中国におけるソフトウェア/ビジネス関連発明の保護適格性(1)(第4回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国におけるソフトウェア/ビジネス関連発明の保護適格性(1)(第4回)

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中国特許判例・審決紹介:中国におけるソフトウェア/ビジネス関連発明の保護適格性(1)(第4回)

~コンピュータ・ソフトウェア発明の保護適格性と審査~

河野特許事務所 2011年8月16日 執筆者:弁理士 河野 英仁

(3)請求項1及び20について

  請求項1は第1プログラムから第2プログラムへメッセージを発行する方法であり、以下の構成要件を有している。

「XMLドキュメントに対して行われたアクションに関連するイベントの発生を確定し、」

複数タイプのアクションに対し、アクションのタイプに関わらず、発行メッセージを新規作成し、」および、

「前記第1プログラムから第2プログラムへ前記メッセージを発行する」

 

 これらの構成要件は、当業者の観点からすれば全て技術的特徴であるといえる。確かにメッセージを新規作成するステップにおいて、メッセージの識別子フィールド及び各パラメータフィールドに対して設定を行う内容は必ずしも技術的特徴とはいえないが、全体としてみれば上述した技術的特徴をも含んでいる。従って、請求項1は全体的に見れば、必ずしも知的活動の法則と方法とはいえず,専利法第25条第1項第(二)に規定する範囲には属さない。

 

 さらに,本明細書の記載に基づけば,請求項1はコンピュータ上でコンピュータプログラムを実行する技術であり、プログラムの実行により、コンピュータ内部での対象(例えば,イベント、メッセージ)に対し、制御および処理を行う。

 

 解決すべき課題は如何に一のプログラムから他のプログラムへ、イベントメッセージを発行し、かつ、前記イベントメッセージに対応して関連する処理および動作を実行させるかにあり、全体的に見ればその解決すべきものは技術的課題である。

 

 当該方案においては,コンピュータ上でコンピュータプログラムが実行され、そうして関連するイベントに対し監視を行い、他のプログラムに対して複数タイプのアクションを指示することのできるメッセージを発行し、前記メッセージを受け取りアクションに応答する等多くのコンピュータの内部対象に対し制御および処理を実現する手段である。

 

 従って,自然法則に従った技術手段であり,かつ、それによりメッセージを利用するだけで、多くのタイプのアクションの中から一つを指示し作り出される状態改変(transformation)という技術效果を獲得している。

 

 以上の状況を総合的に鑑みれば,請求項1が要求する保護の解決方案は技術課題を解決しており、技術手段を採用しており、技術效果を獲得していることから、復審委員会は請求項1に係る発明は,専利法第2条第1項に規定する技術方案に属し,専利法の保護客体となると結論づけた。

 

 請求項1が保護対象となる以上、カテゴリーのみ相違する請求項20も同様に専利法の保護対象となると判断した。

 

5.結論

 復審委員会は、知識産権局が2009年3月13日において第03145242.6号発明特許申請に対しなした拒絶査定を取り消した。

 

6.コメント

 請求項の一部に知的活動の法則および方法が含まれていたとしても、他に技術的特徴が含まれており、かつ、請求項全体としてみた場合に必ずしも知的活動の法則および方法といえない場合は、保護適格性が肯定される。

 

 また保護適格性の判断には、審査指南第2部分第9章に規定される技術三要素がキーとなる。すなわちある技術的課題を解決するために、技術的手段をもって、技術的な効果を獲得しているかが争点となる。本事件では明細書の記載に鑑み、請求項1に係る発明が技術三要素を満たしていると判断された。この判断手法は欧州の考えに沿うものであるが、その一方で技術的効果の判断に際し、データの状態改変(transformation)に着目しており、過去米国CAFCが打ち出した機械・変換テスト(machine or transformation test)[1]の考えをも含んでいる。

 

 審査段階において専利法第25条第1項(二)に基づく拒絶理由を受けた場合、請求項中の構成要件に技術特徴が存在する点、及び、明細書の記載に鑑み技術三要素が存在することを主張することが重要となる。

 

 なお、請求項1の保護適格性は日本でどのように判断されるであろうか。同様の請求項の記載では、「ソフトウエアによる情報処理が、ハードウエア資源を用いて具体的に実現されている」とはいえない、或いは、単なる情報の提示にすぎないとして、拒絶される可能性が高いと考える。現在審判部にて審理中である。

 

 次回は、技術三要素の欠如を、より指摘されがちなビジネス関連発明についての審決例を紹介する。

審決 2009年10月26日

以上


[1] 機械変換テストとは、方法クレームが以下の2条件のいずれかを具備する場合に、米国特許法第101条の要件を満たすとする判断基準である。

(I)クレームされた方法が特別な機械または装置に関係していること、 または

(II)特別な物・もの(article)を異なる状態または物体へ変換していること

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