事業承継における退職金等の活用 - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
村田法律事務所 弁護士
東京都
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事業承継における退職金等の活用

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相続

第4章 事業承継における退職金等の活用

第1 生前の退職所得の意義と計算

1 退職所得の意義

 退職所得とは、退職手当、一時恩給その他の退職により一時に受ける給与及びこれらの性質を有する給与(「退職手当等」といいます)に係る所得をいいます。退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいいます。

したがって、退職に際し又は退職後に使用者等から支払われる給与で、その支払金額の計算基準等からみて、他の引き続き勤務している者に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職手当等に該当しないことになります(所得税基本通達30-1)。

もっとも、引き続き勤務する役員又は使用人に対し退職手当等として一時に支払われる給与のうち、その給与が支払われた後に支払われる退職手当等の計算上その給与の計算の基礎となった勤続期間を一切加味しない条件の下に支払われる一定のものは、退職手当等に該当するものとされています(所得税基本通達30-2)。詳細は所得税基本通達を参照してください。

2 退職所得の計算

 退職所得は以下の算式により算出します(所得税法30条2項)。2分の1課税の趣旨は、退職所得が老後の生活の糧となることを鑑み軽減するのが妥当と考えたことによります。

退職所得=(退職金額-退職所得控除額)× 1/2

退職所得控除額は勤続年数が20年以下か20年超かにより算式が異なります。

勤続年数

退職所得控除額

20年以下

① 40万円×勤続年数

② ①で80万円に満たない場合

80万円

20年超

800万円+70万円×(勤続年数-20年)

 

 

3 退職手当金等の活用方法

(1)メリット、デメリット

退職金を支給すると、その分現金が会社から流出することになります。その結果、純資産価額や類似業種比準価額も下がります。また、適正な退職金は損金計上できるため、損金計上した分だけ会社の利益が減ることにもなります。つまり、退職金を支給することによって株式の評価額が下がることになるため、現経営者が退職をする時点で、現経営者から後継者に株式を生前贈与するとよいでしょう。

ただし、退職金を会社から支給した場合、現金がキャッシュアウトするので、会社の運転資金の資金繰りに悪い影響を与えないか等の注意が必要です。

(2)退任に伴う退職金の支給をする場合の税務上の留意点

①適正額の算定

ⅰ 適正額の損金算入

 退職した役員に対して役員退職金として支給した金額のうち、不相当に高額な部分の金額は、法人税の計算上、損金算入できない(法人税法34条1項、法人税法施行令70条1項2号)。しかし、具体的に「不相当に高額な部分の金額」については、次の3つの事情等を総合勘案して判断されることになると定めるのみであり、いざ退職金を支払うことになった場合、どのくらいの額の退職金であれば損金として認められるのかがしばしば問題となる。

(ⅰ)その役員がその会社の業務に従事した期間

(ⅱ)その役員の退職の事情

(ⅲ)その法人と同業種同規模法人における役員退職金の支給状況

 ② 役員退職金の計算方法

退職金が適正かどうかの判断は、内国法人が各事業年度においてその退職した役員に対して支給した退職給与の額が、当該役員のその内国法人の業務に従事した期間、その退職の事情、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するものの役員に対する退職給与の支給の状況等に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額かどうかによります(法人税施行令70条2号)。相当であると認められる金額を超える金額については、会社においては損金不算入となり、受け取った役員において給与所得とされる可能性もあるので注意が必要です。

同種、類似規模の法人と比較する場合には、主要な方法として、功績倍率法と1年当たり平均額法があります(●金子宏「租税法第14版」301頁、弘文堂、2009年)。

(ⅰ)功績倍率法

 役員に対する退職給与が支給されている他の法人で、当該法人と業種・事業規模および退職した役員の地位等が類似するものを選定したうえ、その功績倍率に当該役員の最終月額報酬および勤続年数を乗じて算出する方法

(ⅱ)1年当たり平均額法

 (ⅰ)と同様に、他の法人における退職した役員の勤続年数1年あたりの平均退職給与の額に当該役員の勤続年数を乗じて算出する方法

 

 実務上は、役員退職金の計算方法については、功績倍率法と1年当たり平均額法の2つの方法を採用している。

ア 功績倍率法

 「功績倍率法」とは、退職直前の報酬月額、勤続年数と功績倍率の3要素を掛け合わせて退職金の適正額を求める方法である。一般の企業の多くが、この「功績倍率法」を退職金相当額の算定に利用している。

