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村田 英幸
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事業承継と相続税(相続税法の近年の改正)

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相続

第6章 事業承継と相続税

第1 相続税法の近年の改正

1    概要

(1)平成21年度税制改正

① 平成21年度税制改正において,中小企業の事業承継の円滑化を通じた雇用の確保や地域経済活力の維持を図る観点から,新しい事業承継税制である自社株の相続税の納税猶予制度,これに併せて株式等の生前贈与による事業承継を促進する観点から,贈与税の納税猶予制度を導入しました。

② なお,非上場株式等に係る80%納税猶予制度の創設に伴い,自社株等の特定事業用資産についての相続税の10%減額の特例制度(旧租税特別措置法69条の5)は,平成21年3月31日に廃止されました。

 (2)平成22年度税制改正

 平成22年度税制改正においては,以下の改正がされました。

一 相続税法の改正

①   保険法の制定に伴うみなし相続・贈与財産の改正

 保険法(平成20年法律第56号。平成21年4月1日施行)の制定を踏まえ,みなし相続・贈与財産である生命保険契約及び損害保険契約の範囲が明確化されました(相続税法3条1項,相続税法施行令1条の2)。

②   障害者控除の改正

 障害者控除の計算に用いる年数について,相続人が85歳(改正前70歳)に達するまでの年数によることとされました(相続税法19条の4)。

③   定期金給付契約に関する権利の評価の改正

 定期金給付契約に関する権利の相続税及び贈与税の評価方法について,次の見直しが行われました(相続税法24条,25条)。

(ⅰ) 定期金給付事由が発生している定期金給付契約に関する権利の評価額は,次に掲げる金額のうちいずれか多い金額とすることとされました。

イ 解約返戻金相当額

ロ  定期金に代えて一時金の給付を受けることができる場合には,当該一時金の金額

ハ 予定利率等を基に算出した金額

(ⅱ) 定期金給付事由が発生していない定期金給付契約に関する権利の評価額は,原則として解約返戻金相当額とすることとされました。

二 租税特別措置法(相続税・贈与税関係)の改正

①   小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例の改正

(ⅰ) 相続人等が相続税の申告期限まで事業又は居住を継続しない宅地等(改正前200㎡まで50%減額)が,適用対象から除外されました。

(ⅱ) 一の宅地等について共同相続があった場合には,取得した者ごとに適用要件を判定することとされました。

(ⅲ) 一棟の建物の敷地の用に供されていた宅地等のうちに特定居住用宅地等の要件に該当する部分とそれ以外の部分がある場合には,部分ごとに按分して軽減割合を計算することとされました。

⑷  特定居住用宅地等は,主として居住の用に供されていた一の宅地等に限られることが明確化されました。

②   直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税の改正

(ⅰ) 適用期限が平成22年1月1日から平成23年12月31日までとされました。

(ⅱ) 非課税限度額が次のとおり引き上げられました。

イ 平成22年中に住宅取得等資金の贈与を受けた者 1,500万円

ロ 平成23年中に住宅取得等資金の贈与を受けた者 1,000万円

(ⅲ) 特定受贈者の要件に,贈与を受けた年の合計所得金額が2,000万円以下であることが追加されました。

③   住宅取得等資金に係る相続時精算課税の特例の改正

(ⅰ) 特定の贈与者から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税の特例について,適用期限が平成23年12月31日まで2年延長されました。

(ⅱ) 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例について,平成21年12月31日の適用期限をもって廃止されました。

④   非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予の改正

 非上場株式等に係る相続税及び贈与税の納税猶予制度が適用されない一定の法人の株式等を認定会社を通じて保有する場合における適用要件が明確化されるとともに,この場合における当該認定会社の株式等に係る納税猶予税額の計算上,当該法人の株式等相当額を算入しないこととする等の所要の見直しが行われました。

⑤   特定受贈同族会社株式等又は特定同族株式等に係る経過措置(平成21年改正法附則64条2項7項)の改正

上記④の改正に伴い,所要の見直しが行われました。

⑥   相続税及び贈与税の特例に係る修正申告書等の提出に係る罰則の創設

 正当な理由がなくて相続税及び贈与税の特例に係る義務的修正申告書又は義務的期限後申告書を提出しなかった者について申告書不提出犯の対象とすることとされました。

(3)平成24年度税制改正大綱

格差是正の観点から,相続税の課税ベース,税率構造の見直しについて平成24年度改正を目指す,とされています。

バブル期以降,地価が大幅に下落したことなどから,相続税を納める人は全体の4%程度まで減っています。このため,政府税制調査会は,平成23年度税制改正で,政府税制調査会が,富裕層との格差是正の方針で,相続税の最高税率を現行の50%から55%に引き上げ,高額の遺産を受け取る人ほど税負担が重くなるように税率の構造も見直す方針を固めました。また,あらかじめ一定額を差し引いて遺産の課税対象額を圧縮できる「基礎控除」も,現行の「5000万円+法定相続人数×1000万円」から,「3000万円+法定相続人数×600万円」に縮小して,大幅に増税する方針を固めました。

一方,贈与税については,相続税と精算することを条件に,子どもに生前贈与した場合,2,500万円までを非課税にしている今の制度について,孫まで対象を拡大することなどで消費意欲が高い若い世代への資産の移転を促す方針です。

 

3 平成23年の相続税法

  本原稿は、平成23年の相続税法に基づいて記述しています。

相続税法については、課税対象を拡大すること、非課税の範囲の縮小等の改正案が検討されており、今後の動向に注意が必要です。

 

 

4 遺産取得課税方式

 未だ立法化されていませんが,「遺産取得課税方式」という新しい相続税の課税方式の導入が検討されています。

 現在の課税方式は「法定相続分課税方式」を採用しています。この方式は,遺産が法定通りに相続されたものとして法定相続分に即して相続税額を計算し,その相続税額を実際に相続した遺産額の比率で各相続人に配分するものです。

 これに対して,導入が検討されている「遺産取得課税方式」は,各相続人の実際の取得額に応じて税率を乗じて相続税額を計算する方式です。遺産取得課税方式によれば相続税額の計算は簡素化されますが,現行の方式による場合と相続税額が異なる場合もあります。引き続き法改正の動向には,注意が必要です。

 

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