子会社等のDESによる損失負担が寄附金に該当するか - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
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子会社等のDESによる損失負担が寄附金に該当するか

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債務整理

 (4) 子会社等のDESによる損失負担が寄附金(法人税法37条)に該当するか

① 寄附金とは

 近年の経済環境の悪化を受けて,法人が経営危機に陥った子会社の倒産等を防止するため又は整理するために損失負担,債権放棄及び無利息貸付け等(以下「損失負担等」といいます。)を行ういわゆる再建支援等事案が増加していますが,これらの事案で,損失負担等を行う者(以下「支援者」といいます。)の損失負担等の額が寄附金に該当するか否かが法律上問題となります。寄附金に該当するか否かによって支援者の所得計算に多大な影響を及ぼすことになるからです。

 この法律上の問題を検討する前提として,寄附金の定義に関する法人税法上の規定および裁判所の考え方について確認することから始めます。

 まず,法人税法では,寄附金の直接的な定義規定を置いてはいません。その代わりに,「寄附金の額」についての規定を置くことにより,寄附金を間接的に意義付けています(法人税法第37条第7項第8項参照)。

 そして,裁判例では,寄附金とは,名義のいかんや業務の関連性の有無を問わず,法人が贈与又は無償で供与した資産又は経済的利益,換言すれば,法人が直接的な対価を伴わないでした支出を広く指称するもの(広島高裁松江支判(昭57.9.30昭55(行コ)第1号)としています。さらに,法人が無利息貸付け等により経済的利益の供与をした場合,相手方からこれと対価的意義を有するものと認められる経済的な利益の供与を受けているか,あるいは,その経済的利益を手放すに足る何らかの合理的な経済目的その他の事情が存する場合でない限り,経済的利益相当額は,その法人の収益として認識される(寄附金課税の対象となる)ことになるとしています(大阪高判昭53・3・30高民集31巻1号53頁,訟務月報24巻5号1350頁)。

② 法人税法37条の趣旨

 法人税法37条が,寄附金,すなわち「資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」一切につき一律に損金算入限度額を定め,その範囲では損金に算入することを認めていますが,それを超えるものを損金に算入しないこととしているのは,次の趣旨によります。すなわち,上の意味における寄附金は,法人の純資産を減少させるものですから,損金に算入すべきであるともいえます。しかし,寄附金の支出は様々な目的をもって行われ,法人の事業との関連性もあいまいだったりすると,それが法人の収益を生み出すのに必要な費用といえるかどうかは必ずしも明らかでありません。このように,寄附金の支出の中には費用としての性質を有するものとそうでないものとがあるが,どれが費用の性質をもち,どれがそれをもたないのかを客観的に判定することは困難な場合が多いです。そこで,法人税法37条は,行政的便宜及び公平の維持の観点から,統一的な損金算入限度額を設け,寄附金のうちその限度額の範囲内の金額は損金算入を認め,それを超える部分の金額は損金に算入しないこととしました。

 他方,法人税法37条7項の括弧書が,「資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」であっても,「広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費,接待費及び福利厚生費とされるべきもの」(以下「広告宣伝費等」という。)は寄附金からは除くこととしています。広告宣伝費等の支出は,その費用としての性格が明らかですので,全額を損金に算入することとしても問題がないわけです。

 以上の考え方をさらにすすめると,たとえ広告宣伝費等には当たらない支出であっても,その費用性が明白であるものは,寄附金には該当せず,損金算入限度額の制限を受けることなく全額を損金に算入することができるといえます。だだし,注意しなければならないのは,法人税法37条が,統一的な損金算入限度額の制度を設け,寄附金について画一的な処理をすることを原則としている点です。こうした原則論に対して,例外としての取扱いは,その範囲をみだりに拡大して考えることはできません。したがって,「資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」であって広告宣伝費等に当たらないものは,明文どおり原則としてすべて寄附金に該当すると事実上推定されるというべきで,客観的にみて費用性が明白な支出であると認められない限り寄附金該当性は否定されないというべきです。したがって,上記のような場合には,寄附金該当性を否定する者が,客観的にみて費用性が明白であることを基礎付ける事情が存在することの立証を負担すべきことになります(前掲東京地判平成21・4・28参照)。

