早わかり中国特許:第7回 特許要件 新規性と新規性喪失の例外(2) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国特許:第7回 特許要件 新規性と新規性喪失の例外(2)

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早わかり中国特許

~中国特許の基礎と中国特許最新情報~

第7回 特許要件 新規性と新規性喪失の例外(第2回)

河野特許事務所 2012年3月5日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ 2011年11月号掲載)

 

3.抵触出願に基づく新規性喪失

 いかなる機関又は組織又は個人により出願日前に国務院特許行政部門に出願され、出願日後に公開された特許出願書類又は公告された特許書類に、同一の発明又は実用新型が記載されている場合に、抵触出願に基づき新規性を喪失することとなる。以下詳細を説明する。

(1)時期的要件

 後願の出願日以前に先願が出願され、かつ、後願の出願日後に先願が公開または公告された場合に、適用される。抵触出願とは、出願日以前に提出されたものをいい、出願日同日の発明または実用新型特許出願は含まない。また後願の出願日と同日に先願の内容が公開されたとしても、抵触出願の規定は適用される。

 また抵触出願は中国国内段階に移行した国際特許出願をも含む。具体的には、出願日以前に、あらゆる機構または個人(同一出願人、同一発明者の例外はない)が提出しており、かつ、出願日以降(出願日を含む)に、中国特許庁が公開または公告した同様の発明または実用新案に当たる国際特許出願も抵触出願に含まれる。

(2)客体的要件

 先願の請求項及び明細書(図面を含む)が対象となる。すなわち、後願の請求項に記載された発明が、先願の請求項のみならず、請求項及び明細書(図面を含む)の全てに記載された発明と同一である場合に、抵触出願に基づく新規性違反となる。

(3)注意点

 中国の実務においては日本と異なり、発明者自身の先願の存在により、自身の後願が拒絶されるおそれが高い点に注意すべきである。特に新規事業に関し多数の関連発明を同時期にバラバラに出願した場合に、このような問題が発生する。抵触出願に基づく拒絶を回避するには、中国への出願時に、1年以内に日本に出願した複数の特許出願を1つにまとめ、一つの中国特許出願または国際特許出願を行えばよい。これにより、抵触出願を理由とする新規性違反は回避することができる。もっとも発明の単一性違反(専利法第31条)を指摘される可能性が高いが、その場合は、分割出願(実施細則第42条)を行えばよい。

 

4.新規性の客体的要件

(1)対比文献は一つであること

 出願に係る発明が新規性を有するか否かを判断する際に用いられる現有技術は1つに限られる。この点複数の現有技術を組み合わせて判断する創造性(専利法第22条第3項)とは相違する。

 

(2)同一または実質的同一発明が開示されていること

 出願に係る発明または実用新案が、対比文献に開示された技術的内容と完全に同一であるか、または、簡単な文字の変換にすぎない場合、新規性を具備しない。ここで、同一とは、対比文献から直接に、かつ疑う余地もなく確定できる技術的内容を含む。

 

(3)上位概念と下位概念

 対比文献が下位概念であり、出願に係る発明または実用新案が上位概念である場合、新規性を具備しない。例えば、対比文献に開示された発明が「銅製」、出願に係る発明が「金属製」の場合、新規性が否定される。

 逆に、対比文献が上位概念であり、出願に係る発明が下位概念である場合、新規性は否定されない。

 

(4)慣用手段の置換

 単に慣用手段を置換したにすぎない場合も、新規性が否定される。例えば、対比文献ではネジを採用した固定装置を開示しており、出願に係る発明または実用新案が、当該装置のネジによる固定方法をボルトによる固定方法に替えたにすぎない場合、新規性が否定される。

 

(5)数値限定発明の取り扱い

(i)対比文献に開示された数値または数値範囲が、出願に係る発明の数値範囲内に入る場合、新規性が否定される。

[例1] 請求項:10%~35%(重量)の亜鉛と2%~8%(重量)のアルミを含み、残部が銅である銅基の形状記憶合金。

 対比文献:20%(重量)の亜鉛と5%(重量)のアルミを含む銅基の形状記憶合金。

[例2]請求項:アーチライニングの厚みが100~400mmである熱処理用台車式炉。

 対比文献:アーチライニングの厚みが180~250mmである熱処理用台車式炉。

 例1及び例2共に新規性が否定される。

(ii)対比文献に開示された数値範囲が、出願に係る発明の数値範囲の一部と重なっているか、または、共通端点がある場合、新規性が否定される。

[例1]請求項:焼成時間が1~10時間である窒化ケイ素セラミックスの生産方法。

 対比文献:窒化ケイ素セラミックスの生産方法において、焼成時間が4~12時間。

 この場合、焼成時間が4~10時間の範囲で重なっていることから、新規性が否定される。

[例2]請求項:スプレー塗布時のスプレーガンの出力が20~50kWであるプラズマスプレー塗布方法。

対比文献:スプレーガンの出力が50~80kWであるプラズマスプレー塗布方法。

 この場合、50kWという共通の端点があるため、新規性を有さない。

(iii) 請求項が離散数値であるところ、対比文献に数値範囲の両端点が開示されており、かつ当該両端点のいずれか1つを有する場合、新規性が否定される。ただし、対比文献の数値範囲の両端点間の数値については新規性を損なわない。

