中国における特許権侵害行為及び損害賠償額の認定 (第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国における特許権侵害行為及び損害賠償額の認定 (第2回)

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中国特許判例紹介:中国における特許権侵害行為及び損害賠償額の認定 (第2回)

~エアコン制御方法特許権侵害訴訟事件~

河野特許事務所 2012年8月6日 執筆者:弁理士 河野 英仁

 

                             珠海格力電器股份有限公司

                                                      被上訴人、原審原告

                                     v.

                             広東美的制冷設備有限公司

                                                       上訴人、原審被告

4.最高人民法院の判断

争点1:被疑侵害品を販売する被告は方法特許の使用者である。

 高級人民法院は、方法特許の使用者はユーザであると主張した被告の主張を否定し、被告も方法特許の使用者であると認定した。

 

 特許の実施行為については専利法第11条に規定されている。

 

専利法第11条

第11条

 発明特許権及び実用新型特許権が付与された後、本法に別段に定めがある場合を除き、いかなる機関又は組織又は個人も特許権者の許諾を得ずに、その特許を実施してはならない。すなわち、生産経営の目的とするその特許製品を製造、使用、販売の申し出、販売、輸入、又はその特許方法を使用、その特許方法により直接得られた製品の使用、販売の申し出、販売、輸入はしてはならない。

 

 ここで、本件方法特許に関していえば、侵害行為は、「特許方法を使用すること」と、「特許方法により直接得られた製品の使用、販売の申し出、販売、輸入すること」の2種類である。

 

 被告は、ユーザこそが被疑侵害製品の快眠モード3”の使用者であり,被告の行為は使用行為ではなく、製造行為にすぎず、侵害行為には該当しないと主張した。

 

 高級人民法院は被告の当該主張を否定し、“快眠モード3”機能を備える空調機を製造する行為は、方法の使用行為を含むと判断した。“快眠モード3”はユーザ定義曲線に基づく空調器実行制御方法であり、被告が製造する空調器はこの機能を実現しなければならず、相応の設定、ステップの割り当てを通じて、空調器にユーザ定義曲線に基づく制御を実現する条件を具備させなければならない。従って、本発明に係る「ユーザ定義曲線に基づく空調器実行制御方法」の使用を回避することは不可能であるから、製造行為を行う被告は使用者に該当すると判断した。

 

 

争点2:被疑侵害品は本件特許請求項2の全ての技術特徴と均等である

 高級人民法院は、被疑侵害品は請求項2に係る発明と均等であると判断した。

 

 司法解釈[2009]第21 号第7条は以下のとおり規定している。

 

第7条 人民法院は、権利侵害と訴えられた技術方案が特許権の技術的範囲に属するか否かを判断する際、権利者が主張する請求項に記載されている全ての技術的特徴を審査しなければならない。

 権利侵害と訴えられた技術方案が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と同一または均等の技術的特徴を含んでいる場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属すると認定しなければならない。権利侵害と訴えられた技術方案の技術的特徴が、請求項に記載されている全ての技術的特徴と比較して、請求項に記載されている一以上の技術的特徴を欠いている場合、または一以上の技術的特徴が同一でも均等でもない場合、人民法院は権利侵害と訴えられた技術方案は特許権の技術的範囲に属しないと認定しなければならない。

 

 技術的範囲に関し、人民法院は、工業及び情報化部ソフトウェア及び集積回路促進センター知識産権司法鑑定所に司法鑑定を委託した。司法鑑定所は《司法鑑定意見書》において、請求項2に係る技術特徴3Aと、“快眠モード3”を有する被疑侵害品の技術特徴3Bとは均等であり、その他の技術特徴は同一であると判断した。技術特徴3A及び被疑侵害品の技術特徴3B は以下のとおりである。

 

請求項2の技術特徴3A

「設定完了後,前記リモコンは既に設定したユーザ定義曲線データを、前記リモコン内の記憶チップ中に記憶し;」

被疑侵害品の技術特徴3B

「リモコンは設定を終えた快眠時間及び快眠時間中の一時間毎の温度パラメータを、リモコンの“NEC 78F9468”制御チップのメモリ中に記憶する。

 

 また、請求項2には、以下のように記載されている。

「リモコンは前回設定した睡眠曲線の第一の1時間の時間間隔内の対応する温度を表示し」

 これにより、ユーザ定義設定状態に移行した場合,リモコンが最初に表示するのは前回設定した情報である。これは、空白の情報ではなく,この状態を実現するには、前回設定した曲データを記憶チップが記憶しておくこと、すなわち当該記憶チップは情報を保持し続けているということが理解できる。

 