退職金相当額=退職直前の報酬月額×勤続年数×功績倍率

 上記の算式の変数のうち、功績倍率とは、当該会社と類似する法人を数社選定し、その平均的な功績倍率をもって当該会社の功績倍率とするのが一般的である。その他、功績倍率を、「平均的な功績倍率」に代えて、「類似する法人のうちの最高値の功績倍率」を適用するによることもある。

 その他、算定結果の合理性を確保するために各変数を次の通り変える方法もある。業績不振等の理由により、役員の報酬月額を大幅に引下げていたときの最終報酬月額については、もし引下げをしなかった場合のあるべき金額による方法や、在職期間中の報酬月額の平均値を用いる方法などがありうる。役員報酬は、経済事情の変動に対する調整弁として利用されることが多く、退職給与の算定の際に、受け取る側の理解が得られる合理的な算定方式で妥当な金額を算出するかがポイントである。

比較法人の功績倍率=退職金支給額/退職役員の最終報酬月額×勤続年数

比較法人の平均功績倍率=比較法人の功績倍率の総合計/比較法人の総数

イ 1年当たり平均額法

 「1年当たり平均額法」とは、当該会社と類似する法人を数社選定し、類似法人における退職役員の退職給与について、その退職役員の勤続年数で除して求めた1年当たり平均額に、対象となる役員の勤続年数を乗じて適正な退職金額を求める方法である。

 この方法は、会社の代表取締役であった者が、退職前の数年においては非常勤取締役であったなどの理由によりその報酬月額が前職当時に比べて減少しているような場合や、退職時の報酬月額そのものが、その役員の在職期間中の職務内容等からみて、著しく低額であるような場合など、退任役員の最終月額報酬が適正でなく、「功績倍率法」では合理性に欠け、不適切な算定結果になる場合に採用されるものである。

退職金相当額=比較法人の1年当たり退職金平均金額*×勤続年数

 

類似法人の1年当たりの退職金額=役員退職金/在職年数

類似法人の1年当たりの退職金平均金額=類似法人の1年当たり退職金額の総合計/類似法人の総数

②分掌変更の場合

 退職給与は、原則として、退職という事実がある場合に、損金算入が認められる。しかし、例外として、現実には退職という事実はないが、実質的には退職をしたことと同様の事情がある場合には損金算入が認められる場合がある。

 それでは、実質的には退職をしたことと同様の事情とはどのような事情をいうのか。通達では、次の事情がある場合には、役員としての地位ないし職務が激変し、痔実質的に退職したものと同様の事情があると認められるとして、これを退職給与として取り扱うものとしている(法人税法基本通達9-2-32)。このような場合には、役員としての肩書きを有し、勤務が継続しているからとして、退職給与の損金算入を認めないとすることは実態に反するからである。

(ⅰ)常勤役員が非常勤役員になったこと。

ただし、常勤していなくても代表権があったり、実質的にその法人の経営上主要な地位にある場合は除かれる。

(ⅱ)取締役が監査役になったこと。

ただし、監査役でありながら実質的にその法人の経営上主要な地位にある場合や、使用人兼務役員として認められない大株主である場合は除かれる。

(ⅲ)分掌変更の後の役員の給与がおおむね50%以上減少したこと。

ただし、分掌変更の後においても、その法人の経営上主要な地位を占めていると認めら

れる場合は除かれる。

 また、「退職給与として支給した給与」には、原則として、法人が未払金等に計上した場合の当該未払金等の額は含まれない(法人税法基本通達9-2-32(注))。

 

 

第2 死亡後の退職手当等

1 退職手当金等とは

被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの(以下、退職手当金等といいます)の支給を受けた場合においては、当該給与の支給を受けた者について当該給与は相続又は遺贈により取得したものとみなされ、相続税の課税財産になります(相続税法3条1項2号)。

 退職手当金等は、被相続人の死亡後に被相続人の雇用主から相続人等に直接支給されるものであるため、本来の相続財産には該当しません。しかし、被相続人が死亡の直前に退職手当金等の支給を受けていた場合には、被相続人の財産に含まれて相続税の課税対象となり、相続税が課税されることになります。このような不公平な結論を是正すべく、相続税法は、退職手当金等は相続または遺贈により取得したものとみなして相続税の課税財産としました。

