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対象:特許・商標・著作権
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米国特許判例紹介:誘発侵害と寄与侵害(第2回)
~最高裁により誘発侵害の適用要件が明確化される~
Global-Tech Appliances, Inc., et al.,
Petitioners,
v.
SEB S.A.
河野特許事務所 2011年10月7日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(2)被告の侵害行為
Global-Tech Appliance(上告人、原審第1被告、以下G社という)の子会社であるPentalpha社(以下、P社という、原審第2被告)は、香港の会社である。P社は、問題となっているフライ鍋(イ号製品)を、1997年訴外SunbeamへFree On Board(FOB[1]:本船渡し)により販売した。Sunbeam社はイ号製品を米国で自身の商標”Oster”,”Sunbeam”を付与して販売した。
P社はSunbeam社へのイ号製品提供開始後、米国での特許権侵害の有無を確認すべくニューヨークの弁護士に調査を依頼した。弁護士は26件の特許を分析し、イ号製品が侵害となる特許は存在しないと結論づけた。しかし、P社は弁護士に、原告の製品を模造した事実を伝えなかった。
1998年3月10日、SEBは、312特許を侵害するとしてSunbeam社をニュージャージ州連邦地方裁判所へ提訴した。Sunbeam社は訴訟提起を受けて和解交渉を行い、SEBに200万ドルを支払うことで決着した。
P社及びG社はまた、Montgomery(原審第3被告、以下、M社という)にもFOBによりイ号製品を提供していた。M社は商標”ADMIRAL”をイ号製品に付して販売していた。参考図2は当事者の関係をまとめた説明図である。
参考図2 当事者の関係をまとめた説明図
SEBはイ号製品の提供者であるP社及びG社と、米国での販売者であるM社を共同被告としてニューヨーク州連邦地方裁判所へ提訴した。地裁は特許権侵害を認め、イ号製品に対する仮差し止めを認めた。またイ号製品を提供したP社及びG社に対しては誘発侵害を認め、損害賠償として、$4.65M(約3億7千万円)の支払いを命じた[2]。CAFCも地裁の判断を維持した[3]。G社はCAFCの判断を不服として最高裁に上告した。
3.最高裁での争点
争点1:米国特許法第271条(b)が成立するためには誘発行為により特許権侵害を構成するということを知っていることが必要となるか
米国特許法第271条(b)に規定する誘発侵害は、被疑侵害者(P社及びG社)の誘発行為によって他人(M社)が特許権を侵害した場合に成立する。ただし米国特許法第271条(b)の規定は非常に曖昧であり、適用要件が明確ではなかった。
本事件では米国特許法第271条(b)に規定する誘発侵害が成立するためには、被疑侵害者が誘発行為によって特許権侵害を構成するということを「知っていること」が必要か否か、が問題となった。
争点2:見て見ぬふり(故意の盲目)をした場合に知っていると言えるか
争点1において「知っていること」が要件として課される前提下、誘発により特許侵害の恐れがある特許を被疑侵害者が見て見ぬふりした場合に、誘発侵害が成立するか否かが争点となった。
[1] FOB: Free On Board 本船渡し。貿易取引条件の一つ。船積港において買い主の指定した本船甲板上に貨物を積み込むまでの価格で取引するもの。以後の所有権、費用、危険は売り主から買い主へ移転する。デジタル大辞林 小学館
[2] SEB, S.A. v. Montgomery Ward & Co., Inc., 243 F.3d 566 (Fed. Cir. 2000)
[3] SEB S. A. v. Montgomery Ward & Co., 594 F. 3d 1360 (2010)
(第3回へ続く)
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