 同時に司法鑑定書においても、「記憶チップ」という文言は、必ずしも電子工学またはコンピュータ専門領域中の専門用語ではないと判断し、鑑定グループは明細書の記載に基づき、請求項における記憶チップはデータを失わない不揮発性メモリであると判断した。一方、被疑侵害品“快眠モード3”ではパラメータを電源が供給されない場合に、データが消える制御チップの揮発性メモリに記憶している。

 

 以上のとおり、請求項2に係る発明では、不揮発性メモリである記憶チップ13にユーザ定義睡眠曲線を記憶する点で、制御チップ内の揮発性メモリに記憶する被疑侵害品と相違する。

 

 続いて、高級人民法院は均等侵害の成否について検討した。均等については、司法解釈[2001]第21号第17条第2項に以下のとおり規定されている。

 

 均等な特徴とは、記載された技術的特徴と基本的に相同する手段により、基本的に相同する機能を実現し、基本的に相同する効果をもたらし、且つ当該領域の普通の技術者が創造的な労働を経なくても連想できる特徴を指す。

 

 技術特徴が均等であるか否かは,手段、機能及び效果の3つの方面から判断し,当業者の認知標準をもって判断しなければならない。請求項2の記憶チップ及び被疑侵害品の制御チップのメモリはともにメモリ装置(データ記憶装置)であり、睡眠曲線パラメータを記憶するのに用いられる。制御チップのメモリは揮発性であり,リモコンが電源を失った場合、データを保存することができない。しかしながら、通常の情况下では、ユーザは使用中、空調リモコンの電池を外したりしない。従って、実際の使用中においては、制御チップのメモリと記憶チップの效果は基本的に同一ともいえる。

 

 その上、当業者の観点からすれば,制御チップのメモリをもって記憶チップを代替することは,創造的な労働を経なくても連想できるといえる。なお、司法鑑定においても、司法鑑定能力を有する専門家及び技術者が鑑定を行い、技術特徴3A及び3Bは均等であると判断している。

 

 以上の理由により、高級人民法院は、請求項2に係る技術特徴3Aと、被疑侵害製品の3Bとは構成が均等であると判断した。

 

争点3:法定賠償額を超える額を損害額とする

 高級人民法院は、各証拠を総合的に考慮し、損害賠償額を法定賠償額の2倍の200万元と認定した。

 

 損害賠償額は専利法第65条の規定に基づき算定される。専利法第65条の規定は以下のとおりである。

 

 特許権侵害の賠償額は、権利者が侵害により受けた実際の損失に基づいて算定する。実際の損失の算定が困難な場合には、侵害者が侵害により得た利益に基づいて算定することができる。特許権者の損失又は侵害者の得た利益の算定が困難な場合には、当該特許の実施許諾料の倍数を参酌して合理的に算定する。特許権侵害の賠償額は、特許権者が侵害行為を差止めるために支払った合理的な支出を含むべきである。

 特許権者の損失、侵害者の得た利益及び特許の実施許諾料の算定がともに困難な場合には、人民法院は特許権の種類、侵害行為の性質や情状などの要素に基づいて、1万元以上100万元以下の賠償額を決定することができる。

 

 本事件において原告は、自社の《資産評価書》、及び、侵害行為に伴う販売量下落に関するデータを提出した。しかしながら高級人民法院は、これら2つの証拠は共に原告自身で評価を委託し製作したものであり、評価基準及びデータの真実性、正確性及び合理性を確定する術がないことを理由に、証拠として採用しなかった。以上のことから、原告は、原告自身の損失及びライセンス費を共に確定することができなかった。

 

 続いて、高級人民法院は被告の利益を検討した。

 

 原審法院の指定期限内において,原告の請求に応じ被告は型号KFR-26GW/DY-V2(E2)の関連する以下のデータだけを提出した。

生産販売期間: 2008年4月8日~2010年9月18日;

販売数量:11,735台;

利潤:477,000元

 

 被告の侵害により得た利益額は、全4タイプの空調機の販売数量、販売価格及び利潤等の状況に基づき算出することができる。これらの情况は被告が掌握しているものであり、被告が対外的に公開していない状況下では、原告はそれを調べ知ることは困難である。被告は証拠を開示する義務があり、人民法院は証拠の開示を要求したが、正当な理由なく、他の3タイプの関連データを開示しなかった。

 

 被告は正当な理由なく、証拠を開示する義務を履行しなかった。高級人民法院は、司法解釈[2001]第33号第75条の規定に基づき、被告は挙証妨害による相応の法律的責任を負わねばならないと述べた。

 

司法解釈[2001]第33号第75条[1]は以下のとおり規定している。

第75条 一方の当事者が証拠を持っていて正当な理由がなくそれを提供することを拒んでいることを証明する証拠があって、他方の当事者がその証拠の内容がその所持者にとって不利であると主張した場合、その主張は成立すると推定することができる。

 