 退職手当金等はみなし相続財産として、退職手当金等から非課税金額を控除した金額が、相続税の課税価格に算入されます。

2 退職手当金等の非課税金額の算定

 退職手当金等の非課税金額については以下の算式により算出されます。

非課税枠=法定相続人数×500万円

 また、弔慰金の非課税金額については、実質的に弔慰金等に該当するものと認められるものについては、下記の金額までは相続税の課税価格に算入されません(相続税基本通達3-20)。

被相続人の死亡原因

相続税の課税価格に算入されない弔慰金の額

業務上の死亡である場合

その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、当該被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与(俸給、給料、賃金、扶養手当、勤務地手当、特殊勤務地手当等の合計額をいいます)の3年分に相当する金額

業務上の死亡でない場合

その雇用主等から受ける弔慰金等のうち、当該被相続人の死亡当時における賞与以外の普通給与の半年分に相当する金額

 上記の表のうち「業務」とは、当該被相続人に遂行すべきものとして割り当てられた仕事をいい、「業務上の死亡」とは、直接業務に起因する死亡又は業務と相当因果関係があると認められる死亡をいいます(相続税基本通達3-22)。また、「給与」については、現物で支給されるものも含むことに留意が必要です(相続税基本通達3-24)。

 退職手当金等の受給者が具体的に決まっていない場合、その退職手当金に係る課税対象者とされる受取人は、以下の通りです(相続税基本通達3-25)。おおまかには退職給与規定等により支給を受ける者が具体的に定められているかどうかにより受取人が異なることになります。

 

受取人

退職給与規程その他これに準ずるもの(退職給与規程等)の定めによりその支給を受ける者が具体的に定められている場合

当該退職給与規程等により支給を受けることとなる者

退職給与規程等により支給を受ける者が具体的に定められていない場合又は当該被相続人が退職給与規程等の適用を受けない者である場合

(ⅰ)相続税の申告書を提出する時又は国税通則法に基づく更正や決定をする時までに当該被相続人に係る退職手当金等を現実に取得した者がある場合

その取得した者

(ⅱ)相続人全員の協議により当該被相続人に係る退職手当金等の支給を受ける者を定めた場合

その定められた者

(ⅲ)上記(ⅰ)および(ⅱ)以外の場合

その被相続人に係る相続人の全員

 なお、上記の表のうち(ⅲ)の場合には、各相続人は、当該被相続人に係る退職手当金等を各人均等に取得したものとして取り扱うものとされています(相続税基本通達3-25(ニ)ハ注)。

 

 

4 死亡退職金の税務上のメリット

(1)非課税枠の利用

  死亡退職金が遺族の生活の糧となることに鑑み、法定相続人数×500万円が死亡退職金の非課税枠となります(相続税法12条1項6号イ)。この退職金の非課税枠を利用することにより、納税額を低減することができます。これに該当するかどうかは、当該金品が退職給与規程その他これに準ずるものの定めに基づいて受ける場合においてはこれにより、その他の場合においては当該被相続人の地位、功労等を考慮し、当該被相続人の雇用主等が営む事業と類似する事業における当該被相続人と同様な地位にある者が受け、又は受けると認められる額等を勘案して判定されます(相続税基本通達3-19)。

また、弔慰金は非課税となる場合がありますが、前述の通り、本来退職金であるものを名目上弔慰金として支給するなどした場合には、一定の制限があります(相続税基本通達3-20)。

(2) 株式評価額の低減

 取引相場のない株式の評価において、役員死亡退職金、弔慰金、社葬費は債務として算入することができ、株式評価額を低減させる効果もあります。

(3) 所得税等が課税されないこと

 役員退職金を死亡退職金とすることでの税務上のメリットもあります。すなわち、役員退職金を退職者の生存時に受領する場合、受領者(被相続人)に退職所得として所得税が課せられます。その上、退職金受領者が死亡した場合、退職金として受領した現金は相続財産に組み入れられたうえ相続税が課せられることになります。これに対して、死亡退職金として受領すれば、前述の非課税枠を利用できるほか、生存時に受領した場合に課せられる所得税がありません。

 したがって、納税資金の確保の観点からすれば、役員退職金を死亡退職金として受け取る方が、後継者たる相続人の手元の現金が多いことになります。

 

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