(続き)・・重要なのは脂肪酸の比率だけではありません。その品質も同じくらい重要です。何よりも注意しなければならないのが「トランス脂肪酸」の存在です。上記のような飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸はいずれも自然界に存在する油ですが、自然には決して存在しないような油が世の中には出回っているのが現状です。トランス脂肪酸とは、不飽和脂肪酸の炭素の二重結合の形が通常の「シス型」ではなく、不自然な「トランス型」になっているものを指し、自然界には殆んど存在しません。
トランス脂肪酸の代表がマーガリンとショートニングです。マーガリンはバターに代わる商品として戦後現れました。バターよりヘルシーという印象があり、またバターより製造コストが安いため、家庭でトーストなどに使用されるほか、パンや菓子類などの製造に広く用いられています。元々液体である植物油に水素を添加すると、二重結合の部分に水素原子が付加されるために、安定した状態となって固体化します。そのために保存性や使い勝手が良くなるという訳です。
ショートニングはファストフード店やスナック菓子などで盛んに用いられています。これらの現場では、肉やポテトなどの食材を植物油で揚げる際に、「カリッ」とした食感を保つなどの目的でショートニングを揚げ油に混入して用いています。油を何回も繰り返して使用するため、油の保存性を良くする意味もあるようです。それ以外にも、加工食品の原材料表示欄に「植物油脂」との表現がよく見受けられますが、この中にもマーガリン等のトランス脂肪酸が含まれている可能性があります。
今や米国や欧州の大半の国々では、トランス脂肪酸が動脈硬化や心臓病、アレルギー疾患などの重大な原因物質の一つだとして、様々な規制がかけられています。疫学的にもトランス脂肪酸の摂取量が多いグループでは、心筋梗塞などによる死亡率が高い、という結果が出されています。米国を含む多くの国ではトランス脂肪酸の使用量の上限を厳しく定めており、国によっては事実上禁止に近い扱いをしている所もあります。それに比べれば日本では殆んど規制の動きがなく野放し状態です。
一般の植物油であっても「酸化」の問題がついて回ります。不飽和脂肪酸には二重結合の部分に酸素が結合しやすいため、たいへん酸化しやすいという性質があります。元々の植物内に包含されている間、油は抗酸化物質によって酸化を免れていますが、いったん工業的に抽出されると、その瞬間から酸化が始まるとされています。従って古くなった油や何回も使った油、さらには高温で加熱した油は酸化して「過酸化脂質」となり、人体の組織を酸化させて様々な悪影響を及ぼします。
そして植物油の製造方法にも注意が必要です。昔ながらの「圧搾法」では、石や金属の重みを利用して時間をかけて絞り出す方法が用いられていましたが、生産効率が高くないために、今では殆んど用いられていません。現在の主流は「化学的抽出法」です。これはノルマルヘキサンなどの溶剤を用いて化学的に抽出する方法で、たいへん効率が高いのですが、この溶剤を飛ばすために別の溶剤を用いており、その分だけ余計に酸化が進んでしまっているのです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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