「機能的旅館」と「情緒的旅館」 - 地域活性化・町おこし - 専門家プロファイル

井門 隆夫
株式会社井門観光研究所 代表取締役
東京都
マーケティングプランナー

注目の専門家コラムランキングRSS

対象:イベント・地域活性

専門家の皆様へ 専門家プロファイルでは、さまざまなジャンルの専門家を募集しています。
出展をご検討の方はお気軽にご請求ください。

「機能的旅館」と「情緒的旅館」

- good

  1. 法人・ビジネス
  2. イベント・地域活性
  3. 地域活性化・町おこし

旅館には全く違う「2つの業態」がある

旅館のサービスには「機能的サービス」と「情緒的サービス」があるとおっしゃったのは旅館研究の大家、元立教大学教授の前田勇先生だったが、近年では、サービスにとどまらず、事業モデル自体が「機能的旅館」と「情緒的旅館」に分化している。それぞれ全く違うので、よく覚えておいたほうがいいと思う。

機能的旅館

「機能的旅館」とは、比較的都市部に「近い」か「滞在しやすい」観光地で、

・ 和風ベッドを利用した標準化された客室

・ 和風の空間だが、ホテルの機能性を併せ持つ

・ 若い従業員による標準化されたオペレーション

・ 演出豊富で時としてフリードリンクの食事(バイキングの場合も多い)

・ 季節や曜日であまり差がない標準料金

・ 高い客室稼働率が生命線

・ チェーン展開をしやすい

などを特徴とする旅館で、ハウスメーカー等の異業種が参入しやすい業態である。

情緒的旅館

「情緒的旅館」とは、比較的「遠方」か「一泊客が多い」観光地で、

・ 多様なタイプの和室

・ 女将や仲居さんの情緒的なおもてなし

・ 熟練された従業員による臨機応変なオペレーション

・ 食材重視のハレの場の会席料理

・ 季節・曜日の繁閑で差がある一泊二食料金

・ 高い単価が生命線

・ 地域に根ざした営業展開

などを特徴とする旅館で、江戸時代から脈々と続く、いわゆる伝統型旅館の業態である。

この両者は同じ「旅館」と表現されるのだが、実は全く違う業態と言ってもいい。

2つの業態では「取消料」の意味も違う

例えば、今、問題となっている「取消料」。2つの業態では、意味も必要性も違う。

「問題」とは、Rトラベルで、宿泊後に代金をクレジット決済する方式の予約が導入され、旅館業界で大問題になっていることである。この方式は、宿泊直前にキャンセルした場合でも、取消料が引き落とされない仕組みで、Rトラベルとしては、利用者の(取消料を取られるのではないかという)心理的負担を軽減し予約に結びつけようと考えたのだが、これに旅館団体が反発し、問題となっているのだ。基本的に旅行業の場合は、旅行業者が取消料を取る。Rトラベルはその義務を果たしていないと指摘を受けているのだ。しかし、事情がよくわからない利用者から見ると「旅館団体の気持ちはわかるが」「Rトラベルを応援したい」というのが本音ではないだろうか。ただし、利用者の本音を追求すれば、「伝統的旅館文化は消えてなくなる」だろう。そして、「機能的旅館ばかりの市場となり、機能的旅館は値上げしていく」ことになり、利用者の不利益になって還ってくる。

取消料の問題は、2つの業態の違いに照らせば解決する。

取消料を収受することにより、安易に取消しする風潮を醸成したくないと考えるのは、「情緒的旅館」業態である。

ひとつくらい予約が消えても、すぐにまた新しい予約が入ってくる「機能的旅館」と違い、単価が高く客室稼働率が低い業態である「情緒的旅館」にとって、取消しは結構、死活問題なのである。

一方、機能的旅館は、従来の「旅館」というより「ホテル」に近い業態なので、取消しは「仕方ないもの」と思っている。ある機能的旅館チェーンの支配人に話をうかがうと「エージェント(旅行会社)経由の予約の場合はその会社の取消料に任せるが、(エージェントが取るために表示はしているものの)直予約の場合は一切取消料を取らない」そうである。「そうしないと、安心して再予約をしてもらえない」とのこと。

おそらく「情緒的旅館」の場合でも、取消料は取っていない(取れていない)ケースも多いと思われる。しかし、「いかに取消料収受率を高めるか」を目指している。この点は、機能的旅館と大きく違う。情緒的旅館の場合、「料亭」に近い業態なので、食材も事前に仕入れている。客室が直前に空いてしまえば再度埋まる可能性も低い。経営の安定上、取消料は必要悪なのである。

すなわち、本来、利用者側(Rトラベル含む)は、それぞれを区別して旅館選びをしなくてはいけないのだ。

旅の目的によって違う宿選び

直前取り消しの可能性もある「子連れの家族旅行」や「仲間同士の旅行」「ビジネス旅行」の場合は、「機能的旅館」を選べばよい。その代わり、サービスは簡素であり、セルフサービスも多い。「サービスが悪い」とか「待たせる」とか、決して文句を言ってはいけない。

しっかりしたサービスを受けたい「記念日」や「見栄っ張りなお父さんのいる夫婦旅行や三世代旅行」等の場合は、「情緒的旅館」を選べばよい。例えば、到着時にお茶を出して欲しいなら、迷わずこちらを選ばなくてはいけない。「仲居さんが構い過ぎ」とか「取消料が不安だ」とか、絶対に文句を言ってはいけない。

この旅館はどちらのタイプなのか?

どこにも区別して表示されていないので、自分自身で見極め力を付けなくてはいけない。

見極めのヒント

ひとつだけ「見極めるヒント」を差し上げよう。

それは、季節や曜日による宿泊料金の格差の大小である。

・機能的旅館は、季節や曜日による料金格差が比較的小さいか無い。

・情緒的旅館は、季節や曜日による多様な料金格差があり、時として差が大きい。

皆さんも、旅の目的や場面を考え、ミスマッチのない宿選びをして欲しい!

このコラムに類似したコラム

旅館は裏方を活かせ! 山田 祐子 - 旅館・民宿プランナー(2013/08/01 13:05)

バックパッカーズ宿・最前線 山田 祐子 - 旅館・民宿プランナー(2013/05/11 14:00)

2013日本の宿ヒット予測BEST3! 井門 隆夫 - マーケティングプランナー(2013/01/04 00:36)

旅館に仲居は必要か!? 井門 隆夫 - マーケティングプランナー(2012/01/20 14:26)

2012年6月開業「星のや 竹富島」開業 山田 祐子 - 旅館・民宿プランナー(2012/01/20 11:30)