事業再生ADR手続(1) - 事業・企業再生全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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事業再生ADR手続(1)

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債務整理

【コラム】 事業再生ADR手続

(ⅰ)総論

平成19年改正の産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(以下「産業再生法」といいます。)及びそれを受けた産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法施行令(以下「産業再生省令」といいます。)に基づき,法務大臣の認証を受けた一般のADR(alternative dispute resolution,裁判外紛争解決手続)機関のうち,経済産業大臣が事業再生を専門に行う機関として認定したものが行うADRが,いわゆる事業再生ADRと呼ばれるものです。なお,現時点では,認定ADR機関は,「事業再生実務家協会」(以下「協会」といいます。)だけです。

 事業再生ADRは私的整理をベースとして,法的整理の信頼性を加味した制度であり,私的整理や法的整理のデメリットを回避することができます。すなわち,私的整理を開始した場合,メインバンクは,会社が法的整理に進む危険があれば,新規融資には応じなくなりますから,会社は「つなぎ融資」が得られなくなってしまいます。他方,法的整理を行えば,商取引先への支払いを停止しなければならなくなる等,取引先に迷惑をかけることになり,会社の信用も低下し,仮に過剰債務を減らすことができたとしても,本業を立て直すことが困難となるおそれもありました。

 しかし,事業再生ADRを利用すれば,「つなぎ融資」は,それ以前の古い債務とは別に優先的な取扱いをする道が開かれますし(産業再生法52条),公的保証の対象とする制度が用意されています(産業再生法50条)から,メインバンクはつなぎ融資に応じてくれる場合があります。

 また,事業再生ADRは,主に金融機関(場合によっては商社やメーカー等の大口債権者も含まれます)だけを相手方として話し合いを進める手続でありますから,取引先に迷惑をかけることはありません。

 さらに,国家認定機関の手続実施者が行う手続でありますから,中立性が高く,法的整理に劣らない公正さが担保されており,メインバンク以外の金融機関の同意も得られやすくなります。

 そして,仮に意見がまとまらないことがあっても,特定調停手続や法的整理手続に,その結果を反映させることができますから,その手続がすべて無駄になるということもありません。

 また,事業再生には,評価損の損金算入と期限切れ欠損金の優先利用の税制上の優遇措置が設けられており(「取引等に係る税務上の取扱い等に関する照会」における平成20年3月28日付の国税庁課税部長名義の回答),事業再生ADRを利用すれば,この優遇措置を利用して税負担を軽減することができます。

(ⅱ)事業再生ADR手続のメリット・デメリット

ア 私的整理・法的整理のデメリット

 私的整理であれば,商取引の債権者を債権減免の対策とせず商取引を継続しながら,金融機関のみを相手にして金融債権の減免を要請することも可能ですが,従来の私的整理ガイドラインでは債権者とメインバンクが連名で手続を開始することとなっていました。

 しかしながら,メインバンクにとっては,①法的整理に進む危険性があれば新規融資に応じることはできず,②安易な債権放棄は無税償却ができず,かつ株主代表訴訟の対象ともなりかねず,③メインバンク以外の金融機関からメインバンクが融資責任を取るべきといった,いわゆる「メイン寄せ」の問題,④債務者との間に利害が相反するため,再建計画を主導することもできない,といったデメリットがありました。

また,私的整理一般に言えることですが,手続の主宰者の公平中立性や手続の透明性に問題がありました。

 かたや法的整理は,裁判所が公平中立な監督者として関与し,手続の公平さや透明性には問題が少ないといえます。

 しかしながら,法的整理を利用すれば,債権全部が整理の対象となり,①商取引先への支払いを停止したり,減免の対象となり,②法的整理をとったことが公表されて倒産のレッテルを貼られ,ビジネスの再起を図ることが難しくなるというデメリットがありました。

イ 事業再生ADR手続のメリット

 事業再生ADR手続のメリットは以下のようなものです。

① 商取引をそのまま継続しながら,金融機関との非公開の話し合いにより過剰債務をカットできること

② 法的整理の管財人などの経験者と同じレベルの実務家の監督の下で行われるので,手続の主宰者を信頼できること

③ つなぎ融資を受けることが可能であること

④ 合理的な再建計画であれば,原則として債権者側の債権の減免による損失は無税償却できること(平成21年7月9日付け国税庁課税部審査室長回答)

⑤ 債務者側は,一定の要件の下で,資産の評価損を損金算入でき,期限切れ欠損金の損金算入が認められる場合があること(同上)

ウ 事業再生ADR手続のデメリット

 事業再生ADR手続のデメリットは以下のようなものです。

① 再建計画案について債権者全員の同意が必要であること

② 債権者に対する保全命令,担保権実行中止命令,担保権消滅請求,否認権,相殺禁止など,債権者に対して拘束力のある制度が用意されておらず,例えば,債権者が強引な債権回収を行ったとしても制約する制度がないこと

