- 堀 紳一朗
- 忘蹄庵一級建築士事務所 代表
- 東京都
- 一級建築士
対象:住宅設計・構造
例えばちょっと歴史に詳しい人が古建築を見たりしたときに、お社やお堂などの宗教建築は「数寄屋」ではないと判るけど、何が「数寄屋」かと問われればどこか捉えどころのなさを感じてしまうのではないでしょうか。
歴史学的にいうと中世には茶屋が「数寄屋」と呼ばれていたことがわかっています。その後、茶道の広まりとあわせて茶室を総称して「数寄屋」と名付け、茶室風のデザインを取り入れた住宅を「数寄屋造り」と呼んだり、書院造りという格式ある武家住宅の様式からくるものを「数寄屋風書院」と呼んだり、また数寄屋の手法を新素材や新工法で現代の生活に順応するように建築したものを「近代数寄屋」と呼んだりしています。
つまり、「数寄屋」とは少なからず茶室のデザイン要素が含まれているものと考えればよく、それゆえに多義性や曖昧さのあるたたずまいとなります。質素であれば豪華でもある、面皮柱(丸太柱)をもちいれば角柱も用いる、質素で小さな茶室でもあれば、連なり広がり豪華な桂離宮のようにもなる。それが「数寄屋」の捉えどころのなさの理由となっているのです。
一方で、建築でいう「和風」は数寄屋、民家、社寺、仏閣、城郭など伝統要素の総称となりますので、和風住宅とは数寄屋風でもいいし、民家風のデザイン要素が採用されているものでもいいと言えるのではないでしょうか。お寺や城郭風でも和風といえるでしょうけど、ちょっと住みづらそうですよね。
写真は近代数寄屋を生み出した吉田五十八設計の旧猪俣邸です。
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