(続き)・・認知症を招くこれら疾患のうち、50~60%を占める多数派はアルツハイマー病です。従って認知症対策の大半は、アルツハイマー病をいかに防いで治療するかで占められているのです。但し脳血管性認知症も約15%を占めており、半身麻痺などの後遺症の影響も大きいことから、これへの対策も重要です。さらにアルツハイマー病と脳血管性認知症とが合併する場合もあり、事情を複雑にしています。
一方で高齢者の場合、糖尿病や高血圧、骨粗鬆症、変形性膝関節症など何らかの身体疾患を併発している場合が多いものです。これらの疾患をいくつも抱えていて、しかもそれが充分にコントロールされていない状態では、認知症がより速く進んでしまうことが指摘されています。従って認知症そのものだけでなく、これら身体疾患への対策や予防、重症化防止がたいへん重要になってきます。
認知症は決して急に発症するのではなく、長い時間をかけて少しずつ進行し発病します。例えばアルツハイマー病の場合、80歳で症状が明らかになった人は、脳内では50~60代から認知症特有の変化が始まっているのです。すなわち脳を構成する神経細胞が変性して死滅して徐々に数が減っていき、脳全体が萎縮していきます。明らかな症状が現れた時にはすでに脳がかなり萎縮しているのが普通です。
アルツハイマー病では「βアミロイド(老人斑)」という変性タンパク質が脳内に蓄積することから始まります。βアミロイドは神経細胞が副産物として産生する、いわば脳のゴミのようなものです。健常人の脳内でも日々の活動でβアミロイドは産生されますが、酵素によって分解されるために蓄積することはありません。産生と分解とのバランスが取れているためです。
ところが何らかの原因で産生と分解のバランスが崩れてしまうと、脳内にβアミロイドが蓄積していき、アルツハイマー病の病変が進行していきます。但し直ぐに病気が発症するわけではありません。このβアミロイド脳内に溜まり始めてからアルツハイマー病の症状がはっきりするまでには20年から30年くらいかかるといわれています。従って症状が明らかになる前に、βアミロイドの蓄積を阻止することが大切です。
βアミロイドが溜まってくると、「神経原線維変化」という現象が起こります。これはらせん状にねじれたタウ蛋白という線維状の物質が脳内に蓄積してくる現象ですが、それによって神経細胞が徐々に死滅し、脳が萎縮していくのです。神経原線維変化が現れる段階になると脳が萎縮し始め、アルツハイマー病ががかなり進行していきます。従ってこの変化が現れる前に進行を阻止する対策を立てる必要があります・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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