- 羽柴 駿
- 番町法律事務所
- 東京都
- 弁護士
対象:民事家事・生活トラブル
- 榎本 純子
- (行政書士)
第2回
Nの話を聞いている時の私の顔には、信用していいものかどうかの迷いが表れていたに違いないと私は自分でも思います。ただ、本当に身に覚えのないことなら、認めるのはよくないことです。私はNに「私はあなたの弁護人なのだから秘密は絶対に守る。だからもしやったのなら、私にだけは言ってほしい。もしやっていないのなら、あきらめずに争うべきではないのか。私も力を貸すから」と励まし、その日は別れました。
その後、検察官から記録が開示されたので見てみると、Nには窃盗・強盗などの前科が12回あり、しかも10年の間に4回も、同じT駅で同じ手口で窃盗行為を働いたとして逮捕され、有罪判決を受けては服役してきたのです。
記録をさらに読み進めると、Nを逮捕したG警察官による供述調書があり、逮捕の経過が記録してありました。G警官によるとNには普段から注目していて名前も承知していたそうです。しかもG警官が犯行を目撃した位置は隣接して停車している車内で、犯行現場からの直線距離は4メートルほどで、犯行現場の車内は電灯がついて明るく、初めからNだと分かったというのです。
過去4回と全く同じ駅での同じ手口の犯行。しかも警察官がNに普段から目をつけており、犯行現場に近接した距離で目撃していること。これを否認するには相当の勇気がいるなと、私は考えこまざるを得ませんでした。
(次回へ続く)