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河野 英仁
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米国特許判例紹介:ソフトウェア特許の記載要件

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米国特許判例紹介:ソフトウェア特許の記載要件

~MPFクレームにおけるデフォルトルールとは~

河野特許事務所 2012年7月20日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

                          Ergo Licensing, LLC et al.,

                                         Plaintiffs-Appellants,

                                v.

                            Carefusion 303, Inc.,

                                         Defendant Appellee.

 

1.概要

 米国においては米国特許法第112条パラグラフ6において、具体的な構造を記載することなく機能的なクレームの記載が認められている。

 

 米国特許法第112 条パラグラフ6 は以下のとおり規定している。

「組合せに係るクレームの要素は,その構造,材料又はそれを支える作用を詳述することなく,特定の機能を遂行するための手段又は工程として記載することができ,当該クレームは,明細書に記載された対応する構造,材料又は作用,及びそれらの均等物を対象としていると解釈されるものとする。」

 

 機能的クレームはミーンズ・プラス・ファンクション(以下、MPFという)クレームと呼ばれ、”means for ~ing (~する手段)”の如く具体的な構造を特定することなく、作用的な記載とするクレーム形式である。作用的な記載を認める代償として、その権利範囲は実施例に記載された構造等及びその均等物に限定解釈される。ここで、十分に対応する構造が記載されていない場合、不明確であるとして記載要件違反となる(米国特許法第112条パラグラフ2)。

 

 本事件では、クレームに「プログラム可能な制御手段(programmable control means)」と記載されており、実施例にはこれに対応させて制御装置(control device)が記載されていたが、具体的なアルゴリズムは開示されていなかった。CAFCは、当該手段に対する構造として汎用コンピュータを記載するだけでは不十分であり、アルゴリズムを記載すべきであると判示した。

 

 

2.背景

(1)特許発明の内容

 Ergo社(原告)はU.S. Patent No. 5,507,412 (以下、412特許という)を所有している。412特許は、液体源から患者の体内に液体を同時供給するために使用される注入システムを開示している。参考図1は412特許の構成を示すブロック図である。

 

参考図1 412特許の構成を示すブロック図

 

 各液体は、異なる液体が異なる割合で排出されるように個別に測定される。調整手段12は制御装置4に接続されており、各液体源3の液量を調整する。制御装置4は、調整手段12を通じて各液量源3の選択的な作動及び制御を行う。

 

 制御装置4は各液体の測定結果を記憶するデータフィールドを有する。当該データフィールドには、操作面5からアクセスすることができる。操作面5は制御装置4における情報を閲覧及び設定するためのスクリーン及びキーパッドを有する。

 

 412特許は1994年6月14日に出願され、1996年4月16日に特許が成立した。

 

(2)訴訟の開始

 原告は、412特許の1-12,15-16,18-20の侵害であるとして、CareFusion(被告)をメイン州連邦地方裁判所に提訴した。地裁は手段に対応する構造が明確に記載されていないことから、特許を無効とする判決をなした[1]。原告はこれを不服としてCAFCに控訴した。

 

 

3.CAFCでの争点

争点:ソフトウェア処理に対応する構造が記載されているといえるか否か

 争点となったのはクレーム1[2]の下線部分である。

 

1.予め選択された流量を計測するための多チャンネル計測システムであり以下を含む:

複数の個別流量源;

排出ラインの各線が対応する前記流量源の一つに対応するよう接続される複数の排出ライン;

前記液量源において前記液量源の流量に影響を与える前記液量源に関連づけられる調整手段;

前記調整手段に接続されており、前記調整手段を制御するプログラム可能な制御手段を備え、前記プログラム可能な制御手段は各液量の計測特性を記述するデータフィールドを有し

前記制御手段に接続された操作面;・・・

 

 プログラム可能な制御手段(programmable control means)がクレームに含まれていることから米国特許法第112条パラグラフ(f)が推定適用され、当該手段に対応する具体的な構造が明細書に記載されているか否かが問題となった。

 

 