(ⅲ)事業再生ADR手続の流れ

ア 証紛争解決手続の実施方法の認定

認証紛争解決事業者(以下,「認証ADR事業者」といいます。)であって,裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(以下「ADR法」といいます。)6条1号 の紛争の範囲を事業再生に係る紛争を含めて定めているものは,経済産業省令(事業再生省令2条~5条)で定めるところにより,事業再生に係る紛争についての認証紛争解決手続の実施方法が経済産業省令(事業再生省令6条以下)で定める基準に適合することに適合していることにつき,経済産業大臣の認定を受けることができます(産業再生法48条1項2号)。 

イ 事業再生計画案の作成・申立て

 事業再生計画案とは,債務者が作成する事業再生の計画の案をいいます(事業再生省令8条かっこ書き)。

 第1回の債権者会議までに,債務者は,事業再生計画案の概要を作成しなければなりません。

 なお,協会は中立な手続主宰者として関与する立場にあるので,事業再生計画案は,債務者自身が顧問の弁護士や税理士,公認会計士などと協議して作成することになります。債務者の作成した事業再生計画案を協会が審査し,助言を与えることはあります。債務者は,協会に事業再生ADR手続を申し立てます。

ウ 一時停止

一時停止とは,債権者全員の同意によって決定される期間中に債権の回収,担保権の設定又は破産手続開始,再生手続開始,会社更生法若しくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始若しくは特別清算開始の申立てをしないことをいいます(事業再生省令7条)。

認証ADR事業者は,債権者(認証紛争解決手続における紛争の当事者である債権者に限ります。)に対し一時停止を要請する場合には,債権者に対し,債務者と連名で,書面により通知しなければなりません(事業再生省令7条)。

なお,一時停止の通知を発した場合においては,一時停止の通知を発した日から,原則として,2週間以内に事業再生省令第9条の債権者会議を開催しなければなりません(事業再生省令7条)。

一時停止の通知対象が認証ADR手続における紛争の当事者である債権者に限られているのは,事業再生ADRが,主に金融機関である債権者が相手方として想定され,商取引の債権者を除外して構想されているからです。

エ 債権者会議

認証ADR事業者は,①債務者の事業再生計画案の概要の説明のための債権者会議,②事業再生計画案の協議のための債権者会議,③事業再生計画案の決議のための債権者会議をそれぞれ開催しなければなりません(事業再生省令8条)。 

 ①事業再生計画案の概要の説明のための債権者会議においては,債務者により現在の債務者の資産及び負債の状況,事業再生計画案の概要の説明がなされ,これらに対する質疑応答,債権者間の意見の交換を行います(事業再生省令9条1項)。

 まず,①事業再生計画案の概要の説明のための債権者会議は,債権者全員の同意によって,次に掲げる事項について決議をすることができます(事業再生省令9条2項)。

・議長の選任

・手続実施者の選任

・債権者ごとに,要請する一時停止の具体的内容及びその期間

・事業再生省令10条(事業再生計画案の協議のための債権者会議)及び第11条(事業再生計画案の決議のための債権者会議)の債権者会議の開催日時及び開催場所

事業再生省令9条2項2号の手続実施者の中には,民事再生法の監督委員若しくは民事再生法又は会社更生法の管財人の経験者が一人以上含まれなければなりません。ただし,事業再生計画案が債権放棄を伴う場合には,手続実施者を3人以上選任することとし,当該手続実施者の中には監督委員又は管財人の経験を有する者及び公認会計士がそれぞれ一人以上含まれなければなりません(事業再生省令9条3項)。

 次に,②事業再生計画案を協議するための債権者会議においては,事業再生計画案の概要の説明のための債権者会議において選任された手続実施者は,事業再生計画案が公正かつ妥当で経済的合理性を有するものであるかについて意見を述べるものとされます(事業再生省令10条)。

 手続実施者が事業再生計画案の合理性などを調査し,報告書を提出します。債権者はこれらの資料をもとに事業再生計画案に同意すべきか,稟議を上げることになります。

最後に,③事業再生計画案の決議のための債権者会議においては,債権者全員の書面による合意の意思表示によって事業再生計画案の決議をすることができます(事業再生省令11条)。

 債権者全員の同意があれば,事業再生ADR手続は終了します。

事業再生計画案の決議のための債権者会議において事業再生計画案が決議されるに至らなかった場合においては,続行期日を定めることができます(事業再生省令12条)。一部の債権者のみが反対している場合に事業再生計画案の訂正などをすることによって,債権者全員の同意が得られそうなときに,続行期日を定めることになります。

 

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