早わかり中国:第5回ソフトウェア特許とビジネス関連発明特許(2) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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早わかり中国:第5回ソフトウェア特許とビジネス関連発明特許(2)

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第5回 ソフトウェア特許とビジネス関連発明特許(第2回)

河野特許事務所 2011年12月28日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(月刊ザ・ローヤーズ2011年9月号掲載)

 

(3)審査官の判断

 審査官は、請求項1は専利法第25条第1項(2)に規定する「知的活動の法則および方法」に該当し、保護適格性を有さないと判断し、拒絶査定をなした。出願人はこれを不服として復審委員会へ復審請求[1]を行った。

(4)復審委員会での争点

争点:知的活動の法則及び方法が請求項の一部に含まれている場合、保護適格性を有するか否か?

 請求項1には何らハードウェアについての記載がなく、特に請求項中の「アクションに関連する第1XMLノードを識別する第1パラメータフィールドを設定」等は知的活動の法則および方法と考えられる。このような場合に請求項1に係る発明が保護適格性を有するか否かが問題となった。

(5)復審委員会の判断

争点:知的活動の法則および方法を請求項の一部に含むとしても、これと共に技術的特徴をも含む場合、全体としては知的活動の法則および方法とはいえず、保護適格性を否定してはならない。

 復審委員会は、審査官の拒絶査定を覆し、請求項1に係る発明は保護適格性を有すると判断した。

(i)保護適格性の判断基準

 審査指南第2部分第1章第4.2節は以下のとおり規定している。

 知的活動の法則と方法に関わる特許出願で保護を請求する主題が、特許権付与の客体に該当するかどうかを判断する時、以下に挙げられる原則に従うものとする。

 

(1) ある請求項が、知的活動の関係法則と方法だけに関わるものならば、特許権を付与してはならない。

 ある請求項が、その主題名称を除き、それを限定する全ての内容が知的活動の法則と方法である場合に、当該請求項は実質的に、知的活動の法則と方法だけに関わるものとなり、特許権が付与されてはならない。

(2) 前述(1)で述べた状況を除き、もし、ある請求項を限定する全ての内容において、知的活動の法則と方法の内容を含むとともに技術的特徴も含むものであれば、当該請求項が全体としては、知的活動の法則と方法ではないので、専利法第25条に基づいた上で、その特許権を取得する可能性を排除してはならない

 

 さらに、審査指南第2部分第9章第2節は以下のとおり規定している。

 もし、コンピュータプログラムに係わる発明専利出願の解決方案において、技術的課題を解決することがコンピュータプログラムを実行する目的であって、コンピュータでコンピュータプログラムを実行して、コンピュータ外部又は内部の対象を制御、又は処理する際に、自然法則に準拠した技術的手段が反映されており、それによって自然法則に合致した技術的効果を獲得する場合には、このような解決方案は、専利法2条2項でいう技術方案に該当し、専利保護の客体に該当する。

 

(ii)請求項1について

  請求項1は第1プログラムから第2プログラムへメッセージを発行する方法であり、以下の構成要件を有している。

 

「XMLドキュメントに対して行われたアクションに関連するイベントの発生を確定し、」

複数タイプのアクションに対し、アクションのタイプに関わらず、発行メッセージを新規作成し、」および、

「前記第1プログラムから第2プログラムへ前記メッセージを発行する」

 

 これらの構成要件は、当業者の観点からすれば全て技術的特徴であるといえる。確かにメッセージを新規作成するステップにおいて、メッセージの識別子フィールド及び各パラメータフィールドに対して設定を行う内容は必ずしも技術的特徴とはいえないが、全体としてみれば上述した技術的特徴をも含んでいる。従って、請求項1は全体的に見れば、必ずしも知的活動の法則と方法とはいえず,専利法第25条第1項第(2)に規定する範囲には属さない。

 

 さらに,本明細書の記載に基づけば,請求項1はコンピュータ上でコンピュータプログラムを実行する技術であり、プログラムの実行により、コンピュータ内部での対象(例えば,イベント、メッセージ)に対し、制御および処理を行う。

 

 解決すべき課題は如何に一のプログラムから他のプログラムへ、イベントメッセージを発行し、かつ、前記イベントメッセージに対応して関連する処理および動作を実行させるかにあり、全体的に見ればその解決すべきものは技術的課題である。

 

 当該方案においては,コンピュータ上でコンピュータプログラムが実行され、関連するイベントに対し監視が行われる。また、他のプログラムに対して複数タイプのアクションを指示することのできるメッセージが発行され、このメッセージを受け取ってアクションに応答する等、コンピュータの内部対象に対し制御および処理を実現する手段が構成されている。

 

 従って,自然法則に従った技術手段であり,かつ、それによりメッセージを利用するだけで、多くのタイプのアクションの中から一つを指示し作り出される状態改変という技術效果を獲得している。

 

 以上の状況を総合的に鑑みれば,請求項1が要求する保護の解決方案は技術課題を解決しており、技術手段を採用しており、技術效果を獲得していることから、復審委員会は請求項1に係る発明は,専利法第2条第1項に規定する技術方案に属し,専利法の保護客体となると結論づけた。

(iii)結論

 復審委員会は、知識産権局が2009年3月13日において第03145242.6号発明特許申請に対しなした拒絶査定を取り消した。

(iv)コメント

 請求項の一部に知的活動の法則および方法が含まれていたとしても、他に技術的特徴が含まれており、かつ、請求項全体としてみた場合に必ずしも知的活動の法則および方法といえない場合は、保護適格性が肯定される。

 

 また保護適格性の判断には、審査指南第2部分第9章に規定される技術三要素がキーとなる。すなわち、ある技術的課題を解決するために、技術的手段をもって、技術的な効果を獲得しているかが争点となる。本事件では明細書の記載に鑑み、請求項1に係る発明が技術三要素を満たしていると判断された。

 

 審査段階において専利法第25条第1項(2)に基づく拒絶理由を受けた場合、請求項中の構成要件に技術特徴が存在する点、及び、明細書の記載に鑑み技術三要素が存在することを主張することが重要となる。



[1] 復審委員会は日本国特許庁審判部に対応し、専利法第41条に規定する復審(日本の拒絶査定不服審判に相当)及び専利法第45条に規定する無効宣告請求(日本の無効審判に相当)事件を取り扱う。

専利法第41条

 国務院特許行政部門は特許復審委員会を設置する。特許出願人が国務院特許行政部門の拒絶査定に不服があるときは、通知を受領した日から3ヶ月以内に特許復審委員会に不服審判を請求することができる。特許復審委員会は審判後に決定をして特許出願人に通知する。

専利法第45条

 国務院特許行政部門が特許権を付与することを公告した日から、いかなる機関又は組織又は個人もその特許権の付与が本法の規定に適合しないと認めたときは、特許復審委員会に当該特許権の無効を宣告するよう請求することができる。

 

(第3回へ続く)

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