小売業のフランチャイザーの自己破産 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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小売業のフランチャイザーの自己破産

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債務整理

○ 小売業のフランチャイザーの自己破産

 雑貨の小売業のビューズ社の佐藤社長は、会社と社長個人(会社の連帯保証人)の自己破産申立てを決心した。来月の月末の手形不渡りが出ることが予測できたのである。資金繰りに奔走したが、銀行からの借り入れもできず、追い貸しも受けられない状況だった。

破産申立ての予定日をXデーと決め、手形不渡りの出る前日とした。Xデーまでは1か月近くあった。佐藤社長は、従業員の今後の身のふり方を心配していた。それだけではなく、佐藤社長は、最近始めたフランチャイズ店のオーナー達のことも心から心配していた。ビューズ社は、直営の店舗ばかりではなく、ノウハウと商品を提供して、フランチャイズ店を募集し、「ビューズ」の店名でフランチャイズ店舗網をも展開していた。ビューズ社が破産することとなれば、「ビューズ」の看板を掲げているフランチャイズ店にまで累が及ぶことになる。フランチャイズ店は、その店舗のオーナーが独立採算で経営しているから、ビューズ社が倒産しても、連鎖倒産するわけではないが、経営に深刻な影響を及ぼすことは必至であった。

フランチャイズ契約においては、フランチャイジー(加盟店)が破産等の倒産手続を取った場合には、契約が解除される。

しかし、フランチャイザー(本部)が破産等した場合には、どうなるかということは、フランチャイズ契約書には何も記載されてないのが通例である。

法律的には、双方が履行を完了していない契約とみて、フランチャイズ契約を解除できる。法律的に解除したとしても、フランチャイジー(加盟店)の経営が今後立ち行かなくなるおそれがある。

 「ビューズ」の看板を信頼して、フランチャイズ店になってくれたオーナー達に対して申し訳ない。佐藤社長はそう思った。

そこで、佐藤社長は、フランチャイズ店のオーナー達に今後のことを報告に行くという。黒田弁護士は止めたが、佐藤社長は聞かなかった。佐藤社長は裸一貫から叩き上げた苦労人であり、人情家でもあったからだ。

黒田弁護士と佐藤社長は相談した結果、「ビューズ」という店舗の名称を変えて、「ビュール」という新しいフランチャイズ網に変えることとした。

フランチャイズ網は確かにビューズ社の「財産」とも言えるが、正確には、フランチャイズ店の土地建物や商品、什器備品はフランチャイズ店のオーナーの所有であって、ビューズ社の所有物ではない。したがって、フランチャイズ店がフランチャイザーの倒産を理由にフランチャイズ契約を解除して、新たなフランチャイズ網を組織しても、ビューズ社の財産を流用するわけではないので、ビューズ社の債権者を害することはないから、詐害行為ないしは倒産法上の否認権の対象とはならない筈である。

ビューズ社の営業面での古参の社員が会社を新設して、「ビュール」というフランチャイズ網を作った。

ビューズ社が破産申立てをなし、裁判所は破産管財人を選任した。

破産管財人に対して、黒田弁護士は、新フランチャイズ網のことを報告したが、格別問題にはしなかった。むしろ、ビューズ社の在庫商品が大量にあったので、「ビュール」店舗網に対して、一括買い取りを破産管財人からお願いしたくらいである。売れ残り商品なども含まれていたので、在庫商品の売却代金は薄価の20%程度であった。故物商に売却すると、在庫商品の代金はせいぜい薄価の1割程度で、悪くすれば数%以下だ。破産管財人は、「高く迅速に売れた。」と誇らしげだった。

 「ビュール」側としても、在庫商品を抱えこむリスクはあったが、商品の品ぞろえには当分の間、困らないので、大助かりだった。

 ただし、黒田弁護士はビューズ社の破産申立代理人という立場から、中立の立場をとり、破産管財人が「ビュール」側と交渉するのには、一切口出しはしなかった。

 「ビュール」側の支払った売買代金は、破産によって解雇させられた従業員たちの退職金の配当原資となった。

 こうして、ビューズ社はひっそりと姿を消したが、その代わりに「ビュール」というフランチャイズ網は生き残った。今後も「ビュール」が発展して行くことを願ってやまない。

 

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