中国特許判例紹介:中国における補正の範囲(第2回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における補正の範囲(第2回)

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中国特許判例紹介:中国における補正の範囲(第2回)

~意見書の記載を考慮して補正の範囲を判断した事例~

河野特許事務所 2011年6月8日 執筆者:弁理士 河野 英仁

        セイコーエプソン株式会社

                              一審原告、二審上訴人

                v.

        知識産権局専利復審委員会

                              一審被告、二審被上訴人

3.高級人民法院での争点

争点:意見書における主張が補正の根拠とされるか

(1)請求項1について

 原告は審査段階において、請求項1の「半導体メモリ装置」を「メモリ装置」と補正した。

 

 復審委員会および北京市第一中級人民法院は、「メモリ装置」は、普遍的な意味を包含し、半導体メモリ装置だけでなく、磁気バブルメモリ装置、強誘電体メモリ装置等数多くの異なる類型をも含むと述べた。また、800特許の当初明細書及び請求項中に記載されているのは半導体メモリ装置だけであり、その他の種類のメモリ装置は記載されていなかった。

 

 当業者は必ずしも原明細書及び請求項に記載された「半導体メモリ装置」から、直接的に、疑う余地も無く「メモリ装置」を確定できるとはいえないことから、当該補正は新規事項追加に該当すると結論づけた。

 

(2)請求項8について

 原告は、請求項8について、当初明細書及び図面中に記載された「回路基板及びその上に設置された半導体メモリ装置」の記載に基づき、当初明細書および請求項に記載のない「記憶装置」を追加する補正を行った。なお、「記憶装置」の文言は当初明細書および請求項には記載されていなかった。

 

 復審委員会および北京市第一中級人民法院は、請求項1と同様に、「記憶装置」も、「半導体メモリ装置」から直接的に、疑う余地も無く「記憶装置」を確定できるものとはいえないことから、新規事項追加に該当すると結論づけた。

 

 原告は審査段階で提出した意見書において、「「メモリ装置」は図7(b)に示す「半導体メモリ装置61」と解釈している」と記載しており、また「記憶装置」に関しても、意見書において明確に限定を行っていた。

 

 「半導体メモリ装置」の半導体を削除し「メモリ装置」とすること、半導体メモリ装置に基づき、何ら記載のない「記憶装置」とすることは、実務上新規事項追加のリスクが高い補正といえる。このような状況下において、出願段階で提出した意見書による陳述がどの程度補正の新規事項追加の判断に影響を与えるか否かが争点となった。

 

 

4.北京市高級人民法院の判断

意見書の記載のみを補正の根拠とすることはできないが、参酌することはできる。

 北京市高級人民法院は、各請求項の補正の適否判断に入る前に、補正の原則について述べた。

 

 専利法第33条は、「出願人は、その特許出願書類について補正することができる。ただし、発明及び実用新型の特許出願書類の補正は、原明細書及び特許請求の範囲に記載された範囲を越えてはならない。」と規定している。

 

 また、特許法実施細則第42条第1項は

「一件の特許出願に二つ以上の発明、実用新案又は意匠が含まれる場合、出願人は本細則第54 条第1項に規定した期間の満了前に、国務院特許行政部門に分割出願をすることができる。」と規定しており、

 

 実施細則第43条第1項は

「本細則第42 条の規定に基づいてなされた分割出願は、元出願日が留保され、優先権を有する場合は優先日が維持されるが、元出願に記載された範囲を超えてはならない。」

と規定している。

 

 以上の法規に基づけば、範囲を超えるか否かを確定する基準は当該補正が、

「当初明細書および請求項の範囲を超える」か否か、および、

「原出願公開の範囲」を越えるか否かにある。

 

 すなわち、当業者が当初明細書および請求項を見た際に、当該書類の記載内容から直接的に、疑う余地も無い補正内容であるか否かである。この点は、上述した審査指南に規定されているとおりである。

 

 本事件では、さらに北京市高級人民法院は一歩踏み込んで以下のとおり述べている。

 

「補正範囲を超えるか否かを判断する場合、補正後の技術方案[1]新たな技術方案を構成しているか否かに注意する必要がある。その他、出願人が特許取得過程において意見陳述したことも、その補正が範囲を超えるか否かの参考とできる。しかしながら、当該意見は補正がその範囲を超えるか否かの唯一の判断依拠とすることはできない。」

 

 以上の原則に基づき、請求項1および8の補正の適否について判断を行った。



[1] 専利法に用いられる「技術方案」(例えば専利法第2条第2項)に対応する適切な日本語訳は存在しないため、本稿では原文のとおり使用している。なお、英語訳は” Technical Solution”である。

(第3回へ続く)

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