(続き)・・さてノルアドレナリンがストレス等の刺激に反応して分泌されるの対し、セロトニンはストレスの程度に関わらず常に一定のリズムで分泌される、という特徴があります。規則正しく分泌されるセロトニンが、ドーパミン神経やノルアドレナリン神経の過興奮を抑え、脳全体の活動のバランスを整え「平常心」を維持する、という役割りを担っています。
従ってそのようなセロトニン神経の機能を向上させ、脳全体のバランスを整えることが、ストレスへの耐性を高め、心の健康を維持するためにはたいへん重要です。それでは、どのようにすればセロトニン神経の機能を向上させることが出来るのでしょうか。
セロトニンの規則的な分泌のリズムを形作っている要素の一つに、「睡眠と覚醒」のサイクルがあります。セロトニン神経は、覚醒時には1秒間に2~3回の頻度でインパルスを出し続けており、睡眠時にはその頻度がぐっとまばらになります。そして朝になり目覚めると再びインパルスの頻度が増して、爽快な目覚めが得られます。
そのような日常のサイクルは、夜更かしや不規則な生活によって攪乱され、セロトニン神経の機能が低下してしまいます。このサイクルを健全に保つ上で非常に大切なのが「朝日」です。朝日を浴びることによって睡眠と覚醒のリズムがリセットされ、セロトニン神経の機能が維持されて心の健康をもたらすのです。
我々人類は何百万年という長い年月にわたって、睡眠や覚醒のサイクルはもとより、自律神経やホルモンのサイクルも「太陽の光」によってリズムが刻まれてきました。事実ほんの数十年前まで、殆んどの人は日の出とともに起き、日没とともに寝ていました。そのようなサイクルが乱れたことが、現代人に心の病が多発している原因の一つになっているのです。
従って我々は、太陽の光のサイクルに基づいたナチュラルな生活習慣を、もっと身に着けるべきでしょう。具体的には、起床したら朝日を部屋いっぱいに取り込み、外ではなるべく日の当たる場所を歩き、ウォーキングやジョギングなどのアウトドアスポーツに取り組むことなどが勧められます。
セロトニン神経の機能を向上させるもう一つの方法は「リズム運動」です。一定のリズムに合わせて体を動かすことによって、セロトニンの規則正しい分泌機能が高まります。リズム運動は特別な運動ではなく、我々は日常的にこれを行なっています。
一番身近なのは「呼吸」で、腹筋を用いた腹式呼吸が最も効果が高いとされています。呼吸法を応用したのが座禅や瞑想で、お経を上げたり念仏を唱えることも、広い意味で呼吸法に含まれます。座禅や瞑想などによって不思議と気持ちが和らぐというのは、一つにはセロトニン神経の機能向上と関係しています。
より運動らしいものとしてはウォーキングやジョギング、マラソン、サイクリング、水泳、ダンス、エアロビクスなどが挙げられます。走り続けた時に、一定の時間が過ぎると一種の快感を得られることがあるのは、脳内モルヒネといわれるβエンドルフィンが分泌されることと伴に、セロトニン神経が活性化することが関係しているものと考えられます。
但しこのような運動は、過度に行なうとかえってノルアドレナリンが分泌され、ストレスになってしまいます。従って無理のない程度に留めることが肝要です。体力や年齢にもよりますが、初心者の場合はウォーキングならば1時間以内、ジョギングならば30分以内に、というのが一つの目安です。
一方で、溜まったストレスを一気に解消する方法の一つとして、涙を流すことが挙げられます。前頭葉の発達した人類の大人はストレスが溜まりやすい運命にありますが、共感する能力を獲得したことに伴い、「感動の涙」を流すことが可能になりました。この能力は動物や子供にはないもので、まさに人間の大人だけがもつ特権といえます。
感動の涙を流す瞬間、「共感」の感情にかかわる前頭前野の血流量が劇的に増加し、涙腺に分布する副交感神経のスイッチがオンになります。それによってストレスが一気に解放されるのです。この作用は、大笑いすることよりも強力だとされています。
我々現代人は様々な文化的な制約を受けて、涙を流す機会が減っています。特に日本人男性にはその傾向が顕著です。大の大人が人前で泣けない、という心理的な制約もありますし、無分別に泣いては周囲に迷惑となってしまいます。また毎日のように泣いては、とても体力がもちません。
そこで定期的に映画を見たりして、意図的に感動の涙を流す、ということが勧められています。日頃は楽しく笑って活力を補い、週末などに思いっきり感動の涙を流してストレスを一掃する、といったメリハリのあるストレス解消法がよさそうです・・(続く)
このコラムの執筆専門家
- 吉野 真人
- (東京都 / 医師)
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