4.CAFCの判断

結論:汎用コンピュータの記載では不十分であり制御手段に対応するアルゴリズムを記載しなければならない

(1)112条(b)、(f)とソフトウェア特許との関係

 米国特許法112条(b)は以下のとおり規定している。

 

明細書は,出願人が自己の発明とみなす主題を特定し,明白にクレームする1又は2以上のクレームで終わらなければならない。

 

 すなわち、明細書の構造は、明確にクレームの機能にリンクし、関連づけられている必要があり、MPFクレームに対応する構造を特定していない場合、当該クレームは不明確として拒絶される。これは、純粋な機能クレーミングを排除する趣旨である。

 

 ところで、ソフトウェア特許については、汎用コンピュータ上でソフトウェア処理が動作・機能するため、そもそも対応する構造が存在しない。

 

 過去のCAFC判例では、

ソフトウェア処理に対する構造とはアルゴリズムであり、汎用コンピュータの記載だけでは不十分とするものと、

アルゴリズムを記載する必要は無く汎用コンピュータまたはメモリ等を記載しておけば十分とするもの、

との2つが存在する。以下詳述する。

 

(i)アルゴリズムの記載が要求された判例

(a) WMS事件[3]

 WMS事件において問題となった特許はスロットマシンをクレームしていた。クレームは「各スロットリールの角度方向の位置を表わす複数の数字を割り当てる手段」である。

 地裁は、当該手段が、リールの角度位置を表す番号割り当て機能を実行するために使用される可能性ある「全てのテーブル、公式、アルゴリズム」をカバーすると判断した。しかしながらCAFCは地裁の判断を無効とし、当該手段は、明細書に開示されたアルゴリズムだけをカバーするものと解釈した。すなわち、WMS事件は、コンピュータにより実行される機能に関する112条(f)の対応する構造は、明細書に開示されたアルゴリズムであるということを確立したのである。

 

(b)Harris事件[4]

  Harris 事件は、信号処理特許に関し、信号が移動する媒体の分散的効果をシミュレーションする「時間領域処理手段」をクレームしていた。地裁は明細書の記載を参酌し、機能的記載である「時間領域処理手段」に対応する構造は実施例中の「シンボルプロセッサ」であると認定した。

 

 CAFC は、コンピュータにより実行される MPF クレームの対応する構造は「アルゴリズムである」と述べた上で、実施例中の「シンボルプロセッサ」はなんらアルゴリズムを開示していないことから、クレームに記載の「時間領域処理手段」の対応構造が「シンボルプロセッサ」であるとした地裁の判断を無効とした。

 

(c) Aristocrat 事件[5]

  Aristocrat 事件において争点となった特許は、表示画像を制御し、プレーヤの選択に応じてゲーム用の所定の配列の組み合わせを定義し、所定の配列記号が表示された場合に賞を付与する「制御手段」を備えるスロットマシンである。

 

 クレームの制御手段に対応する構造として開示されていたのは、「適切にプログラムされた」標準マイクロプロセッサベースのゲーム機だけであった。CAFC は、クレームの機能に対応する構造、即ちアルゴリズムが欠如しているため不明確であると判断した。

 

 以上の(a)~(c)の3 事件をまとめると、純粋な機能的クレームを記載した場合、単にプロセッサ等のハードウェアを対応する構造として記載するだけでは不十分で、むしろプロセッサが機能を実行するためのアルゴリズムを記載しなければならないといえる。CAFCは当該ルールをデフォルトルールと称している。

 

(ii)アルゴリズムの記載が不要とされた事件

 Katz事件[6]

 Katz事件では、汎用プロセッサ上で動作するインタラクティブ電話処理システムのクレームがMPF 形式で記載されており、対応する構造としてアルゴリズムが、明細書に適切に記載されているかが争点となった。

 

 CAFCは争点となったクレームにおいては、特別な目的のコンピュータにより実行される特別な機能をクレームしておらず、むしろ単に、クレームされた「処理“processing”」、「受信“receiving”」及び「記憶“storing”」機能に言及しているにすぎないと判断した。