 高級人民法院は、被告は証拠を有しているものの正当な理由なく提供を拒んだ状況下において,KFR-26GW/DY-V2(E2)の利潤を参照し,その他の3タイプの空調器の利潤はそれぞれ477,000元を下らないと推定した。すなわち、477,000元の3倍で190万8千元と推定される。

 

 しかしながら、高級人民法院は、これはあくまで推定であって被告が侵害により獲得した具体的な額は依然として最終的に確定する術はなく、また特許ライセンス費も特定できないと述べた。

 

 このような状況下、高級人民法院は、侵害行為により被った損害或いは侵害行為により得た具体的額を証明することが困難であるところ、前述の額が明らかに法定賠償最高限度額を超えるという証拠がある場合、本事件における証拠状況を総合的に勘案し、法定最高限度額以上において合理的損害額を確定しなければならないと述べた。

 

 本事件ではKFR-26GW/DY-V2(E2)を除く3つのタイプの空調器の利潤はそれぞれ477000元を下らないと推定され、侵害行為による損失或いは侵害により得た利益が法定賠償100万元の最高限度額を明らかに超えるという証拠がある。そして、高級人民法院は、これ以外にも、本案特許のタイプ、市場価値、侵害行為の主観及び過失の程度、侵害の実情、利益の参考、権利維持コスト等の各種要因を総合的に考慮し、経済損失は200万元と決定した。

 

 

5.結論

 高級人民法院は、被告の行為は使用行為に該当し、均等侵害が成立し、損害賠償額を200万元とした中級人民法院の判決を維持する判決をなした。

 

 

6.コメント

 本事件は2011年度最高人民法院10大事件の一つに選ばれた事件であり、大手家電メーカ同士の紛争であったことから注目された。本事件では、方法特許の効力、均等侵害及び損害賠償額の3つが争点となった。

 

 ここで、注意すべきは方法の請求項についての権利侵害の成否である。本特許の請求項は方法である。方法について侵害が問われるのは生産経営の目的で方法を使用した場合であり、製造行為は含まれていない(専利法第11条)。従って、製造したにすぎない本来被告は侵害責任を負わないはずである。

 

 高級人民法院は、それにもかかわらず、製造に当たっては相応の設定、ステップの割り当てを通じて、空調器にユーザ定義曲線に基づく制御を実現する条件を具備させなければならないことから、空調機の製造行為は方法の使用行為に含まれると判断した。

 

 このように高級人民法院は方法請求項に対する侵害行為の幅を広く認めたが、請求項の文言から見れば、当該判断に対しては反論の余地があるのではないかと考える。

 

 請求項2には以下の記載がある(下線は筆者において付した。)

「前記ユーザ定義睡眠曲線を設置するステップは以下のステップを含む:

ユーザはユーザ定義設定状態に入り

リモコンは前回設定した睡眠曲線の第一の1時間の時間間隔内の対応する温度を表示し,ユーザが温度を変える必要がない場合,直接確認し,リモコンは該時間間隔内で該温度を保持し;

ユーザ温度を変える必要がある場合,該温度を必要な第一設定温度に調節し,リモコンは該時間間隔内で第一設定温度を保持し;

続いて,リモコンは自動的に1時間増加し,かつ前回設定した睡眠曲線の第二の1時間の時間間隔内の対応する温度を表示し,ユーザは温度を変える必要がない場合,直接確認し,リモコンは第二の1時間の時間間隔内該温度を保持し;

ユーザが温度を変える必要がある場合,該温度を必要な第二設定温度まで調節し,リモコンは前記第二の1時間の時間間隔内第二設定温度を保持し;

上述の温度設定ステップを繰り返して全睡眠時間帯の温度設定を完成させ,これにより前記ユーザ定義睡眠曲線の設定を完成させる。」

 

 このように、請求項2では方法の各ステップがユーザの制御指示に伴いユーザ定義睡眠曲線が設定される記載となっている。被告の製造行為が、こうしたユーザのユーザ定義睡眠曲線設定行為を含むといえるかは疑問の残るところである。本来このようなソフトウェア処理については、装置の請求項(物の請求項)でも権利化しておくのが鉄則である。

 

 本願出願時において原告は、装置の請求項と方法の請求項とを請求の範囲に記載していたところ、補正により装置の請求項を削除し、方法の請求項のみとし、かつ分割出願も行っていなかった。原告としては本事件のような議論をおこさないためにも、積極的に装置の請求項についても権利化すべきであったと考える。

 

 損害賠償額については、本事件のように売上データが人民法院に提出されないことが多い。そのような場合でも諸般の事情を考慮し、法定賠償上限額である100万元を超える損害賠償額を認めた点で非常に意義のある判決といえる。

 

判決 2011年10月27日

                                                                                                                                         以上



[1] 『最高人民法院、民事訴訟証拠に関する若干の規定』(法釈[2001]第33号 2002年4月1日施行)

 

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