③ 貸倒れの場合

 貸倒れの場合,すなわち,子会社の倒産防止(再建)のための金銭債権放棄の寄附金該当性法人による金銭債権の放棄は,その全額の回収ができないことが明らかとなったことを理由として行われる場合には,貸倒損失として損金に算入することができます(法人税基本通達9-5-2参照)。

 これに対し,回収が可能であるのに放棄をすれば,債務者に経済的な利益を無償で供与したことになりますから,法人税法37条7項の規定する寄附金に該当します。しかし,上記で述べたとおり,そのような債権放棄であっても,客観的にみてその費用性が明白であると認められれば,寄附金に該当しないということができます。

 金銭債権の放棄が寄附金に該当しない(客観的にみて明白に費用と認められる)例として,子会社など資本関係,取引関係,人的関係,資金関係等において密接なつながりのある会社が業績不振に陥り,その子会社等を整理するに当たり,あるいはその倒産を防止するために(再建のために),債権を放棄する場合が挙げられます。このような場合,債権放棄などの支援を行わなければ,かえって支援する側の親会社等自身が将来的に大きな損失を被ることがあり得るからです。基本通達9-4-1及び同9-4-2は,このような観点から,一定の要件の下において債権放棄等が寄附金に該当しないことを定めたものであると解されます(東京地判平成19・5・12公刊物未登載)。

 なお,法人税基本通達9-4-1,9-4-2は,次のとおりです。

法人税基本通達9-4-1(子会社等を整理する場合の損失負担等)

法人がその子会社等の解散,経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において,その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ずその損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは,その損失負担等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に該当しないものとする。

(注) 子会社等には,当該法人と資本関係を有する者のほか,取引関係,人的関係,資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。

法人税基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)

法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において,その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもので合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは,その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は,寄附金の額に該当しないものとする。

 (注)  合理的な再建計画かどうかについては,支援額の合理性,支援者による再建管理の有無,支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について,個々の事例に応じ,総合的に判断するのであるが,例えば,利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は,原則として,合理的なものと取り扱う。

 上記通達の趣旨は,次の通りです。

 株主有限責任の考えに従えば,親子会社であっても別法人ですので,仮に子会社が経営危機に瀕して解散等をした場合でも,親会社としては,その出資額が回収できないにとどまり,それ以上に新たな損失負担をする必要はありません。

 しかしながら,親会社が,株主有限責任を楯にその親会社としての責任を放棄するようなことが社会的な理解が得られない場合もあります。

 また,一概に無利息又は低利貸付けといっても,そのことについて経済取引として十分説明がつくという場合には,子会社整理等の場合における損失負担等と同様に,常にこれを寄附金として取り扱うのは相当でないといえます。

  そこで,上記通達が定める要件を充たした場合には,税務上も正常な取引条件に従って行われたものとして取り扱い,寄附金としての認定課税をしない旨を明らかにしました。

④ 損失負担等の経済合理性の有無の検討

 子会社等を整理又は再建する場合の損失負担等が経済合理性を有しているか否かを検討するに際して,どのような点を考慮すべきでしょうか。これについては,次のような点について,総合的に検討することになります。

(ⅰ)損失負担等を受ける者は,「子会社等」に該当するか。

(ⅱ)子会社等は経営危機に陥っているか(倒産の危機にあるか)。

(ⅲ)損失負担等を行うことは相当か(支援者にとって相当な理由はあるか)。

(ⅳ)損失負担等の額(支援額)は合理的であるか(過剰支援になっていないか)。

(ⅴ)整理・再建管理はなされているか(その後の子会社等の立ち直り状況に応じて支援額を見直すこととされているか)。

(ⅵ)損失負担等をする支援者の範囲は相当であるか(特定の債権者等が意図的に加わっていないなどの恣意性がないか)。

(ⅶ)損失負担等の額の割合は合理的であるか(特定の債権者だけが不当に負担を重くし又は免れていないか)。

 なお,上記(ⅱ)については,倒産の危機に至らなくても経営成績が悪いなど,放置した場合には今後より大きな損失を蒙ることが社会通念上明らかであるかを検討することになります。また,上記(ⅴ)については,子会社等の整理の場合には,一般的にその必要はありませんが,整理に長期間を要するときは,その整理計画の実施状況の管理を行うこととしているかを検討することになります。

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