- 村田 英幸
- 村田法律事務所 弁護士
- 東京都
- 弁護士
対象:事業再生と承継・M&A
9 拒否権付種類株式
(1)概要
株主総会・取締役会等で決議する事項のうち,当該決議のほかに,当該種類株主の種類株主総会の決議があることを必要とするものをいいます(会社法108条1項8号)。会社がある事項を決定するにあたり,その種類の株式を保有している株主の同意が得られなければ,その事項を決定することができなくなるものであり,一般的には「黄金株」などといったりもします。拒否権の対象は,例えば,役員の選任・解任,代表取締役の選定,株式・社債の発行,利益処分,重要財産の譲受け,合併や事業譲渡等,ほぼすべてを拒否権の対象とすることが可能です。
(2)事業承継との関係
一定の重要事項について拒否権のある種類株式を発行して現経営者が取得し,普通株式を後継者に生前贈与等によって取得させることで,後継者への事業承継を行いつつ,一定の重要事項については現経営者が拒否権をもつことによって後継者の育成を図ることができます。【事例】の甲が拒否権付種類株式を保有すれば,自身が長男丙の経営をサポートしつつ事業承継を実現することができます。
また,相続に先立ち,後継者に一定の重要事項について拒否権のある種類株式を与えておけば,後継者への株式の集中が不十分な場合でも,後継者は,一定の重要事項について会社の実権を握ることが可能です。ただし,この場合,後継者以外の株主の意向と後継者の意向が合致せず,会社としての意思決定を行えなくなる状態,いわゆるデッドロック状態を招く場合があります。
そこで,後継者は,議決権ある株式のうち少なくとも過半数を保有しておくことが重要といえます。
さらに,現経営者は,予め自身が取得しておいた拒否権付種類株式を後継者に遺言等により相続させることにより,後継者の税負担を軽減し,かつ,後継者以外の相続人からの遺留分減殺請求権を回避することが可能になります。ただし,この場合も,後継者が過半数以上の株式を保有していなければ,非友好的株主との間でデッドロック状態を招く可能性が高いといえます。
(3)導入方法
拒否権付種類株式を新たに発行する場合には,発行可能種類株式総数および以下の事項を定款に定めることが必要です(会社法108条2項8号イロ)。
なお,定款変更のための株主総会決議は,特別決議です(会社法466条,会社法309条2項11号)。
(ⅰ)当該種類株主総会の決議があることを必要とする事項 (ⅱ)当該種類株主総会の決議を必要とする条件を定めるときは,その条件 |
(定款案) (発行可能種類株式総数及び発行する各種類株式の内容) 第○条 当会社の発行可能種類株式総数は,次のとおりとする。 ① A種類株式 ○○○株 ② B種類株式 ○○○株 2 当会社の発行するA種類株式の内容については,次のとおりとする。 拒否権条項 当会社が次に定める事項を法令又は定款で定める決議機関において決議するときは,当該決議のほか,A種類株式を有する株主(以下「A種類株主」という。)を構成員とする種類株主総会の決議を要する。 ① 代表取締役の選定 ② 会社法第309条第2項に掲げる株主総会決議事項 |
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