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河野 英仁
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中国特許判例紹介:中国における均等論の解釈(第1回)

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中国特許判例紹介:中国における均等論の解釈(第1回)

~均等論の解釈と環境技術に対する差止の拒否~

河野特許事務所 2011年5月16日 執筆者:弁理士 河野 英仁

        深セン市斯瑞曼精細化工有限公司

                               一審原告、二審被上訴人

                    v.

        深セン市康泰藍水処理設備有限公司

         深セン市平湖自来水有限公司

                                  一審被告、二審上訴人

1.概要

 特許権侵害の判断にあたっては請求項に記載された文言どおりに解釈するのが原則である[1]。しかしながら、文言解釈を厳格に適用した場合、文言に合致しない迂回技術を採用することで第3者が容易に特許の網をすり抜けることができてしまう。

 

 このような不合理を回避するために、請求項の文言に加え、これと均等な範囲にまで権利範囲を拡張する均等論が存在する。中国においても均等論(中国では等同論という)が存在し、その適用条件は後述するように米国の均等論に類似する。

 

 米国と同じく数多くの事件において均等侵害が人民法院において認められている。本事件においては飲料水の消毒に用いる二酸化塩素の製造設備に発明特許権が付与されており、均等侵害が成立するか否かが争点となった。

 

 中級人民法院及び控訴審である高級人民法院共に異なるアプローチで均等侵害を認めた。その一方でイ号製品は既に稼働しており、これを差し止めるとすれば環境に悪影響を与えることから差し止め請求を否定した[2]

 

 

2.背景

(1)特許の内容

 深セン市斯瑞曼精細化工有限公司(以下、原告)は、「高純度二酸化塩素調製設備」と称する発明特許第200610033211.0(以下、211特許という)を所有している。二酸化塩素は水道水の消毒に用いられる。本発明は高純度で二酸化塩素を生成し、水道水の消毒コストを低減せんとするものである。

 

 原告は、2006年1月19日中国国家知識産権局に、発明特許出願を行い、2009年1月21日に特許が成立した。参考図1は、211特許の主要図である。

 

参考図1 211特許の主要図

 

 争点となった請求項1は以下のとおりである。

1.高純度二酸化塩素調整設備において、

 2路パイプラインを通じて順次連接される第一液体計量槽(1)及び第一計量ポンプ(3)、第二液体計量槽(2)及び第二計量ポンプ(4)、該2路に接続されるベンチュリ管装入器(8),最後に連接される気液分離器(12)と、

 ベンチュリ管装入器(8)の入口端は第一空気入口(7)に対して連接され;

 第一計量ポンプ(3)及び第二計量ポンプ(4)と、ベンチュリ管装入器(8)との間のパイプライン上にそれぞれ設けられる第一加熱器(5)及び第二加熱器(6)。

 

(2)被告らの行為

 深セン市康泰藍水処理設備有限公司(以下、被告X)は、二酸化塩素発生設備を製造している。被告Xは深セン市平湖自来水有限公司(以下、被告Y)の求めに応じて被告Xの二酸化塩素発生設備(以下、イ号製品という)を被告Yに販売した。被告Yは被告Xから1基あたり21万元にてイ号製品を2基購入した。

 

 被告Xは被告Yのためにイ号製品を設置すると共に、設置後も、メンテナンス、技術支援及びアフターサービスを行うことを約束した。

 

(3)広東省深セン市中級人民法院への提訴

 2009年3月16日、原告は、被告Xが製造販売するイ号製品、及び、被告Yが深セン市にて使用するイ号製品が特許権を侵害するとして広東省深セン市中級人民法院(以下、中級人民法院という)へ、提訴した。

 

 原告は製造・販売業者である被告Xに対するイ号製品の製造及び販売の差し止め、イ号製品を使用している被告Yの使用行為の差し止めを求めた。また原告は被告X及びYに対し30万元(約390万円)を損害賠償金として支払うよう求めた。

 

(4)被告の無効審判請求

 2009年4月28日被告Xは対抗手段として復審委員会に無効宣告請求を行った。被告Xは211特許が創造性[3]を欠くと共に、記載要件を具備しないと主張した。復審委員会は被告Xの主張を退け、発明特許は有効であるとの審決をなした。

 

(5)中級人民法院の判断

 2009年4月21日原審法院は、原告の申請に応じて、被告Yの工場に赴き、被告Yが現在使用しているイ号製品に対する証拠保全[4]を行った。

 

 訴訟過程において、原告、被告X及び被告Yは、被告Yの深セン市にある被告Yの設備について技術比較照合を行う点同意した。2009年11月17日中級人民法院の指揮下、原告、被告X及び被告Yは、現場に行き被告Yの設備について観察し、比較照合し、かつ各自対応する書面意見を提出した。

 

 中級人民法院はイ号製品が請求項1の「気液分離器」12を文言上備えないことを認めた上で、均等侵害を認めた。そして中級人民法院は被告Xに対し速やかにイ号製品の製造及び販売を停止するよう命じた。また、被告X及び被告Yは連帯して判決効力発生日から10日以内に10万元を支払えとの判決を命じた。

 

 一方で、被告Yに対しては使用行為に対する特許権侵害が成立するにもかかわらず、使用行為の差し止めを認めなかった。その理由として、被告Yの実施技術が水の消毒、浄化処理等の社会公共利益に関わる点を挙げた。仮に、被告Yがイ号製品の使用を停止するとすれば、何かしらの程度、社会公益に影響を与える。以上のことから、中級人民法院は被告Yの既に使用中のイ号製品について、差し止めを認めなかった[5]

 

 被告X及び被告Yは中級人民法院の判決を不服として広東省高級人民法院(以下、高級人民法院という)へ上訴した。


[1] 専利法第59条第1項 発明又は実用新型特許権の技術的範囲は、その請求項の内容を基準とし、明細書及び図面は請求項の内容の解釈に用いることができる。

[2] 広東省高級人民法院2010年11月15日判決(2010)粤高法民三終字第445号

[3] 創造性は日本でいう進歩性に相当する。専利法第22条第3項

[4] 民事訴訟法第74条 証拠が消滅する可能性がある場合、或いは、その後取得が困難になる可能性がある場合、訴訟参加人は人民法院に対し証拠保全を申し立てることができ、人民法院はまた自ら保全措置をとることができる。

[5] 広東省深セン市中級人民法院判決(2009)深中法民三初字第95号

(第2回へ続く)

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