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コンピュータ関連発明の機能的クレームに対する審査ガイドライン(第4回)
~米国特許法第112条審査ガイドライン公表される~
河野特許事務所 2011年4月27日 執筆者:弁理士 河野 英仁
(4)CS関連発明の機能的記載に関する明細書の実施可能要件(enablement requirement)
(i)実施可能要件を満たすか否かの判断原則
米国特許法第112条パラグラフ1に規定する実施可能要件を満たすためには、明細書で、クレームされた発明の全範囲を実行及び使用する方法を「過度の実験(undue experimentation)」の必要なしに当業者に教示しなければならない。
(ii)Wands事件[1]
Wands事件においてCAFCは、過度の実験の必要性を判断する際に考慮すべき点として以下を挙げている。
(a)クレームの広さ、
(b)発明の性質、
(c)先行技術の状態、
(d)当業者のレベル、
(e)当該分野での予測可能性のレベル、
(f)発明者が提供する方向性の量、
(g)実施例の有無、
(h)開示内容に基づいて発明を実行または使用するのに必要な実験の数
過度の実験は、単一の事実に基づいて判断するものではなく、考慮すべき事実をすべて比較検討することによって、結論が導かれる。
(iii)機能的記載によりクレームの範囲が広すぎる場合
クレームが、クレームされた機能を発揮するための特定の構造に何ら限定されていない場合、機能的クレームを用いることによってクレームが広くなる可能性がある。このような広いクレームは記載された機能を行う全ての装置を包含することとなり、開示によって当業者に提供される実施可能性の範囲と、クレームにより請求する保護の範囲とが一致しないという問題が生じる。広いクレームの文言を提示する場合、出願人は、クレームが完全に実施可能であることを確実にしなければならない。具体的には、クレームの範囲は、明細書によって提供される実施可能性の範囲以下でなければならない。
例えば、Sitrick事件[2]におけるクレームには、ユーザの音声信号または視覚映像を既存のビデオゲームまたは映画に「取り入れる(integrating)」または「置き換える(substituting)」ことが記載されていた。これらのクレームはビデオゲームと映画の両方を包含するが、明細書では、ユーザの画像をビデオゲームに置き換えて、取り入れる方法しか教示していなかった。
CAFCは、過度の実験なしに、当業者がユーザの画像を映画中の登場人物の画像と置き換えることはできないことから、明細書はクレームの全範囲を実施可能としていないと指摘した。具体的にCAFCは、映画はビデオゲームとは異なり、登場人物を簡単に切り離すような機能を持たないことから、当業者は明細書中のビデオゲームに関する教示を映画に適用することはできないと判示した。
登場人物機能をユーザの画像と置き換え、取り込むことを映画において達成する方法が、明細書中に教示されていなかったことから、これらのクレームは実施可能性がないと判断されたのである。
(iv)周知事項の記載の程度
明細書では、当該分野で周知の事項について教示する必要はないが、出願人は、クレーム発明の新規局面(novel aspect)を実施可能とするために必要な情報について、実施可能にするための知識(knowledge)が実際は当該分野で公知でない場合、当業者の知識に依拠することができない。
CAFCは、「適切な実施可能性を構成するために発明の新規局面を補足すべきものは、明細書であり、当業者の知識ではない」と指摘している。さらに、当該分野で周知の事項については明細書で開示する必要はないという原則は「単に補助的な原則であり、基本的な実施可能性の開示に代わるものではない」と述べた。従って、明細書はクレームされた発明の新規局面を実施可能にするために必要な情報を含まなければならない。
例えば、Auto.Tech事件[3]における発明は、「前記塊(mass)の動きに応答する手段」は、居住者保護装置を起動する機能を実行するための機械的な側突センサと電気的な側突センサの両方を含むと解釈された。しかし明細書には、電気的な側突センサに関する詳細または回路についての考察は何ら開示されておらず、電気的なセンサの製造及び使用法を当業者に伝えていなかった。この発明の新規局面は側突センサにあったことから、特許権者は、欠如した情報を補足するために当業者の知識に頼ることができず、実施可能要件を満たさないと判断された。
(v) 米国特許法第112条パラグラフ1に規定する実施可能要件の審査基準
明細書によってクレームの全範囲が実施可能でない場合、実施可能性の欠如として、米国特許法第112条パラグラフ1に基づく拒絶理由を出さなければならない。審査官は、クレーム発明について提供された実施可能性を疑問視する際の合理的な基準を確立すべきであり、またその実施可能性の不確実さに対して理由を提示しなければならない[4]。
[1] In re Wands, 858 F.2d 731, 736–37 (Fed. Cir. 1988)
[2] Sitrick v. Dreamworks, LLC, 516 F.3d 993, 999 (Fed. Cir. 2008)
[3] Auto. Techs. Int’l, Inc. v. BMW of N. Am., Inc., 501 F.3d 1274, 1283 (Fed. Cir. 2007)
[4] 実施可能性の要件に関するさらなる情報については、MPEP§2161.01, 2164.01(a)-2164.08(c)参照。コンピュータプログラミングの事例については、2164.06(c)を参照。
(第5回へ続く)
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