偶然目に留まったあるサイトに書いてあった、ちょっと気になったことです。
「学生はお金を払っているにもかかわらず、(学校の)文句をあまり言わないが、社会人はお金をもらっている立場なのに(会社の)文句を言う」というような言葉でした。自分の学生時代、会社員時代を顧みても、そう言われればなるほどそうだなぁと思いました。
私にとっての学校は基本的に楽しい場所で、苦情とか文句を言う対象と思ったことは一度もありません。まぁ学校に要求しようと思うほどの対象がなかったということもあります。でも会社に対してはちょっと違っていたと思います。行くと仕事がある、給料がもらえるということは当たり前で、それを感謝するなんて感覚はその当時は全くなく、それ以外の不満の方が圧倒的に多かったです。やっぱり会社に対するいろいろな不平不満を言っていました。
この違いは何なのかと、自分なりに考えてみました。いろんな要素はありますが、私の結論は「最終的に自分の意志で決めているかどうか」ということ。学生のうちは、授業に出るか出ないか、勉強するかしないか、付き合う友人、サークル活動、バイト先、その他自分の身の回りのほとんどのことを、自分の意志で決めることができたように思います。もちろんイヤな事も制約もありましたが、しょせん自分に帰結することですから、最悪は放置することも逃げることもできるわけで、最終的には自分次第でした。
一方社会人の場合、雇われて働いている限りは、会社の指示命令であればイヤな仕事でも逃げられないし、苦手な人でも付き合わなければならないし、自分の意志に反したことでもやらなければならないことがあるでしょう。組織の中では、自分ではきめられないこと、自分の意志ではどうしようもないことにたくさん遭遇します。相対的には社会人の方が、自己判断の自由度が少ないことは間違いないと思います。(「今の学生はそんなに楽じゃない!」と怒られるかもしれませんが・・・)
こんな状況を少しでも改善できるように、私の専門分野の一つである人事制度では、この「自分で決めた」というプロセスを、仕組みとして取り入れる様々な試みがされています。多くの会社で取り入れられている「目標管理制度」は、自分で納得した自己管理目標に主体的に取り組むことが動機づけにつながるということですから、導入の主旨などはこの典型でしょう。自己決定を手助けするようなコーチング、カウンセリングなんていうものも同様です。
ただ実際には、十分な時間が与えられなかったり、形骸化していたり、上意下達のムードがあったり、コミュニケーションスキルが足りなかったりと、制度を入れてもなかなかうまく機能しないのが実情です。組織と個人の意識のすり合わせというのは、それほど難しい事なのだと思います。
目にしたサイトには最後に一文「社会人でも事業主や自営業の人は、仕事をくれる人に感謝するようになる」とありました。なるほどまさにそうだなと思いました。私も独立した今の立場だからこそ、自分で決めていることだからこそ、わかるようになったことがたくさんあります。仕事をさせて頂ける感謝もそうです。
人間とは、そもそも他人の命令には従いたくないものだという話を聞いたことがあります。命令に従っているのではなく、この命令には従おうと自分で決めているのだといいます。自分で決めたかどうかは、主観によるところも大きいです。全く同じ状況だとしても、自分で決めたと思えば我が事と思えるし、強制と感じたら強制です。
組織としての方針、考え方を維持しながら、「自分で決めさせる」というプロセスをきちんと踏んでいくと、社員が会社に対して不平不満を言う頻度は減っていくのだろうと思います。もちろん簡単な事ではありませんが、いろいろな場面で「自分で決めさせる」ことを意識するだけでも、様子は大きく違ってくるのではないでしょうか。
このコラムの執筆専門家
- 小笠原 隆夫
- (東京都 / 経営コンサルタント)
- ユニティ・サポート 代表
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