プロキシーファイト - 事業再生と承継・M&A全般 - 専門家プロファイル

村田 英幸
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東京都
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閲覧数順 2017年07月28日更新

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【コラム】プロキシーファイト(proxy  fight)

 議決権の代理行使は,会社側が,株主総会の決議の定足数を確保するために,招集通知の際に委任状用紙を株主に対し送付する形で委任状を勧誘し,返送された委任状に基づき使用人等が議決権を代理行使することが多く行われます。

 これに対して,現経営陣に敵対する株主が,自らの株主提案を可決するために,他の株主から委任状を得て,議決権の代理行使を行おうとする場合があります。

 これが,いわゆる「委任状勧誘合戦」(プロキシーファイト)です。

 なお,上場会社における委任状勧誘については,金融商品取引法に基づく規制があります(次の【コラム】参照)。上場会社でない会社の場合には,会社法および会社法施行規則が適用されます。

(ⅰ)プロキシーファイトの流れ

 現経営陣に敵対する株主は,まず,株主名簿の閲覧権(会社法125条2項)を使って株主の名前と住所などの情報を入手します。そして,株主提案の議案への賛否を記入する委任状用紙などを株主に送ります。

 他方,会社側は,書面投票制度を利用して,委任状用紙ではなく,議決権行使書面を株主に送付し,会社提案の議案につき賛同を求めることが一般的です。

 なお,上場会社が議決権を行使できる株主全員に対して金融商品取引法に基づく規制にしたがい委任状勧誘をした場合には,議決権を有する株式数が1000人以上の会社であっても書面投票制度の利用が義務付けられなくなります(会社法298条2項ただし書,会社法施行規則64条)。

 現経営陣に反対する株主が委任状勧誘をするときは,会社の招集通知の発送の前からすることになります。総会日の2週間前に発送される会社側の招集通知を待っていては,委任状の印刷,発送,返送などが間に合わないからです。そのため事前に株主名簿の閲覧謄写請求をする必要があります。

(ⅱ)モリテックス事件(東京地判平成19・12・6判タ1258号69頁)

上記のように時間的余裕がないため,現経営陣に敵対する株主が行う委任状勧誘には,会社提案の議題・議案が書けません。そこで,そのような場合に委任状勧誘規制(上場株式の議決権の代理行使の勧誘に関する内閣府令(平成15年3月28日内閣府令第21号)43条,次の【コラム】参照)違反の有無および出席議決権の計算の仕方が問題となります。モリテックス事件判決(東京地判平成19・12・6判タ1258号69頁)では,役員の選任に関して,会社提案と株主提案が完全に両立しない場合には,株主提案に賛成する委任状は会社提案についても出席し会社提案に反対したことになり,委任状勧誘規制の趣旨にも反しないとされています。

また,モリテックス事件判決では,会社側が,議決権を行使した株主に500円のクオカードを配付したことが会社の財産を使って議決権行使に影響を与えようとすることに当たり,株主に対する利益供与にあたる(会社法120条)として違法とされました。したがって,株主優待制度は別として,委任状勧誘合戦が行われている場合には,粗品などの提供は避けるべきです。

(ⅲ)日本エム・ディ・エム事件(東京地判平成17・7・7判時1915号150頁)

委任状勧誘規制違反がある場合に,株主総会決議の取消事由になるのか問題となります。必要事項を記載した参考書類が交付されなかった点および委任状用紙に必要事項が記載されていなかった点につき勧誘規制違反があった日本エム・ディ・エム事件では,委任状勧誘は決議の前段階の事実行為にすぎないため決議方法の法令違反(会社法831条1項1号)はないとされました。

また,委任の趣旨に基づく議決権の代理行使がなされたか否かを著しく不公正な決議方法(会社法831条1項1号)の問題として検討していますが,結論としては決議の方法について著しい不公正があるとはいえないとされました。

(ⅳ)上場会社のプロキシーファイトの事例

・株主側のプロキシーファイトが失敗した事例

① 東京スタイル

平成14年の東京スタイルの株主総会が日本で初めての本格的な委任状合戦と言われています。村上ファンドは,配当金の大幅増額(当初会社予想1株当たり配当額12.5円を500円へ),自己株式の取得(上限500億円),社外取締役の選任を提案し,プロキシーファイトを仕掛けました。株主総会では,取引先との持ち合いや1株当たり20円への増配提案により,取締役会提案が可決されました。

② TBS対楽天

TBSの平成19年6月開催の株主総会において,筆頭株主である楽天グループが,三木谷浩史楽天社長らを社外取締役に選任することや買収防衛策発動に株主総会の特別決議を必要とするよう定款を変更することを求める株主提案を提出し,TBSとの間でプロキシーファイトがなされました。株主総会では,楽天の提案は,圧倒的な反対多数で否決されました。

・株主側のプロキシーファイトが成功した事例

① 東京鋼鉄

平成19年,大阪製鉄と東京鋼鉄の株式交換に関して,東京鋼鉄の株主総会において外資系の投資会社いちごアセットマネジメントが委任状勧誘合戦を展開し,会社提案の株式交換が否決されました。

② CFSコーポレーション対イオン

CFSコーポレーションの平成20年開催の臨時株主総会において,調剤薬局最大手のアインファーマシーズとの株式移転による経営統合を目指すCFS経営陣と,統合比率が不利なことなどを理由に統合に反対する筆頭株主のイオンとの間で委任状勧誘合戦が繰り広げられました。イオンが3分の1超の反対票を獲得したため,特別決議が必要な経営統合議案は否決され,アインとの統合は破談となりました。

③ アデランスホールディングス対ステイール・パートナーズ

平成21年のアデランスホールディングスの定時株主総会で,ユニゾンとの提携を目指す会社側と,それに反対する筆頭株主(ステイール・パートナーズ・ジャパン)との間でプロキシーファイトが行われました。アデランスの業績不振に不満を持つ株主が意外と多く,ステイールの勝利に終わりました。当時の社長ら7人の経営陣の再任が否決され,スティール側の提案した取締役が就任しました。

(ⅴ)今後のプロキシーファイト

 かって日本では,株式の相互持合いによる安定株主の存在が大きく,プロキシーファイトの実効性は否定的に見られていましたし,事例も少なかったようです。

 しかし,近年は株式の相互持合いが崩れ,個人株主・外国人株主などの必ずしも安定株主とはいえない株主の比率が高まっています。そうなると,買収企業の委任状取得に協力的な株主の比率が増える傾向が高まります。機関投資家や外国人株主・投資ファンドなどは信託銀行に信託している場合も多く,名義は信託銀行だが,実質株主がこれらの者である場合,経営陣の方針に賛成するか反対するかは定かではないので,近時は実質株主を事前に調査する事例が増えてきています。

 上記の事例にも見られるように,個人投資家・外国人株主の議決権が議案の可否を決める傾向が強まり,これらに備えて上場企業のIR活動は,個人投資家などを照準に定めたものに傾きつつあります。 

 

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