくは許諾していないこと、または契約もしくは法律により譲渡もしくは許諾する義務がないこと。
(b) 以前の雇用先からの出願-出願人は、以前の雇用先からなされる出願のすべての所有権を譲渡したか、または契約もしくは法律により譲渡する義務がある場合、本セクション(a)(2)に基づいて、以前の出願には当該出願人の名前が記載されないものとされる。
(c) 外貨為替レート-出願人または団体の前年の総所得が米ドル単位でない場合、国税庁により報告される当該年の平均為替レートを用いて、出願人の総所得額がサブセクション(a)のパラグラフ(3)または(4)に規定された閾値を超えるか否かを判断する。
(d)本パラグラフに基づくマイクロ団体の地位を確立するためには、出願人は以下を証明しなければならない: (1)出願人が、規則1.27に定義する小規模団体としての資格を有すること。; (2)(i) 出願人が収入の大部分を得ている雇用者が、1965年の高等教育法第101条(a)(20 U.S.C. 1001(a))で規定される高等教育機関であること、または (ii) 出願人が、特定の出願の実施権またはその他の所有権を、上記のような高等教育機関に譲渡もしくは許諾していること、または契約もしくは法律により譲渡もしくは許諾する義務があること。
(e)小規模団体の地位は、マイクと団体の地位を主張する出願にて規則1.27に従い主張しなければならない。マイクロ団体の地位は、本セクションパラグラフ(a)または(d)のいずれかの要件に従う書面にてマイクロ団体証明書を提出することにより小規模団体の地位が規則1.27に従い主張され、かつ規則1.33(b)( 特許出願,再審査手続及びその他の手続に関する通信)に従いサインされた出願において確立される。 マイクロ団体としての地位は、特に、その地位が適切でありかつ所望される場合の関連出願、継続出願及び再発行出願の各々において確立されなければならない。一出願または特許におけるマイクロ団体としての地位は、各出願または特許の関連性にかかわらず、他の出願または特許の地位に影響しない。 継続、分割または一部継続出願(規則1.53(d)の継続手続出願を含む)として規則1.53(出願番号,出願日及び出願の完成)に基づき出願を再提出するか、または、再発行出願を提出する際には、当該継続出願及び再発行出願に対し、マイクロ団体の地位を示す新たな証明書が要求される。
(f)マイクロ団体地位資格証明書の提出時または提出後に料金を支払う場合に限り、マイクロ団体の料金が適用される。
(g)マイクロ団体地位資格証明書は一出願または特許において一度だけ必要である。マイクロ団体地位は一度確立されれば、本セクションパラグラフ(i)に従い変更されるまで効力を維持するが、料金に関しては、支払日において本セクションのパラグラフ(a)または(d)に定義されるマイクロ団体としての地位が適切である場合に限り、マイクロ団体料金が適用される。 マイクロ団体である他人への権利の譲渡または権利を譲渡する義務が、マイクロ団体地位資格証明書の提出後に生じた場合でも、マイクロ団体地位資格証明書の提出が再度要求されることはない。
(h) 関連、継続または再発行出願を含む出願においてマイクロ団体地位資格証明書を提出する前に、当該資格の決定が本セクションパラグラフ(a)または(d)の要件に従いなされねばならない。発明において権利を有する全ての当事者がマイクロ団体地位を有するとの決定がなされるべきである。一般に、本セクションの要求に従い作成されたマイクロ団体地位資格証明書に対してUSPTOが疑問を呈することはない。
(i)マイクロ団体地位資格喪失の通知は、パラグラフ(a)または(d)に定義されたマイクロ団体としての地位がもはや適当でなくなった日以降の料金支払前または支払時に出願または特許において提出しなければならない。マイクロ団体地位がもはや適切でなくなったという当該通知には、規則1.33(b)( 特許有資格実務家、譲受人または出願人等)にて特定される当事者のサインが必要となる。 マイクロ団体料金以外の料金を支払っても、そのことがマイクロ団体地位喪失の通知にはならない。一度マイクロ団体資格の喪失に関する通知が出願または特許にて提出されれば、小規模団体の地位を得るためには規則1.27(c)(1)に基づく小規模団体の地位の書面での主張が必要とされ、また再びマイクロ団体地位を取得するためには新たなマイクロ団体地位資格証明書が必要とされる。
(j)マイクロ団体としての地位を不正に確立、または、不正にマイクロ団体として料金を支払おうとするいかなる試みも、USPTOに対して詐欺を働いた又は詐欺を試みたと見なされる。不正に、かつ、欺く意図をもって、マイクロ団体としての地位を確立またはマイクロ団体として料金を支払うことは、USPTOに対する詐欺行為又は詐欺未遂行為と見なされる。(以下、省略) |
以上
[1] 規則を除く米国改正特許法の詳細については拙著「決定版 改正米国特許法全理解」ILS出版 2012年1月を参照されたい。
[2] 小規模団体とは規則1.27に定義される団体であり、個人、小企業、非営利団体をいう。例えば小企業は従業員が500人未満の企業である。小規模団体として手数料の減額を希望する場合、小規模団体陳述書を提出する。
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