都市圏で発生する直下型地震は、プレート移動型地震と違い直接的に建物にダメージを与えます。
東日本大震災と阪神大震災を、地震の規模で比較すれば、東日本大震災の方がはるかに大きな地震でした。しかし、地震による倒壊件数は、阪神大震災が10万件以上が全壊のに対し、東日本大震災は倒壊した家屋はその規模から考えて信じられないほど僅かです。12万件の家屋が全壊していますが、その殆どが津波によるものです。地震による直接的な倒壊件数は、阪神大震災の方が大きいものでした。
では、何が倒壊件数の差となって表れたのでしょうか。
●震度階
震度階は、感覚的に地震の大きさが判断出来るように、気象庁が設けた単位です。震度階で二つの地震を表現すればどちらも最大震度7でした。家が倒壊する様な大地震を震度7と表現するのですが、震度階だけではどれだけの家屋が倒壊するのか判断するのは難しいようです。
●gal(ガル)
ガルは日本語で重力加速度と訳します。1秒間に1cmずつ加速度的に力が加わる事を表現した単位です。地球の引力は980ガルとして表現されます。980ガル=1Gの関係です。鉄の球を9.8mの高さから落とすと1秒で地面に到達することになります。
関東大震災は300ガルが計測されています。阪神大震災は880ガルでした。まるで断崖絶壁に横向きに家を建てた様な力が、建物に加わったことを示しています。
東日本大震災は、なんと2900ガルと云うとてつもない数字が観測されています。
震度階よりも単位のある数値で表現している分、科学的と云えますが、ガルだけでも地震と倒壊件数の関係を表すには無理があります。
●Kine(カイン)
カインは1秒間に何cm移動したかを表現する単位です。ガルは加速度の大きさを表していますが、実際に移動した距離は表現されていません。1cmしか移動していないのに2900ガルだったと云う事も有り得るのです。それに対しカインは1秒間にどれだけ移動したかを示しています。
東日本大震災は100カイン程度でした。1秒間に1m移動したのですから、とんでもなく恐ろしい出来事ですが、阪神大震災は200~300カインを観測しています。
●固有振動周期
固体には必ず固有振動周期があります。家屋の様な固体の複合物でも固有振動周期は発生します。固有振動周期とは、ある周波数の波に対して共振してしまう現象のことです。ブランコが少しの力でも大きく揺れるのは共振を利用しているためです。
木造家屋の固有振動周期は概ね1~2秒程度です。地震の振動周期が1~2秒程度のものをキラーパルスと呼び、多くの建物が損傷を受けます。
固有振動周期が不幸にも一致した地震で、カイン(単位時間当たりの移動距離)が大きな数字になってしまうと、家屋倒壊件数が増えてしまう結果となります。
風評で、東日本大震災の倒壊件数が少なかったのは、横揺れが大きかっただけで、阪神大震災の様に縦揺れではなかったから、と云う人がいますがこれは誤りです。阪神大震災の垂直方向の加速度は通常の重力の1.2倍程度でした。建築基準法では短期的な荷重は1.5倍まで耐えられる様に設計することが求められていますので、縦揺れが激しくて建物が倒壊したとは思えません。
このコラムの執筆専門家
- 福味 健治
- (大阪府 / 建築家)
- 岡田一級建築士事務所
木造住宅が得意な建築家。
建築基準法だけでは、家の健全性は担保されません。木造住宅は伝統的に勘や経験で建てらていますが、昨今の地震被害は構造計算を無視している事が大きく影響しています。弊社は木造住宅も構造計算を行って設計しています。免震住宅も手掛けています。
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