 

 そして、文言「処理」、「受信」及び「記憶」に対してクレーム中に特段の狭い解釈が存在しないとすれば、これらの機能は、特別なプログラミングなしに、いかなる汎用コンピュータによっても達成される。CAFC は、これらの機能を実行する汎用プロセッサ以上のさらなる構造を開示する必要はないと判示した。

 

 さらに、争点となったクレーム「処理」、「受信」及び「記憶」の機能は、汎用のプロセッサの機能と変わるところがないことから、米国特許法第112(b)の要件を満たすと結論づけた。

 

(2)本事件への適用

 原告は制御手段に対応する「制御装置」が記載されており、当該制御装置は汎用コンピュータと同義であると主張した。そして、汎用コンピュータは「調整手段を制御する」機能を実行することができるので、アルゴリズムの記載は不要と反論した。

 

 CAFCはソフトウェア特許についてはアルゴリズムの記載を不要とするKatz事件はレアケースであり、むしろ一般的にはデフォルトルールが適用されると述べた上で、本事件についても同様にアルゴリズムの記載が必要であると判断した。

 

 CAFCは、各「調整手段を制御する手段」は単に汎用コンピュータを接続する以上のことを要求しており、特別なプログラミングがない汎用コンピュータでは実行されないと判断した。

 

 

5.結論

 CAFCは、明細書に対応する構造が記載されておらず米国特許法112条(b)に基づき、特許を無効と判断した地裁の判断を支持した。

 

 

6.コメント

 CAFCはソフトウェア特許の各構成要件については、原則としてデフォルトルールが適用され、機能に対応するアルゴリズムを明記すべきと判示した。本事件に関していえば、CAFCは明細書には、全くアルゴリズムが記載されておらず、ステップバイステップ形式で、調整手段を制御する手段について明記すべきであったと述べた。

 

 本事件はMPFクレームに関する事件であるが、MPFクレームを使用しない場合においても、ソフトウェア関連発明であれば、当然にアルゴリズムを明記し、記載要件不備を回避しなければならない。特に発明のポイントとなる部分に関しては、フローチャートを用いて丁寧にアルゴリズムを記載することが重要となる。

  

判決 2012年3月26日

                                                                            以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/11-1229.pdf

 

 



[1] Ergo Licensing LLP v. CareFusion 303, Inc., 744 F. Supp. 2d 381, 388 (D. Me. 2010)

[2] クレーム1は以下のとおり。

1. Multichannel metering system for metering preselected fluid flows, comprising:

a plurality of individual fluid flow sources;

a plurality of discharge lines, each line of said discharge lines being connected to a corresponding one of said fluid flow sources;

adjusting means associated with said fluid flow sources for acting on said fluid flow sources to influence fluid flow of said fluid flow sources;

programmable control means coupled with said adjusting means for controlling said adjusting means, said programmable control means having data fields describing metering properties of individual fluid flows;

an operating surface connected to said control means;

data input means for input of data into said control means, said data input means being at least partially connected to said operating surface;

data output means for output of data from said control means, said data output means being connected to said operating surface;

selector switch means forming a part of said data input means, said selector switch means in-cluding a plurality of selector switches, each selec-tor switch being associated with a set of said fluid flow sources for representing segments of data fields belonging to a corresponding set of fluid flow sources on said operating surface, said each selector switch functionally connecting said data input means with said data fields belonging to said associated set of fluid flow sources.

[3] WMS Gaming, Inc. v. International Game Technology, 184 F.3d 1339 (Fed. Cir. 1999)

[4] Harris Corp. v. Ericsson Inc., 417 F.3d 1241 (Fed. Cir. 2005)

[5] Aristocrat Technologies Australia Pty Ltd v. International Game Technology, 521 F.3d 1328 (Fed. Cir. 2008)

 

[6] In re Katz Interactive Call Processing, 639 F.3d 1303, 1316 (Fed. Cir. 2011)

 

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