- 村田 英幸
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対象:事業再生と承継・M&A
5 中小企業承継円滑化法の合意の手続
(1)概要
民法の特例合意は,前述のとおり推定相続人全員が書面により合意をすることが必要ですが,合意をしただけでは効力は発生しません。後継者は,合意の時から1ヶ月以内に,経済産業大臣に対し確認申請を行う必要があり(中小企業承継円滑化法7条1項),確認が得られた後1ヶ月以内に家庭裁判所へ許可の申立てをし,家庭裁判所からの許可を得られてはじめて合意に効力が認められます(中小企業承継円滑化法8条1項)。
ここでは,各手続の流れや,必要書類等について,詳しく説明することにします。
(2)経済産業大臣の確認
民法の特例合意をした後継者は,次のいずれの事項にも該当することについて,経済産業大臣の確認を受けることになります(中小企業承継円滑化法7条)。
(ⅰ)当該合意が当該特例中小企業者の経営の承継の円滑化を図るためにされたものであること。
(ⅱ)申請をした者が当該合意をした日において後継者であったこと。
(ⅲ)当該合意をした日において,当該後継者が所有する当該特例中小企業者の株式等のうち当該合意の対象とした株式等を除いたものに係る議決権の数が総株主又は総社員の議決権の100分の50以下の数であったこと。
(ⅳ)後継者以外の推定相続人がとることができる措置に関する定めをしていること。
経済産業大臣は,上記要件に該当することの確認が取れた場合には,申請者に確認書を交付することとされています(中小企業承継円滑化法施行規則5条)。
ア 確認申請の方法
経済産業大臣への確認申請は,後継者が単独で行うこととされ,推定相続人全員で行う必要はありません。また,後継者が死亡した場合に,その相続人がこの申請を行うことはできないとされています。
後継者は,経済産業大臣に対して,所定の申請書とその写し及び必要書類の写しを各2通提出する必要があります(同条3項)。提出先は,原則として,経済産業省本省(中小企業庁財務課)とされていますが,各地方経済産業局に提出することも可能です。
イ 必要書類
申請に際して,所定の申請書を経済産業大臣に対して提出することになります。書式は,次のホームページに記載があります。
http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2008/download/080905zigyou_shi2.pdf
また,申請に際して,経済産業大臣に提出するべき書類は,次のとおりです。
当事者全員の署名又は記名押印のある合意に関する書面(中小企業承継円滑化法7条2項1号イ) |
当該中小企業の経営の円滑化を図るために当事者全員が合意をした旨の記載があり,かつ,当事者全員の署名又は記名押印のある書面(同号ロ) |
固定合意をした場合には,弁護士等が作成した合意時の価格証明書(同項2号) |
合意書面に押印がある場合には,確認申請より3か月以内に取得した印鑑証明書(中小企業承継円滑化法施行規則3条2項1号) |
合意当時における会社の定款の写し(同項2号) |
確認申請より3か月前以内に取得した登記事項証明書(同項3号) |
合意当時の会社の従業員数を証明する書類(同項4号) |
特例中小企業者の合意日の属する事業年度の直前の三事業年度の貸借対照表,損益計算書及び事業報告書(同項5号) |
特例中小企業者が上場会社等に該当しない旨の誓約書(同項6号) |
特例中小企業者が農地法に規定する農業生産法人である場合にあっては,合意日において農業生産法人である旨の農業委員会の証明書(同項7号) |
旧代表者が合意日において特例中小企業者の代表者でない場合にあっては,旧代表者が当該特例中小企業者の代表者であった旨の記載のある登記事項証明書(同項8号) |
合意日における旧代表者のすべての推定相続人(被相続人の兄弟姉妹及びこれらの者の子以外のものに限る。)を明らかにする戸籍謄本等(同項9号) |
特例中小企業者が株式会社である場合にあっては,合意日における株主名簿の写し(同項10号) |
その他,経済産業大臣の確認のために参考となる書類(同項11号) |
ウ 不服申立方法
経済産業大臣の確認が認められないような場合,後継者は,経済産業大臣に対し,処分があつたことを知った日の翌日から60日以内に不服申立書の提出をすることで異議を申し立てることができます(行政不服審査法45条)。
(3)家庭裁判所の許可
家庭裁判所は,当該合意が推定相続人全員の真意に出たものかどうかを審査し,全員の真意であるとの心証を得た場合には,合意を許可することができるとされています(中小企業承継円滑化法8条2項)。
ア 許可の申立て方法
経済産業大臣の確認を受けた後,後継者は,1ヶ月以内に家庭裁判所に対して許可の申立てをしなければなりません(中小企業承継円滑化法8条1項)。
この申立ては,経済産業大臣の確認を受けた者,すなわち後継者が単独でする必要があります(中小企業承継円滑化法8条1項)。後継者単独で申立てをする点が遺留分放棄許可の申立てと異なる点です。
この場合の管轄は,旧代表者の住所地の家庭裁判所となります(特別家事審判規則31条)
イ 必要書類
家庭裁判所に対する許可の申立てをするには,経済産業大臣が作成した,確認をしたことを証明する書面(当該確認に係る合意の内容が明らかにされたものに限る。)を,申立先の家庭裁判所に提出する必要があります。(特別家事審判規則32条)。
申立ての書式は,次のホームページに記載があります。
http://www.courts.go.jp/saiban/tetuzuki/syosiki/syosiki_01_69.html
また,申立てに必要な書類は,次のとおりです。
申立書 1通 |
遺留分に関する民法の特例に係る確認証明書(経済産業大臣作成)1通 |
合意書面のコピー 推定相続人(申立人を除く。)の人数分の通数 |
推定相続人全員(申立人を含む。)の戸籍謄本 各1通 |
旧代表者の戸籍・除籍・改製原戸籍謄本(出生から現在までのもの) 各1通 |
ウ 不服申立方法
許可の審判は,当該合意の当事者の全員に告知されることになっており(特別家事審判規則33条),許可の申立てを却下する審判に対しては,合意当事者は,即時抗告の方法で,高等裁判所に不服申立てをすることができます(特別家事審判規則34条1項)。具体的には,告知を受けた日の翌日から2週間以内に,審理をした家庭裁判所に即時抗告の申立書を提出して行います。
家庭裁判所の許可の決定に対しては,申立人以外の合意当事者は,上記即時抗告の方法で,高等裁判所に不服申立てをすることができます(特別家事審判規則34条2項)。
6 合意の効力の消滅事由
いったん合意の効力が認められたとしても,後に後継者が経営に従事することが期待できなくなったり,合意後に出現した新たな推定相続人に対する遺留分を保護する必要が生じたりする場合等には,特例合意の効力を維持する前提に欠けるため,中小企業承継円滑化法10条は,以下の場合を合意の効力の消滅事由として定めています。
(ⅰ)経済産業大臣の確認が取り消された場合
(ⅱ)旧代表者の生存中に後継者が死亡し,又は後見開始若しくは保佐開始の審判を受けた場合
(ⅲ)当該合意の当事者以外の者が,新たに旧代表者の推定相続人となった場合
(ⅳ)当該合意当事者の代襲者が旧代表者の養子となった場合
合意の効力が消滅することにより,相続人間では,民法の原則通りに遺留分額が算定されることになりま
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