[例1]請求項:乾燥温度が40℃、58℃、75℃または100℃であるチタニア光触媒の製造方法。

対比文献:乾燥温度が40℃~100℃のチタニア光触媒の製造方法。

 この場合、乾燥温度が40℃及び100℃については新規性を有さない。ただし、乾燥温度58℃及び75℃は新規性を有する。

(iv) 請求項が数値または数値範囲を限定しているところ、当該数値または数値範囲が、対比文献に開示された数値範囲内に属し、かつ、対比文献に開示された数値範囲と共通する端点が存在しない場合、新規性を有する。

[例1]請求項:リング径が95mmである内燃機関用ピストンリング。

対比文献:リング径が70~105mmである内燃機関用ピストンリング。

 この場合、端点が存在しないため、新規性を有する。

[例2]請求項:重合度が100~200であるエチレン・プロピレン共重合物。

対比文献:重合度が50~400であるエチレン・プロピレン共重合物。

 この場合も、数値範囲が対比文献の数値範囲内に属し、かつ、端点が一致しないことから新規性を有する。

 

(6)パラメータ特許

 請求項にパラメータが記述されている場合、保護を要求する製品が、特定の構造または組成を暗に備えているか否かが考慮される。当該パラメータに基づく製品と、対比文献とにより区別される構造または組成が暗に含まれている場合、新規性を具備することとなる。逆に、当業者が当該パラメータに基づいて、保護が求められる製品と対比文献とを区別できない場合、新規性が否定される。

 ただし、出願人は出願書類または現有技術に基づき、請求項中のパラメータ特徴を含む製品が、対比文献の製品と構造または組成において相違することを証明できる場合、新規性は肯定される。

 例えば、請求項がX線回折データ等複数種のパラメータにより特徴づけられる結晶形態の化合物Aであり、対比文献も結晶形態の化合物Aを開示していたとする。ここで、対比文献の開示内容に基づいて、両者の結晶形態を区別できない場合、保護を求める製品と対比文献の製品とは同一であると推定され、出願に係る発明の新規性は否定される。逆に、出願人は出願書類または現有技術に基づき、出願された請求項により限定された製品が、対比文献に開示された製品とは結晶形態において確かに相違することを証明できる場合、新規性が肯定される。

 

(7)用途を特定した請求項

 用途を特定した請求項は、保護を求める製品が特定の構造または組成を暗に具備しているか否かにより、新規性が判断される。例えば、抗ウイルス用の化合物Xの発明は、触媒用化合物Xの対比文献と比較した場合、化合物Xの用途が変化しているにすぎず、本質的な特性を決定する化学構造式には何ら変化が存在しないため、抗ウイルス用化合物Xの発明は新規性を具備しない。

 例えば、請求項に係る発明が「クレーン用フック」であり、対比文献が同じ形状を持つ一般釣り人向けの「魚釣り用フック」であるとする。ここで請求項に係る「クレーン用フック」発明が、クレーンの寸法及び強度等の構造面において相違する場合、新規性を有する。

 

(8)プロダクトバイプロセス

 製品クレームは、通常、製品の構造により特定されるが、場合によって構造で限定できないものもある。例えばある新型のガラスの場合、外観では通常のガラスと変わりないが、特殊加工処理により強い強度を有しているものとする。これは微視的な構造の変化によるものであるため、請求項の中で構造に関する言葉で表現することはほぼ不可能である。この場合、ガラスの加工プロセスを記載することで製品の請求項を作成することが認められており、業界では「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」と称されている。例えば、A工程と、B工程と、C工程により製造される化合物Xと記載する。

「プロダクト・バイ・プロセスクレーム」は国によって許されない場合もあるが、審査指南によって中国ではこのような書き方が許容されている。

「例えば、製品クレームにおける一つ又は複数の技術的特徴は、構成的特徴又はパラメータ特徴で明瞭に表現できない場合には、方法的特徴で表現することが許される。ただし、方法的特徴で限定された製品クレームの主題は依然として製品であり、方法的限定の作用は、保護を求める製品自身に対してどのような影響を与えるかによる。」(審査指南第2部分第2章3.1.1)

 新規性の判断にあたっては、プロダクト・バイ・プロセスクレームに記載された方法が、引用文献に記載された方法と異なろうが、最終的な物の構造・構成が同じである限り新規性が否定される
 ただし、出願人が明細書の記載または出願時の技術水準に基づき、引用文献に記載された物と比較して、クレームされた方法により物の構造・構成が異なる物に変化したことを証明した場合、または、クレームされた方法が引用文献に記載された物と比較して異なる性能をもたらし、クレームに係る物の構造・構成が変化したことを証明した場合新規性が肯定される。
 審査指南にはわかりやすい例が挙げられている。クレームには「X方法により得られるガラスコップ」と記載されており、引用文献には「Y方法により得られるガラスコップ」が開示されていたとする。ここで、2つの方法により得られるガラスコップの構造、形状及び構成材料が同じである場合、新規性は否定される。
 その一方で、クレームに記載されたX方法が、引用文献に記載されていない特定温度での焼き戻しステップを含んでおり、これによって引用文献に記載されたガラスコップに対し、耐久性が明確に向上し、クレームされた方法により微視的な構造変化が生じ、先行技術に記載された物の内部構造とは異なる構造を備える場合、新規性は肯定される。

 

(第3回へ続く)

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