米国特許判例紹介:機能的クレームに対する記載要件(第3回) - 特許・商標・著作権全般 - 専門家プロファイル

河野 英仁
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米国特許判例紹介:機能的クレームに対する記載要件(第3回)

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米国特許判例紹介:機能的クレームに対する記載要件(第3回)

~ソフトウェア特許の構造とは~

In Re Kats Interactive Call Processing Patent Litigation, LLC,

河野特許事務所 2011年6月3日 執筆者:弁理士  河野 英仁

 

(4)本事件の機能クレーム

 CAFCは以上3事件の判示事項に基づき

状況に応じて着信とオペレータ端末とを対応付けする処理手段」について分析を行った。状況に応じて着信を対応付ける処理についてプログラミングする場合、条件付けが必要となる。

 

 明細書には具体的なアルゴリズムが開示されておらず、これでは第3者はクレームがカバーする範囲を理解することができない。すなわち、(i)オペレータ端末の利用度合い等、特定のシステム状態に基づく対応付けだけをカバーしているのか、或いは、(ii)「If-Then」制御文によるいかなる対応付けをもカバーしているのか判断することができない。

 そうすると、クレームは、「公衆への通知機能[1]」を要求する米国特許法第112条パラグラフ2[2]の、

「発明を特に指摘して、かつ、明確に請求」

しなければならないとする要件を具備しない。

 

 以上のとおり、CAFCは、531特許のクレーム21及び23、065特許のクレーム13が不明確であるとした地裁の判断を支持した。

 

 

特別なプログラミングなしに達成される機能は、アルゴリズムを記載する必要はない

 反対にCAFCは、863特許のクレーム96,98,99、551特許のクレーム19、285特許のクレーム61についても不明確であるとした地裁の判断を無効とした。

 

 地裁は上述した3事件は、

「明細書は、主に汎用コンピュータにより実行されるいかなる機能に対してもアルゴリズムを開示しなければならない」ことを要求していると解釈した。CAFCは、当該解釈は余りに制限的であると述べた。

 

 争点となった7つのクレームにおいては、特別な目的のコンピュータにより実行される特別な機能をクレームしておらず、むしろ単に、クレームされた「処理“processing”」、「受信“receiving”」及び「記憶“storing”」機能に言及しているにすぎない。

 

 文言「処理」、「受信」及び「記憶」に対してクレーム中に特段の狭い解釈が存在しないとすれば、これらの機能は、特別なプログラミングなしに、いかなる汎用コンピュータによっても達成される。

 

 CAFCは、これらの機能を実行する汎用プロセッサ以上のさらなる構造を開示する必要はないと判示した。さらに、争点となったクレーム「処理」、「受信」及び「記憶」の機能は、汎用のプロセッサの機能と変わるところがないことから、米国特許法第112条パラグラフ2の要件を満たすと結論づけた。

 

 

5.結論

 CAFCは、551特許のクレーム21,33、065特許のクレーム13については、不明確であるとした地裁の判断を支持したが、863特許のクレーム96,98,99、551特許のクレーム19、285特許のクレーム61については、不明確であるとした地裁の判断を無効とした。

 

 

6.コメント

 汎用コンピュータ上で動作するソフトウェア発明において、機能的なクレームを記載した場合、実施例には対応する構造として、最低限ハードウェアであるプロセッサを記載しなければならない。その上で、ソフトウェア処理の内容に応じて、アルゴリズムの記載の要否を判断する。

 

 本事件で判示されたとおり、クレームの各構成要件の全てについてアルゴリズムを記載する必要はないが、発明の新規な局面となる構成要件、特別なプログラミングが必要となる構成要件、及び、カバーする範囲が当業者にとって不明確となる構成要件についてはフローチャートを用いて詳細なアルゴリズムを記載しなければならない。発明内容・時間・コストに応じて適切にアルゴリズムを記載することが明細書作成者に要求される。

 

 本事件では機能クレームにおける明細書の記載要件が争点であったが、アルゴリズムを詳細に記載しておけば、新規性及び非自明性を理由に拒絶された場合でも、先行技術と差別化するための補正の根拠とすることができる。かかる意味においても、丁寧なアルゴリズムの記載を心がけるべきである。

 

 USPTOは2011年2月9日に「コンピュータ関連発明の機能的クレームに対する審査ガイドライン」[3]を公表しており、本事件と同様の注意点を喚起している。

 

 なお、原告は31の特許による合計1,975のクレームを用いて、多数の企業を特許権侵害として提訴し、注目を浴びた事件である。

 

判決 2011年2月18日

以上

【関連事項】

判決の全文は連邦巡回控訴裁判所のホームページから閲覧することができる[PDFファイル]。

http://www.cafc.uscourts.gov/images/stories/opinions-orders/09-1450.pdf


[1] Praxair, Inc. v. ATMI, Inc., 543 F.3d 1306, 1319 (Fed. Cir. 2008)

[2] 米国特許法第112条パラグラフ2

 明細書は,出願人が自己の発明であると信じる主題を特に指摘して,かつ,明確に請求する1以上のクレームで終わらなければならない。

[3] 拙稿「コンピュータ関連発明の機能的クレームに対する審査ガイドライン~米国特許法第112条審査ガイドライン公表される~」知財ぷりずむ 経済産業調査会2011年4月号、詳細は、http://www.knpt.com/contents/cafc/2011.02.18/2011.02.18.pdf

を参照されたい。

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